自民党執行部 幹部4人含む39人処分へ 党紀委員会に審査要請

派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で自民党執行部は、安倍派でキックバックの扱いを協議した幹部4人らあわせて39人を処分する方針を固め、茂木幹事長が処分の審査を党紀委員会に要請しました。

今回の問題で自民党執行部は、派閥からのキックバックや収支報告書への不記載などがあった安倍派と二階派の関係議員らに対する処分を行う方向で調整を進めてきました。

その結果、安倍派でキックバックの扱いを協議した塩谷・元文部科学大臣や世耕・前参議院幹事長ら幹部4人と、おととしまでの5年間で収支報告書の不記載などが500万円以上あった安倍派と二階派の議員らあわせて39人について党紀委員会で処分する方針を固めました。

これを受けて茂木幹事長が1日に役員会でこうした方針を説明したあと、党紀委員会の逢沢委員長に処分の審査を行うよう要請し、記者会見で公表しました。

執行部は安倍派の幹部に対する処分はより厳しくする方向で、最も重い処分は8段階のうち2番目の「離党の勧告」とし、派閥での役割や不記載の金額なども踏まえて、それに次ぐ「党員資格の停止」や「選挙における非公認」、「戒告」などの処分とすることを検討しています。

一方、二階・元幹事長は5年間の不記載が3526万円と最も多かったものの処分の対象には含まれておらず、先に次の衆議院選挙に立候補しない考えを表明したことを踏まえたということです。

また、不記載の額が500万円を超えない中堅・若手の議員などは茂木氏が注意を行うなどの対応を検討しています。

党紀委員会は今週4日にも開かれ、関係議員の処分を決定する方向で調整しています。

審査要請された39人

自民党が党紀委員会に審査を要請した議員ら39人の氏名、おととしまでの5年間の収支報告書への不記載などの金額、選出された選挙区です。
(※派閥別、衆参ごとに五十音順)

【安倍派 36人】
衆議院議員(24人)
▽衛藤征士郎氏(1070万円、大分2区)
▽大塚拓氏(994万円、埼玉9区)
▽小田原潔氏(1240万円、東京21区)
▽尾身朝子氏(623万円、比例代表北関東ブロック)
▽菅家一郎氏(1289万円、比例代表東北ブロック)
▽塩谷立氏(234万円、比例代表東海ブロック)
▽柴山昌彦氏(896万円、埼玉8区)
▽下村博文氏(476万円、東京11区)
▽杉田水脈氏(1564万円、比例代表中国ブロック)
▽関芳弘氏(836万円、兵庫3区)
▽高木毅氏(1019万円、福井2区)
▽高鳥修一氏(544万円、比例代表北陸信越ブロック)
▽中根一幸氏(1860万円、比例代表北関東ブロック)
▽西村明宏氏(554万円、宮城3区)
▽西村康稔氏(100万円、兵庫9区)
▽萩生田光一氏(2728万円、東京24区)
▽細田健一氏(564万円、新潟2区)
▽堀井学氏(2196万円、比例代表北海道ブロック)
▽松野博一氏(1051万円、千葉3区)
▽三ツ林裕己氏(2954万円、埼玉14区)
▽宗清皇一氏(1408万円、比例代表近畿ブロック)
▽簗和生氏(1746万円、栃木3区)
▽吉野正芳氏(660万円、福島5区)
▽和田義明氏(990万円、北海道5区)

参議院議員(11人)
▽岡田直樹氏(774万円、石川選挙区)
▽加田裕之氏(648万円、兵庫選挙区)
▽末松信介氏(584万円、兵庫選挙区)
▽世耕弘成氏(1542万円、和歌山選挙区)
▽橋本聖子氏(2057万円、比例代表)
▽羽生田俊氏(818万円、比例代表)
▽堀井巌氏(876万円、奈良選挙区)
▽丸川珠代氏(822万円、東京選挙区)
▽宮本周司氏(1482万円、石川選挙区)
▽山田宏氏(560万円、比例代表)
▽山谷えり子氏(2403万円、比例代表)

次の衆議院選挙の立候補予定者となる支部長
▽中山泰秀氏(908万円)

【二階派 3人】
衆議院議員(3人)
▽武田良太氏(1926万円、福岡11区)
▽林幹雄氏(1608万円、千葉10区)
▽平沢勝栄氏(1817万円、東京17区)

茂木幹事長「500万円以上 管理責任など検討必要ある」

自民党の茂木幹事長は記者会見で「党紀委員会の審査対象は、所属議員の多数に不記載などが認められた派閥の幹部、もしくは自身の収支報告書に一定額以上の不記載などがあった議員らという形とした」と説明しました。

その上で不記載などの額が500万円以上を基準の1つとしたことについて「500万円というと年間では3桁にのぼる。『自分は知らなかった』といっても管理責任などは検討する必要がある」と述べました。

また、不記載の額が500万円を超えない議員らについては「二度とこういったことが起こらないよう、議員として収支に責任を持つよう私の方で対応したい」と述べ、注意などを行う考えを示しました。

一方、野党側が、実態解明が進まない中で関係議員の処分を行うことは認められないとしていることについては「いつまでも処分を先送りすることはできない。引き続きできるかぎりの事実関係や原因究明を進めながら再発防止策などを検討したい」と述べました。

菅家一郎 議員「重く受け止めたい」

自民党執行部が処分する方針を固めた39人の1人で安倍派の菅家一郎 衆議院議員は記者団に対し「党本部で議論された結果だと思うので重く受け止めたい。ただ、私は収支報告書への不記載ではなく誤記載だったので、リストに載ったことは非常に不満だ。人によって状況が違うことを受け止めて、最終的な処分につなげてほしい」と述べました。

また、不記載などが500万円以上あった議員らが処分の対象になることについて「党の決定ではあるが、正直に申し上げて非常にわかりにくい」と述べました。

共産 小池書記局長「議員辞職がとるべき態度」

共産党の小池書記局長は記者会見で「離党勧告が重いかどうかと言われれば、決して重くない。議員辞職することがとるべき態度ではないか。ただ、真相解明なき処分では、適切かどうか判断できず、国民は納得しない。証人喚問で真相解明を徹底的に求めていきたい」と述べました。

「除名」「離党の勧告」など処分は8段階

自民党は、所属議員に政治不信を招く政治的・道義的な責任があると認めた場合、党則に基づいて8段階の処分を行うと規約に掲げています。処分は重い順に「除名」「離党の勧告」「党員資格の停止」「選挙における非公認」「国会および政府の役職の辞任勧告」「党の役職停止」「戒告」「規定の順守の勧告」となっています。

「除名」
最も重く、強制的に党籍を失わせるものです。
除名されれば原則、復党は認められず、復党するには処分から10年以上が経過し、党の活動への協力が顕著であるなどの基準を満たす必要があります。

「離党の勧告」
党が自発的に離党するよう勧告するものです。
処分を受けてみずから離党すれば、その後、党紀委員会の審査を経て復党することができます。復党までに必要な期間は定められていません。一方、勧告を受けても離党しない場合は「除名」されることになります。

「党員資格の停止」
原則3か月以上2年以下の期間を定め、党員としての資格を停止するものです。
この処分を受けると総裁選挙への立候補や投票ができなくなり、党役員の選出などにも関われなくなります。また国政選挙の立候補予定者となる支部長は解任されます。一方、党員ではあるため、党費の支払いなどの義務は継続します。

「選挙における非公認」
選挙に立候補する際、党の公認を与えないものです。
この処分を受けても無所属などで立候補することはできますが、党の比例代表の名簿には掲載されません。過去にこの処分を行った例がないため、党は具体的な内容は未定だとしていますが、選挙戦で幹部が応援に入らないなどの対応も想定されるとしています。

「国会および政府の役職の辞任勧告」
閣僚や国会の委員長などの辞任を勧告するものです。
勧告を受けて辞任しない場合は、より重い処分が下されることになります。

「党の役職停止」
原則3か月以上2年以下の期間を定め、党の役職を停止するものです。
今回の問題では安倍派幹部らがすでに政府や党、国会の役職を退いているため、こうした処分では実効性がないという指摘が出ていました。

「戒告」
8段階の処分のうち下から2番目で、対象者に文書か口頭で注意するものです。
この処分を受けても議員活動に制約は生じません。党関係者の1人は「サッカーでいう『イエローカード』のイメージで、次はより厳しい処分を下すと警告する意味合いもある」と話しています。

これまでの処分は

最も重い「除名」は、直近では派閥の政治資金パーティーをめぐる今回の事件で逮捕・起訴された池田佳隆衆議院議員が受けています。

また2005年には、郵政民営化関連法案に反対し、新党に参加した綿貫民輔・元衆議院議長や亀井静香・元政務調査会長ら10人が除名されました。

「離党勧告」は、郵政民営化関連法案に反対し直後の衆議院選挙で無所属で立候補した野田聖子・元総務大臣ら衆参両院の議員あわせて27人が一度に処分を受けました。

「党員資格の停止」は、最近では、2021年の衆議院選挙で立憲民主党の候補者の応援演説を行った山崎拓元副総裁が1年間の処分を受けた例があります。

「党の役職停止」は、おととし安倍元総理大臣を「国賊だ」などと発言した村上誠一郎・元行政改革担当大臣が1年間の処分を受けています。

「戒告」は、民主党政権だった2012年、当時の野田内閣に対する不信任決議案の採決で、党の方針に従わなかった小泉進次郎・元環境大臣ら7人が処分を受けた例があります。

一方、自民党によりますとこれまでに「選挙における非公認」の処分を受けた議員はいないということです。

また、2021年に新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が続く中、深夜まで銀座のクラブに出入りした議員3人に対し当時の二階幹事長が離党を促し3人が離党しましたが、これは規約に基づく処分ではありませんでした。

党紀委員会で処分決定

自民党の党紀委員会は「党の規律をみだす行為」などを行った議員らに対する処分を決める機関で、衆参両院の議員や元議員、それに民間人のあわせて18人で構成されます。

幹事長からの要請か、5人以上の党紀委員による請求があった場合に招集され、審査を行った上で処分を決定します。

処分の審査の対象となった議員らは、党紀委員会に弁明書を提出することができ、委員会はその内容も踏まえ処分を決定することになります。

党紀委員会が決定した処分に不服がある場合は総裁に対し、再審査の請求を行うことができます。再審査が請求されると、総務会で扱いが協議され、相当の理由があると認められた場合には党紀委員会で再度審査が行われることになっています。