石川 輪島 防災行政無線 地震後4分の1使えず 住民に周知されず

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市で、地震のあと4分の1の防災行政無線が使えない状態になっている上、住民に周知されていないことがわかりました。
住民からは戸惑いの声があがっていて、専門家は「防災行政無線で情報が届けられると思っている住民も少なくない。使えなくなっている事実を伝え、別の情報収集の手段を確保してもらうよう呼びかけるべきだ」と指摘しています。

能登半島地震で大きな被害を受けた輪島市によりますと、市内に213ある防災行政無線のうち、3月28日時点でおよそ4分の1にあたる54の無線が使えない状態になっているということです。

市は無線が停電エリアにあったり、電線が切れたりして電気が通らなくなっていることが原因として考えられるとしていて、4月をめどに調査を終え、復旧作業を進めたいとしています。

一方、使えなくなっている防災行政無線の周辺の住民に対し、市からこうした状況が周知されていないことがわかりました。

市は無線が使えない場所の中には避難指示が出ていたり、集団で2次避難を行ったりして住民がいない所があるほか、同じ地区内の使える無線で聞こえていると認識していると説明しています。

しかし、NHKが調べたところ、54の無線のうち、「避難指示」が出ている場所に設置されている無線は8つのみで、それ以外の所では通常通り生活していたり、日中、避難先から自宅に戻り、片づけをしたりする住民の姿が確認できました。

住民からは「無線が使えないことは知らなかった」など、戸惑いの声が聞かれています。

また、被害を受けていない無線が遠くにあってほとんど聞こえないといった声や、スマートフォンは使いこなせず、無線がないと情報の入手に困るという声も聞かれました。

防災心理学が専門の兵庫県立大学の木村玲欧教授は「防災行政無線が使えなくなることは災害の時によく起きている。ただ、防災行政無線があれば必ず情報が届けられると思っている住民も少なくなく、使えない場所の住民に現在の状況を伝えることは大切だ。避難先から戻ってくる人も増えているので、別の手段で情報収集してほしいと伝えるなど、きめ細やかな対応が必要だ」と指摘しています。

住民からは戸惑いと驚きの声

使えない状態になっている防災行政無線の近くの住民からは戸惑いと驚きの声が聞かれました。

このうち、輪島市長井町に住む女性は1月の地震発生以降、家のすぐ裏にある無線が鳴らない状態が続いている一方、内容は聞き取れないものの、遠くの無線が鳴っていることに戸惑っていたといいます。

女性は「ほかの無線が鳴っているのでなぜだろうと思っていました。故障なら故障と市役所も言ってくれたらいいのにと思います」と話していました。

また、輪島市鳳至町に住む女性も、家の近くにある無線が鳴らないことを知らなかったといいます。

女性は「携帯電話でも情報は手に入りますが、1月の地震の時には電話を持たずに家を飛び出しましたし、私の周りには携帯電話を持っていない人もいます。いざという時に防災行政無線を通して耳から入る情報は大事で、どんな人にも情報が届くようにしてほしいです」と話していました。

さらに、輪島市山岸町の高齢の女性は「私はスマートフォンが使いこなせません。家に息子と娘がいる時は大丈夫ですが、1人でいるときは無線の情報が頼りです」と話していました。

輪島市 通信不安定な場所はホームページ上で公表予定

輪島市防災対策課はNHKの取材に対して、「防災行政無線のうち通信が不安定な場所については可能な限り早くホームページ上で公表する予定です。現在、鳴らない無線の近くに住んでいる人は市のホームページやSNSで最新の情報を把握してほしい」としています。

専門家 “無線は命を守ることに直結する情報”

防災心理学が専門の兵庫県立大学の木村玲欧教授は「防災行政無線がつながらなくなり、無線で情報伝達ができない状況というのは災害の時によく発生するが、無線は命を守ることに直結する情報を住民に伝えるものだ。防災行政無線があれば必ず情報が届けられると思っている住民も少なくない」と指摘しています。

そして、発災から時間が経過し、住んでいた場所に戻る人が増えてくるとしたうえで「しっかりと情報を伝えるのは市町村の役割なので、今、どこの地域の人がどの程度戻ってきているのかを継続的に把握し、無線が使えない所については、対象の住民に情報を伝えられない事実と、別の手段で情報収集することを呼びかけるなど、きめ細やかな対応が必要だ」と話しています。