日銀短観 大企業製造業の景気判断 4期ぶり悪化

日銀は短観=企業短期経済観測調査を発表し、大企業の製造業の景気判断を示す指数は、一部の自動車メーカーが出荷を停止した影響などで4期ぶりに悪化しました。一方、大企業の非製造業の指数は好調なインバウンド需要などを背景に8期連続で改善し、1991年以来の高い水準となりました。

日銀の短観は国内の企業9000社余りに3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査は3月下旬までの1か月間行われ、大企業の製造業の指数はプラス11ポイントと、前回の去年12月の調査を2ポイント下回り、4期ぶりに悪化しました。

これは一部の自動車メーカーが国の認証取得をめぐる不正から車の出荷を停止した影響で「自動車」をはじめ、「鉄鋼」や「非鉄金属」などの業種で景気判断が悪化したことが主な要因です。

一方、大企業の非製造業の指数は好調なインバウンド需要などを背景にプラス34ポイントと、前回調査を2ポイント上回って8期連続で改善し、1991年8月調査以来の高い水準となりました。

3か月後の見通しについては大企業の製造業が1ポイント、大企業の非製造業が7ポイント、それぞれ悪化すると見込んでいて、日銀は人手不足や海外経済の先行きを懸念する声が多いとしています。

2年ぶりに対象企業の見直し

日銀では、経済の実態を正確に把握するため、短観の調査対象となる企業の入れ替えを定期的に行っていて、今回の調査で、2年ぶりに対象企業の見直しを行いました。

これに基づいて前回の去年12月に公表された指数を算出し直すと
▽大企業・製造業の指数がプラス12からプラス13に
▽大企業・非製造業はプラス30からプラス32になるとしています。

今回の調査では、算出し直した12月調査の指数と比較して「改善」か「悪化」かを判断しているということです。

中小企業の人手不足感 “最も強く”

今回の日銀の短観は、調査対象となった9100社余りのうち、中小企業が最も多い4700社余りとなっています。

中小企業の製造業の景気判断を示す指数は、マイナス1ポイントと前回を3ポイント下回って4期ぶりの悪化となり、大企業と同様に自動車や鉄鋼などの業種で顕著でした。

また、中小企業の非製造業の指数はプラス13ポイントと、前回の調査を1ポイント下回り、8期ぶりの悪化でした。

3か月後の見通しについては、中小企業の製造業は自動車の生産の回復によって1ポイントの改善となった一方、中小企業の非製造業は人手不足による人件費の上昇などで5ポイントの悪化が見込まれています。

また、短観では、企業に従業員の数が「過剰」か「不足」かを尋ねて指数化しています。

人手不足感がある場合はマイナスとなりますが、今回、中小企業の製造業ではマイナス24、中小企業の非製造業ではマイナス47でした。

このうち中小企業の非製造業は1983年5月に調査を始めてから人手不足感が最も強くなっています。

3か月後の見通しについても、中小企業の製造業がマイナス31、中小企業の非製造業がマイナス50と人手不足の一段の深刻化を見込んでいます。

中小企業でも賃上げが進んでいますが、大手企業がそれ以上に賃金を引き上げているため、激しい人材獲得競争の中で人手の確保が難しくなっている状況がうかがえます。

中小で見る“好循環”と課題

日本経済が着実な回復を続け、賃金と物価の好循環を実現するためにカギを握るのが中小企業です。

東京に本社があり茨城県筑西市に工場を構える従業員160人余りのメーカーでは、価格転嫁を行い賃上げにつなげる環境が生まれつつあるといいます。

工事現場などで発生するちりを集める大型装置や送風機を製造していて、ケーブルや樹脂といった材料が高騰していますが、交渉によって値上がり分を一定程度、取引の価格に上乗せできているということです。

さらに、これまで培った技術を応用して排水などを処理する新しい事業にも乗り出しています。

こうした結果、売り上げは伸びていて、去年、従業員のベースアップに踏み切り、ことしは月額1万円のベースアップを含め平均5.7%の賃上げを予定しています。

従業員は「賃上げは大企業だけの話だと思っていたので、2年連続であがるのは率直にうれしいです」と話していました。

一方、会社が直面しているのが人手不足です。

この4月からの新年度に向けて設計などを担う理系の人材を5人採用する計画でしたが、知名度の高い大手企業との競争の中で、1人しか採用できなかったといいます。

「流機エンジニアリング」の西村聡社長は「ものづくりの会社として技術者を中心に獲得したいが、人材確保をどう果たしていくのかが給料以上に大きな要素になっている。働き方も終身雇用や年功序列といったところから会社の形自体も変わっていかないと難しい。創意工夫によって企業として付加価値を高めていくことが重要になる」と話しています。

将来の金利上昇見込む企業が増加

短観では、企業の借入金利の水準についても尋ね、「上昇」から「低下」を差し引いた指数を出しています。

それによりますと3か月後の見通しは、大企業が現状を12ポイント上回るプラス34ポイント、中小企業が15ポイント上回るプラス30ポイントとなりました。

今回の調査では、日銀がマイナス金利政策の解除を決める前に回答した企業が大半でしたが、その時点で将来の金利上昇を見込んでいたことが分かります。

一方、今回の短観で初めて示された今年度の設備投資計画は、すべての産業・規模をあわせて前の年度と比べた増加率が3.3%でした。

3月の調査時点での設備投資計画は2000年度から2022年度の20年余りの平均がマイナスの水準で、日銀はことしの計画は堅調だと見ています。

こうした中、市場では、日銀が年内にも次の利上げを行うという見方が出ていて、その動向が設備投資計画に影響を及ぼす可能性も指摘されています。