タイで少数民族の本格派コーヒーが人気 日本にも進出

タイで少数民族の本格派コーヒーが人気 日本にも進出
インドネシア産やベトナム産などで知られる東南アジアのコーヒーですが、タイのコーヒーはご存じでしょうか。

いまタイで少数民族の人たちがつくる本格的なコーヒーが人気を集めています。

日本にも進出しているという、そのコーヒーはどのように作られているのか、現地を取材しました。

(前アジア総局記者 田路良一郎)

タイで広がるコーヒー人気

タイではコーヒーと言えば、暑い中、ミルクや砂糖が入った甘いアイスコーヒーを屋台などで買って飲むといったスタイルが良く知られていましたが、最近は本格的なコーヒーショップが増えています。

首都バンコクなどでは、おしゃれな雰囲気の店でコーヒーを楽しむ若者たちの姿をよく目にします。
なかでも、国内産の人気は高く、タイ北部で生産されたアラビカ種のコーヒーは、品質が高いことで知られています。

一般的に、フルーティーな味で、やや酸味もあり飲みやすいのが特徴とも言われていて、コーヒー豆の精製や焙煎の仕方などによってさまざまな味が楽しめます。

コーヒーショップの中には、タイ国内の産地の生産者から直接調達しているところも少なくありません。
ワロン・チャラヌッポンさん
「チェンマイ産のアラビカ種が特に人気です。私たちもタイ国内産をお客様にお勧めしています」

タイ北部で発展してきたコーヒー産地

タイ北部の山間部に暮らす少数民族の中には、かつてアヘンの原料のケシを栽培する人たちがいました。

1970年ごろから、これに代わる作物として、タイの王室の主導で転作が奨励され、コーヒー栽培などが進められてきました。
このうち、一大産地として知られる、チェンライ県のドイチャン村とその周辺では、およそ20年前にコーヒー豆を生産する企業が設立されました。

アカ族などが栽培するコーヒー豆は、この村の名前のブランドとともに、今では国内外に広く浸透し、この企業は海外も含め、100店舗以上を展開するまでになっています。
タイ北部の標高が高く寒暖差が大きいといった特徴も生かして、アラビカ種のコーヒーの産地として発展してきたのです。

創業から携わっているという社長は「ここから、日本、韓国、中国など世界各地にも輸出しています。コーヒー生産は少数民族のアイデンティティーと言えます」と話していました。

コーヒー栽培始めたメーチャンタイ村

しかし、都市部と農村部との経済格差が大きいタイでは、今なお所得水準や生活インフラなどの面で発展から取り残された村も多く、それぞれの村では模索が続いています。

私はタイ北部のチェンライ市内から車で2時間半ほどのメーチャンタイ村を訪ねました。
標高1400メートルほどのところにある集落には、アカ族40世帯ほどが暮らしています。

2000年代初頭からコーヒーの栽培を始め、今では年間およそ80トンを生産し、村人の生活も改善されてきたということです。
一方、村の集落では道路は舗装されておらず、生活道路は赤茶けた土の道。
山の中腹の町まで行き来するのに車が必要ですが、4輪駆動車でないと走れません。

また、電気も太陽光発電に頼るのみで、生活環境は厳しいままです。

村で生産されているコーヒー豆は、これまでも良い評判を得ていましたが、ブランドなどが確立されていなかったため、ほかの産地の豆とまとめてバイヤーから引き取られ、安い価格で取り引きされていたということです。

日本のNPOの支援で始まった新たな取り組みとは?

そうした中、村では2018年に日本のNPOの支援を受けて新たな取り組みを始めました。

まず、村人たちで生産組合を作り、NPOから寄贈された焙煎などの機械や発電機を活用して、自分たちで加工場を建てました。
それまで村の外に出向いて使用料を払って行ってきたコーヒー豆の加工を自前でできるようになり、「メーチャンタイ産」という付加価値も付けて販売できるようになりました。

生産組合の資金は、道路や集会所の修繕などコミュニティーの運営にも役立てられているということです。

こうして始まった新たな取り組みは、過疎化が進んでいた村にも、よい影響をもたらしたと言います。
サンティクル・チューパさん
「昔は学校を出ると若い人が村を出て行ってしまっていましたが、コーヒー生産に取り組むようになり、若者たちが村に戻ってくるようになりました。NPOの支援のおかげで、今では生産コストの削減や村民の収入増につながりました」
支援を行っているのは、日本のNPOのアジア自立支援機構です。

代表の小沼廣幸さんは、国連職員として長年、タイをはじめ東南アジアの山間部の少数民族の農村支援を行ってきました。
2021年にはコーヒー豆を村のブランド品として売り出そうと、NPOと村が共同で、バンコクのビジネス街にアンテナショップをオープンさせました。

この村のコーヒーはタイ国内の品評会で上位に入賞するなど、高い評価を得ているということで、店を訪れる客も増えています。
小沼さん
「村の人たちが自発的に行うことを促すといったアプローチで支援を行い、こうした取り組みにつながっています。少数民族の小さな村がまとまって一生懸命やれば、悪い条件でもこれだけのことができる、そして、持続可能な村落のモデルを作るということが非常に重要だと考えています」
メーチャンタイ村のコーヒーは去年、東京や熊本でもショップがオープンしたということです。

コーヒー生産を通じた自立に向けた村づくりの取り組みは、着実に歩みを続けています。
(国際報道2023で放送)
前アジア総局記者
田路 良一郎

1994年入局
2000年代に韓国・北朝鮮情勢を中心に取材
2023年8月までタイを拠点に東南アジアを取材
幼少期に仕事で日本とタイを行き来していた父親からもらった象の置物がタイとの初めての出会い