捨てられる花を減らせ

捨てられる花を減らせ
「曲がった野菜は市場に出せない。花も同じ」――ある花農家の言葉です。

美しさで空間を彩り、癒やしを与えてくれる花。その一方で、消費者に届く前に人知れず廃棄される花があります。どうしてフラワーロスは起きるのでしょうか。

(報道局経済部 長野幸代/首都圏ネットワーク 井上聡一郎)

規格外になった花 その行方は

神奈川県厚木市のカーネーション農家、大貫亘さんです。
カーネーションを栽培して30年。5月にかけて出荷のピークを迎えます。

取材に訪れた3月下旬、大貫さんは出荷に向けた選別作業を行っていました。

茎の長さ、太さ、柔らかさ、そして曲がり具合。花のついている数から花びらの具合まで。いくつもの項目をチェックし、すべてを満たした花だけが商品として市場に出荷されます。
出荷量は年間およそ30万本から35万本。

茎が曲がらないよう、成長に応じてネットを張ったり、芽を摘んだりと1本1本、大切に育てていますが、それでも収穫した花のおよそ2割は規格外になってしまうといいます。
大貫さん
「規格について、消費者の方からは分からないと思われる部分があるかもしれないですね。でも、私たちが市場に出して最終的に買っていただくのは花屋さんで、花屋にとって使いづらいものはやっぱり規格外なんです。例えば、茎が細いとまっすぐに立たなくて生けづらい。規格を満たしていないと、花屋さんの使いみちが限定されてしまうんですよ」

最終的には廃棄

規格外になった花は、野菜の直売所など市場とは別のルートで卸されることもありますが、価格は市場に出荷した場合の2割ほどまで下がってしまいます。

それでもさばけない花は、最終的には捨てるしかないといいます。
大貫さん
「使いづらい規格外の花を出荷してしまうと、その農家の信用、評価に関わります。仮に規格を甘くして出荷本数が増えても、その分、単価は下がってしまいますよね。規格外でも同じように手間暇かけているのでもったいないですが、仕方ありません」
首都圏のある生花店の経営者は、次のように話していました。
生花店の経営者
「茎の長さやつぼみの数は、個人の消費にはあまり関係ありません。ただ花屋の立場からすると、個人より企業などからの需要の方が多いので、茎の長さもそうですが、規格を満たしている花の方が、装飾の時にいろいろなアレンジがしやすいというのが本音です」

生花店でも一定のロス

厳しい規格をクリアして市場に出された花。さまざまな流通過程を経て、ようやくたどりついた生花店でも、一定のロスは出てしまいます。

たとえば、母の日の赤いカーネーションや、クリスマスのポインセチアやバラ。当日に向けて一気に需要は高まりますが、翌日にはその需要はほとんどなくなってしまいます。

事前にその需要を確実に想定することは難しいのが現状です
生花店では、値引き販売などさまざまな工夫が行われていますが、売れ残りや傷みは避けられず、一定程度のロスが出てしまいます。

日本フローラルマーケティング協会によりますと、花の廃棄は生産段階で2割から3割ほど。生花店でのロスは、一般的に仕入れた花のおよそ3割ほどとみられるとしています。

こうした割合は、個人の需要が多い欧米より高い水準にあると協会はみています。
日本フローラルマーケティング 協会 松島義幸事務局長
「日本では、花の需要の7割が冠婚葬祭やイベントなどの業務用で、個人の需要はおよそ3割にとどまっています。欧米は7割が個人の需要なので、さまざまな規格があり、例えば茎が短い花も流通しています。そのため生産段階のロス率も、日本と比べて格段に低いとみられています」
こうした廃棄率の高さが、個人の購入に影響を与えるという指摘もあります。
矢野経済研究所 アグリ・食糧グループ 廣瀬愛 上級研究員
「現在、イベント需要や業務用需要は回復基調にあるが、花き業界ではコロナ禍以前から廃棄率が問題になっていました。廃棄率が高くなれば、結果として花の販売価格が高くなり、その影響として購入に対する心理的な敷居が高くなり、新規の購入者が増えないという悪循環を生んでしまいます」

カギ握る個人需要

いったいどうしたら、廃棄される花の量が減るのか。取材を進める中で、関係者が解決のカギだと口をそろえたのが、”個人需要”の喚起です。
日本フローラルマーケティング協会は、若い世代が花を購入するきっかけを作る催しを開いたり、生産・流通・小売りのそれぞれの段階で、品質を管理する認証制度を設けたりしているほか、日持ちの保証販売を推進するなどして家で花を長く楽しめるよう取り組んでいます。

花に親しむきっかけを作る

都内で生花店を営む松野ゆかりさんは、規格外の花の販売を通じて、花に親しむきっかけを作ろうという取り組みを進めています。
この日、松野さんが花を並べていたのは、自身の生花店ではなく、服のリサイクルショップの店頭です。

花はすべて農家から買い取った規格外のもの。バラやチューリップなど、さまざまな種類の花を1本200円で販売しています。
Hanavie 松野ゆかり代表取締役
「お花はもらったら嬉しいけど、なかなか買うきっかけがないという方も多いです。もっと気軽に花を飾ってもらえるようにしたいと考えていたところ、規格外の花に出会いました。鑑賞には全然問題ないのに、捨てられちゃうのはもったいない」
普段行く店や通りかかる店に割安な花があれば、手に取るきっかけになるかもしれないと考えました。
今では、ケーキ屋やジュエリーショップなど20店舗で定期的に販売しています。

協力する店側にもメリットがあるといいます。
服のリサイクルショップの担当者
「今まで来店されていない層のお客様も、店頭にお花があると入りやすいイメージを持っていただいてすごく良かったと思っています。花があると外から見て華やかなので、プラスになっています」
冒頭に紹介したカーネーション農家の大貫さんも、今は毎週この取り組みに花を卸しています。
松野ゆかり代表
「花は生き物なので、ロスを0にすることは難しいと思います。でも、お花を飾ることが日常になれば、需要が増えて、行き先がなく残ってしまうお花も少なくなっていくと思います。いろいろな形で活用して、ロスが少なくなっていくといいなと思います」

花を“別のかたち”に

規格外の花や仲卸で売れ残った花を買い取り、ドライフラワーに加工する企業もあります。

都内の企業では、染料を吸い上げさせて色を付けるなどして、ドライフラワーの状態でも花の鮮やかな色を長期間保てる工夫をしています。
ドライフラワーは、イベントやホテルなどの空間装飾、ブーケやキャンドルなどに活用されています。
最近では、家具などに使われる板材を、商社などと共同で開発しました。表面をドライフラワーでアレンジすることで、デザイン性を高めています。
RIN 河島春佳CEO
「ドライフラワーという加工によって活用方法が広がり、幅広い可能性を感じています。いろいろな企業と花き業界の垣根を越えて、花の命を長く、大切に使える商品を生み出していきたいです」

結婚式の花も再利用

全国に70あまりの生花店を展開する日比谷花壇。4月1日から、結婚式場などを運営する会社と協力して、披露宴の会場の飾り付けに使われた花を、再利用する取り組みを始めました。

披露宴で使われた花のうち、およそ半分は列席したゲストが持ち帰ります。ただ、残された花は、法律などに基づいて廃棄しなければなりませんでした。

今回のプロジェクトでは、花の二次利用について承諾が取れた場合、施設のロビーやレストランの装飾に使うほか、ドライフラワーに加工して商品化することにしています。
これによって、年間13万本の花を再利用する目標です。

今回の取材を進める中で、多くの関係者から聞いたのが「花は生活必需品ではないけど…」「花よりだんごの時代だけど…」という言葉でした。

私たちの暮らしに彩りを与えてくれる花が、ただ捨てられていくのを少しでも食い止めたい。“もったいない”を減らそうという、様々な取り組みの今後に注目したいと思います。

※3月30日「サタデーウオッチ9」で放送
経済部記者
長野幸代
2011年入局
岐阜局 鹿児島局 経済部
「サタデーウオッチ9」を経て現所属
ディレクター
井上 聡一郎
「サタデーウオッチ9」などの制作に携わったのち、2024年4月より「首都圏ネットワーク」を担当