国産ジェット旅客機の開発撤退の教訓をもとに新戦略案 経産省

経済産業省は、三菱重工業が国産初のジェット旅客機の開発から撤退した経緯を踏まえ、今後、航空機産業が目指すべき新たな戦略案を取りまとめ公表しました。得られた教訓をもとに、国際連携などで開発力を高め、2035年以降、次世代の旅客機の事業化を目指すとしています。

三菱重工業は、2008年から国産初のジェット旅客機のプロジェクトをスタートさせ、国からおよそ500億円の支援も受けて開発を進めましたが、たび重なる設計の変更で、6回にわたって納入が延期され、去年、撤退に追い込まれました。

これを受けて、経済産業省は有識者会議で、撤退から得られた教訓や、今後、航空機産業が目指すべき方向性を検討してきましたが、27日に新たな戦略案を取りまとめ公表しました。

この中では撤退の背景として、安全性の認証プロセスや、海外の部品メーカーへの対応での経験不足などが、コストの高止まりや開発の長期化を招いたとして、民間のプロジェクトとしては、リスクが極めて高かったと指摘しています。

このため、今後は国際連携や官民によるリスクの分散が重要で、国内外の企業や研究機関が連携する枠組みを作り、開発力を高めるべきだとしています。

そのうえで、2035年以降、ハイブリッドや水素エンジンなど、脱炭素に対応した次世代の旅客機の事業化を目指し、政府の資金支援も検討すべきとしています。

会議の中で、岩田経済産業副大臣は「プロジェクトで得られた知見や経験を生かし、官民で共通認識を持って取り組みを進めたい」と述べました。

三菱重工業の撤退した経緯 4つの要因

経済産業省がまとめた新たな戦略案では、三菱重工業が国産初のジェット旅客機の開発から撤退した経緯を検証し、4つの要因を指摘しています。

1. 安全認証プロセスの理解・経験不足

その一つが、当局の認証を得るプロセスへの理解が不足していた点です。

2015年11月の試験機による初飛行以来、飛行時間は合計3900時間を超え、機体の開発としては一定水準に達していたとしています。

一方で、認証取得のプロセスが高度化するなか、このプロセスに関する経験豊富な専門家の確保など体制の構築が遅れたと指摘しています。

2. 海外サプライヤー対応の経験不足

海外の部品メーカーへの対応も指摘しています。

開発にあたって、エンジンや電子機器など主要な部品は、海外のメーカーからの調達に依存していました。

しかし、たび重なる設計変更の際に、海外メーカーに対して、タイムリーに変更を要求できず、結果としてコストの高止まりや部品納入の遅れを招いたとしています。

さらに、コストダウンや生産体制の確保に関して、必要な協力を得ることもできなかったと指摘しています。

3. 市場環境 想定から外れる

市場環境が想定から外れたことも要因としています。

主力の市場であるアメリカでは、航空会社とパイロットの労使協定により、「スコープ・クローズ」と呼ばれる座席数の制限が設けられています。

三菱重工業のプロジェクトでは、この制限が緩和されるとの想定のもとで、制限を上回る座席数の機体の開発を進めたものの、実際には、緩和されず、当初、想定していた市場環境が実現しなかったとしています。

4. 政府の支援・取り組みのあり方

政府の関わり方も要因の一つとしています。

プロジェクトに対しては国もおよそ500億円の支援を行いましたが、開発が長期に及ぶなかで、民間企業1社で担うことは困難だったと指摘しています。

このため、政府がより前面に出る支援の枠組みや官民で事業を推進する体制づくりが課題だとしています。

撤退の教訓 今後の方向性は

こうした教訓を踏まえ、今後の航空機開発に向けては
▽国際連携や官民によるリスク分散が重要で
▽国内外の企業や研究機関が連携する枠組みを作り、開発力を高めていくべきだと指摘しています。

2035年以降、ハイブリッドや水素エンジンなど次世代の旅客機の事業化を目指し、機体やエンジン、装備品で国際的な共同開発を追求するとしています。

さらに、航空機産業を後押しするため
▽政府は資金支援を検討し
▽産業界についても、業界再編を含めた開発体制のあり方を検討するよう求めています。