奥能登 建物被害認定の再調査 進み具合に自治体間で大きな差

能登半島地震によって被災した建物の修繕などで、公的支援を受けるのに欠かせない「り災証明書」などの発行には、調査に基づく被害認定が必要ですが、認定を不服とした場合には再調査の申請が可能です。今回の地震で大きな被害を受けた石川県の奥能登地域では、この再調査の進捗(しんちょく)に自治体間での大きな差が生じていることが分かりました。

被災した建物の調査は国の基準に沿って市町村が行い、「全壊」「半壊」「一部損壊」などの被害認定をもとに、住宅には「り災証明書」、住宅ではない建物には「被災証明書」が発行されます。

証明書は、建物の解体や修繕などで公的支援を受けるのに必要で、石川県の奥能登地域にある輪島市、珠洲市、能登町、穴水町の4つの市と町では、ほとんどの地域で調査が行われています。

これまでに合わせて5万1000件以上の証明書が発行されていますが、このうち13%にあたるおよそ7000件では、被災した人たちが認定を不服として再調査を求めています。

最初の調査は外観の目視が中心ですが、再調査では被災者の立ち会いのもとで内部の損傷なども確認され、被害認定が重くなるケースもあります。

NHKが奥能登地域の4つの市と町に取材したところ、先月27日の時点で、再調査を終えて証明書が再交付されているのは、輪島市で2915件の申請があったうち2.6%にあたる76件で、能登町では1150件の申請に対し、再交付はまだ行われていませんでした。

一方、珠洲市では2433件の申請のうち65%にあたる1588件、穴水町ではおよそ400件のうち90%程にあたる371件と自治体間で再調査の進捗に大きな差が生じていることが分かりました。

こうした状況について輪島市は、「被災した建物の数が多く、時間がかかっている」としています。

また能登町は、「およそ200件で再調査を済ませて証明書の交付の準備を進めている。ほかの再調査も順次進めていきたい」としています。

珠洲市 “去年の地震の教訓生かし調査”

珠洲市では、去年5月に震度6強を観測した地震の際、被災者の申請を受けてから建物の調査や被害認定を行いました。

その結果、証明書の発行に時間がかかったことが課題となり、今回は地震発生から4日後の1月5日には、申請を待たずに市内のすべての建物を調査することを決め、14日には一斉に調査を始めました。

調査の実施は、過去の災害で経験がある熊本県や長崎県などからの応援職員が中心となり、2月下旬には市内のほとんどの地域で最初の調査を終えたということです。

一方で最近は、再調査の被害認定にも不服があるとして、「再々調査」の申請もあり、珠洲市にはすでに90件以上寄せられているということです。

珠洲市税務課の高橋武夫課長は、「去年の地震の教訓を生かし、調査は順調に進んでいると思っています。『再々調査』では、専門知識のある土地家屋調査士にも入ってもらって調査する方向で検討しています」と話していました。

輪島塗の職人「なるべく早く調査を」

輪島塗に使われる木を加工する職人「木地師(きじし)」の蔵田満さん(65)は、輪島市の工房を併設した自宅が地震で被害を受けました。

地盤が下がって建物の基礎の一部がむき出しになり、奥にある工房は床が傾いた状態になっています。

このため、作業台が水平になるよう調整しながら、木を削ったり曲げたりする細かい作業を行うことを余儀なくされています。

建物の被害は、市による最初の調査で「一部損壊」と認定されましたが、蔵田さんはこれを不服として2月に再調査を申請しました。

再調査で「半壊」などと認定が変われば、修繕費の一部が公費負担の対象となる可能性がありますが、現在の認定のままではほとんどが自己負担になるため、蔵田さんは再調査を待って修繕を行うつもりです。

しかし、再調査を申請してから1か月以上たっても、調査がいつ行われるのか分からないということです。

蔵田さんは「一日でも早くなりわいを元の形に戻すのが支援に来てくれた人への恩返しだと思います。なるべく早く調査してもらい、修繕に向けて動き出したいです」と話していました。

専門家「自治体どうしの連携 県の調整やサポート必要」

地域によって再調査の進捗に差が出ていることについて、地震防災が専門の名古屋大学の福和伸夫名誉教授は、周辺の自治体どうしの連携や、県による調整やサポートが必要ではないかと指摘しています。

福和名誉教授は、建物の調査や被害認定はほかの自治体からの応援職員が担うことが多いとしたうえで、「限られた応援職員でどの業務に重心を置くのか、自治体の判断が分かれた可能性がある。復旧復興に向けて、どういった優先順位でバランスを保って業務を進めていくのか考えるのにあたって、大変勉強になる事例だ」と述べました。

そのうえで、「自治体ごとに対応に差が生まれると、被災者にとってあまりいいことではない。周辺の自治体で連携して被害の大きさに応じて互いに支援することや、県が地域ごとのでこぼこを調整し、不足する力をサポートする必要がある」と指摘しました。