静岡 川勝知事 辞職の意向表明 不適切発言の批判受けた会見で

静岡県の川勝知事は、新人職員への訓示の中で職業差別とも捉えられかねない発言をしたことを受けて、2日夜、県庁で記者会見し「ことし6月議会をもって職を辞そうと思う」と述べて辞職する意向を表明しました。

静岡県の川勝知事は1日、県の新人職員に訓示し、この中で「県庁というのは別のことばで言うとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたりするのとは違って、基本的に皆さんは知性が高い方たちです」などと発言しました。

この発言が、職業差別発言とも捉えられかねないとして波紋が広がり県には、批判や苦情などが殺到しました。

県の広聴広報課によりますと、2日午後5時までに電話やメールなどで430件、寄せられ「発言は許せない」とか「農業をばかにしているのではないか」など、すべて否定的な意見だということです。

【詳しく】記者会見での発言

こうした状況を受けて、川勝知事は2日午後6時から、静岡県庁で記者会見しました。

川勝知事は冒頭で、1日に発言した内容の真意を問われたのに対し「職業差別は皆無です。職業に貴せんはないというのは基本的な考え方です。新規職員として入庁した方々への歓迎と励ましのことばが、何か問題発言があったかのごとき状況になって 本当に驚いています」と述べました。

そして「公務員として人の役に立つようなことを考えなくてはいけない、しっかり知性を磨いてくださいという意味のことを言った。県知事になり、どの職業の方たちも大切で、県民すべてが大切であるということでやってきたので、もし不愉快な思いをされた方がいれば誠に申し訳なく思います」と話しました。

さらに、発言の一部を切り取られたという認識を繰り返し示し「ジャーナリズムやメディアの質の低下も感じるようになった。まことに残念なことです」と述べました。

そして最後に、今後、勘違いを生むような表現をしないための対応について問われると、川勝知事は「こういう風潮には憂いをもっています。どうしたらいいかなと思いよく考えたが、ことし6月の議会をもって職を辞そうと思う」と述べ、来年7月4日までの任期の途中で辞職する意向を表明しました。

川勝知事は、これまでも 不適切な発言を繰り返していました。

去年7月の県議会で不信任決議案が否決された後には「今後、不適切な言動があったら辞める」と述べていました。

◇川勝知事 リニア中央新幹線巡り国に反発 着工認めない状況続く

川勝知事といえば、“夢の超特急”リニア中央新幹線に異を唱える知事として知られています。リニア中央新幹線のトンネルが南アルプスの地下深くで地元では「命の水」とも呼ばれる大井川の源流の下を貫くように計画されていることから、2017年に水資源や自然環境などへの影響を懸念して着工に異論を唱え始めました。

その後は静岡県内での着工を認めず、静岡特産の茶の生産者など大井川流域の人たちの暮らしを守り南アルプスの環境を保護すると訴え、県知事選挙では県民の圧倒的な支持を得て、舌鋒鋭く国やJR東海をへの反発を繰り返してきました。

JR東海や国土交通省は事態の打開を探ってきました。2020年6月にはJR東海の当時の金子社長が川勝知事と初めて会談し、十分な対策を行うとして理解を求めましたが、川勝知事は「リニアに反対しているわけではない。しかし、水の問題については、流域の市町や静岡県民、井戸水に頼っている全国の方たちが同じ思いを持っており、トンネルを取るか、水を取るかといったら、結果は分かっている」などと述べていました。

国土交通省も有識者会議を設け、去年12月までにJR東海がとるべき水資源や環境保全の対策をまとめましたが、この際も、川勝知事は今後も議論が必要な課題が残されていて遺憾だという考えを示していました。

6年以上にわたって静岡での工事に着手できない状況が続いているため、JR東海は先月29日、目指してきた2027年の開業を断念したと明らかにしています。

今後、静岡県側のスタンスに変化が出るのかなどリニア中央新幹線をめぐる動向が注目されます。

JR東海 “コメントする立場にありません”

JR東海は「報道は承知しているがコメントする立場にありません」としています。

国土交通省関係者 “事態を注視”

国土交通省関係者は事態を注視するとし、状況を慎重に見極める考えです。

川勝知事のもと副知事務めた静岡市長 “コメント控える”

静岡市の難波喬司市長は「本人の政治家としての決断だと思うのでコメントは差し控えさせていただきます」とするコメントを出しました。

静岡市民 “突然でびっくり” “失言またか”

静岡市の60代の男性は「突然のことでびっくりしました。どういう考えで辞職を決断したのか分からないが知事の置かれた立場は厳しかったと思う」と述べました。知事が職業差別とも捉えられかねない発言をしたことについては「今回の発言に限らず、いろんなところで失言が多かったのでまたかと思っていました」と話していました。

静岡市の60代の女性は「知事の言葉によってリニア中央新幹線の工事が遅れていたと思うので辞職の意向の表明はよかったです。これを機会に工事が早く進めばいいと思います」と話していました。

◆川勝平太氏とは

川勝平太氏は、京都府出身の75歳。早稲田大学政治経済学部教授や浜松市にある静岡文化芸術大学の学長などを務めたあと、2009年の静岡県知事選挙で初当選し、現在4期目です。

川勝知事は2021年6月の県知事選挙期間中の集会で、みずからが学長を務めていた大学の学生について「8割ぐらい女の子なんです。11倍の倍率を通ってくるんですから、皆きれいです」などと、女性の学力と容姿を結び付けるような発言をしていたことが明らかになり、その後、謝罪して発言を撤回しました。

また、この年の10月の参議院補欠選挙の応援演説で、対立候補が御殿場市長を務めていたことに関連し「あちらはコシヒカリしかない」などと発言したことを受けて、県議会で辞職勧告決議が可決され、川勝知事はその年の12月の給料とボーナスの合わせて440万円余りを返上する意向を示していました。

しかし、その後、給与などを返していなかったことが明らかになり、去年7月には県議会で50年ぶりとなる不信任決議案が出され、1票差で否決される事態にまで至りました。

川勝知事は、この月の定例会見で、自身の不適切な発言がたびたび問題視されることについて「私の不徳のいたすところだ。常に公人の立場でいる。今度、迷惑をかければ辞職する」と述べていました。