がんの診断を受けたら 子どもにどう伝える?

イギリス王室は今月、キャサリン妃ががんと診断され、治療を行っていると発表。

キャサリン妃はビデオメッセージで、子どもたちについて「私は大丈夫だと安心させることに時間がかかりました」と話しました。

がんと診断されたら、子どもにどう伝えますか?

SNSで広がる共感の声

がんと診断されたというキャサリン妃はビデオメッセージを公開しました。

この中では「何よりもジョージとシャーロットとルイに適切な方法ですべてを説明し、私は大丈夫だと安心させることに時間がかかりました」と話しました。

キャサリン妃の告白にSNSでは共感の声が広がっています。

「子どもにがんである事を伝える事がどんなにつらい事か」

「子どもたちへの説明に時間を要したって説明に共感しかない」

日常の中で 自然体で伝える

すい臓がんの治療を続けている関直行さん(47)は、2人の子どもがいます。

2013年、36歳の時にステージ4と診断されました。

死を意識したという関さん。

当時4歳だった長女に病気のことや、一緒に遊ぶときに走ったり、だっこしたりすることが、治療によってできなくなる時があると伝えました。

率直に話したのは、娘が父親の変化を感じ取るだろうと思ったからだといいます。

優しいことばを心がけ、がんについての絵本も使いました。

関直行さん

関直行さん
「どこまで理解しているかは正直わかりませんが、テレビで著名人がすい臓がんだというニュースが流れると、『パパと同じ』と言っていたので、なんとなくはわかってきたのかなと思いました」

その後、長男が生まれたすぐあとの2017年に再発。

休みの日に息子と過ごすとき、関さんは抗がん剤などの治療のことについて話すといいます。

関直行さん
「がんのことを話そう、と構えるのではなく、生活の中でその都度、自然に伝えてきたという感じです。例えば、週末に寝ている私のところに長男が『遊ぼう』と言ってくるのですが、抗がん剤の影響でつらい時には『きょうパパ薬で体調が悪い』と伝えています。遊べなくて申し訳ないという気持ちもありますが、理解してくれているようにも感じます。私自身死ぬまでがんと共存していくという意識なので『治らない』ということも話しています」

ネガティブな印象を持たないよう知識を伝える

7年前、33歳の時に胃がんの診断を受け、胃を摘出する手術をした永江寛美さん(40)です。当時、娘の珠奈実さんは2歳。

永江さんはがんにネガティブな印象を持ってほしくないという思いがあるといいます。

成長するにつれて病気について正しい知識を身につけてもらいたいと、体の細胞について扱ったアニメを一緒に観ながら説明をしたこともありました。

周囲にもオープンにしているという永江さん。
保育園のママ友の食事会などで珠奈実さんが「ママは胃がないからあまり食べられないんだよ」と説明してくれることもあったそうです。

小学生になってからは、永江さんが参加するがん患者の集まりに一緒に連れて行くようになりました。

永江寛美さん
「がんが特別なことだと思ってほしくないし、患者の中でもいろんな人がいるということを知ってもらいたいです。ことばだけで伝えるのは限界があると感じているので、いろんな人の生き方をみてもらいたい」

珠奈実さんは治療をしていた時のことをこう振り返ります。

珠奈実さん
「治療のあとには私のために頑張ったと言ってくれたのが印象に残っています。ママががん患者だからといってこれはできない、あれもできないって思ったことはないよ」

伝える際の“3つのC”

医療関係者でつくるNPO法人「Hope Tree」は、親ががんになった子どもを支援してきました。

代表をつとめる医療ソーシャルワーカーの大沢かおりさんは子どもが孤立感や不安を募らせないために、正確な情報を伝える必要があると話します。

「Hope Tree」大沢かおり代表
「子どもは親の変化を敏感に感じ取ります。何も伝えないことは『何かもっと悪いことが起きているのではないか』と想像して不安を募らせたり、子どもの前で話題にすることをタブー視することで家族から排除されていると感じて孤独になります。また、断片的な情報だったり、ごまかしたりして伝えると、子どもたちはインターネットでさまざまな情報を得てさらに不安になります。人によって違いますが、がんの診断から気持ちが安定し、治療のスケジュールも分かってくるころに、落ち着いた場所で話すことをすすめています」

話す際に“3つのC”を念頭に置くといいといいます。

それは「Cancer」(がん)という病気で、それは「Catchy」(伝染)しない、その「Caused」(原因)はあなたや私がこれまでしてきたこともしなかったことも全く関係ない。

がんという病気について正確な情報を伝えることで、想像をめぐらせて過度な不安を感じないようになるほか、うつらないことを説明すると子どもが安心して親のそばにいることができるようになる。

また、子どもは自分のせいで親が病気になったと思いがちなので、誰のせいでもないと伝えることが大事だといいます。

年齢に合わせた工夫も

子どもの年齢によっても伝え方を工夫することも必要だといいます。

▽0歳から2歳は病気の理解がまだ困難なため、「ぽんぽん痛い」などふだん使っていることばを使う。

▽3歳から5歳は、自分を責めたり、がんがうつると考えたりすることがあるため、誰のせいでもないことや、うつらないこと、治療などによってできないことと今までどおりできることについても話す。

▽それに加えて6歳から11歳は、親の病状や体調についても理解ができるようになるため、治療や副作用についても説明する。

▽さらに12歳以上になると、病状が深刻であれば死につながることも理解できるようになるため、病気や治療の今後の見通しも話すといい。

一方で、親が話したくない場合や、子どもが拒んだ場合には、ノートや手紙を利用して記録に残したり、やりとりを続けたりすることがいいそうです。

伝えたあとは…

大沢さんは伝えたあとに子どもをどうフォローするかも重要だと指摘します。

対応としては、それまでの家庭内のルールを変えないようにすることだといいます。

「子どもがかわいそうだから」「申し訳ないから」といって、これまでやっていたお手伝いを「やらなくていい」と言ったり、ゲームを際限なくさせたりといった状況は子どもをかえって不安にさせるそうです。

また、体調や症状の悪化、治療による影響を隠さないことも大事で、今どういう状況なのかということもそのつど説明することが子どもの安心につながり、さらには「何か心配なことがある?」と声をかけることも効果的だといいます。

「Hope Tree」大沢かおり代表
「伝えるということ自体が目的になるのではなく、子どもに安心してもらうということを目的に伝えていくといいと思います。大事なのは親子で会話のキャッチボールを重ねていくことです。子どもから言い出せないことも『聞きたいことある?』と親からたずねることで、思っていることを表現しやすくなりますし、親も体調が悪いときにそのことを伝えやすくなり無理をしすぎなくなって日常生活を送りやすくなります」

経験を語ってくれた2人 “ヒントになれば”

今回、自身の経験を語ってくれた親世代の2人。
2人とも取材を受けた理由について共通することを話していました。

「人によって部位や進行の程度も違いますし、治療がどの段階にあるかで精神状態も変わってくると思います。正解はないですが、同じ境遇にある子を持つ親には、こういう例もあるという、ヒントや参考になればという思いです」