電線不足はなぜ起きた? 価格の乱高下と独自の商習慣
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「冗談でしょ、そんなことってあるの?と思いました」
こう話すのは、ある公共工事を担当する電気工事会社の責任者です。注文すればすぐに入荷していた電線・ケーブルが急に届かなくなり、工事が遅れる現場が相次ぎました。
建物の電気工事で使われ、私たちの生活に欠かせない電線・ケーブル。なぜ突然、“足りなくなった”のでしょうか。
(機動展開プロジェクト記者 柳澤あゆみ/北九州局記者 伊藤直哉)
こう話すのは、ある公共工事を担当する電気工事会社の責任者です。注文すればすぐに入荷していた電線・ケーブルが急に届かなくなり、工事が遅れる現場が相次ぎました。
建物の電気工事で使われ、私たちの生活に欠かせない電線・ケーブル。なぜ突然、“足りなくなった”のでしょうか。
(機動展開プロジェクト記者 柳澤あゆみ/北九州局記者 伊藤直哉)
公共工事 遅れの理由は「電線・ケーブル不足」
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ことしの2月下旬。富山県の県立砺波工業高校では、急ピッチで工事がすすめられていました。
行われていたのは、校舎内に電気を通すための電線・ケーブルを設置する工事。およそ1週間前に、ようやく入荷できたものだといいます。
行われていたのは、校舎内に電気を通すための電線・ケーブルを設置する工事。およそ1週間前に、ようやく入荷できたものだといいます。
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電線・ケーブルが不足し、受注が停止されるという情報が工事会社に入ったのは去年11月。慌てて注文しましたが、1月中旬の入荷を見込んでいたケーブルが調達できたのは2月14日でした。
この影響で工事の一部はおよそ2週間ストップ。建物内に電気が通っていないため、空調設備の試運転ができないなどの影響も。
結局、老朽化した校舎の改修工事の工期は、当初よりも11日長くなり今月26日までとなりました。
この影響で工事の一部はおよそ2週間ストップ。建物内に電気が通っていないため、空調設備の試運転ができないなどの影響も。
結局、老朽化した校舎の改修工事の工期は、当初よりも11日長くなり今月26日までとなりました。
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電気工事会社の担当者
「電線・ケーブルは注文すればすぐにくるという認識でしたが、急な受注ストップで、慌てて問屋に交渉しました。ようやくケーブルが届いてほっとしています。ただ、供給はいまも安定していません。計画どおりに工事が組めないのでとても困っています」
「電線・ケーブルは注文すればすぐにくるという認識でしたが、急な受注ストップで、慌てて問屋に交渉しました。ようやくケーブルが届いてほっとしています。ただ、供給はいまも安定していません。計画どおりに工事が組めないのでとても困っています」
富山県ではほかの県立の2校でも、校舎の改修工事などが遅れる影響が出ています。
この2校では3月下旬としていた工期内に工事を完成できないために、工期をおよそ2か月延ばすことが決まりました。
この2校では3月下旬としていた工期内に工事を完成できないために、工期をおよそ2か月延ばすことが決まりました。
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中家課長
「電線不足による工事の遅れというのはあまり聞いたことがありません。まずは今の工事を終わらせることが重要ですが、終えた段階で今後の対策を検討したいと考えています」
「電線不足による工事の遅れというのはあまり聞いたことがありません。まずは今の工事を終わらせることが重要ですが、終えた段階で今後の対策を検討したいと考えています」
電線不足 去年秋から深刻に
「電線が入手できず、電気工事業界がパニックになっている」
こうした声が、NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に相次いで寄せられるようになったのは、去年秋ごろからです。
こうした声が、NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に相次いで寄せられるようになったのは、去年秋ごろからです。
【ニュースポスト】情報や疑問、こちらからお寄せ下さい
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電線・ケーブルの大手メーカー4社は、工事会社などからの発注が急増して生産が追いつかないとして、去年8月から12月にかけて新規の受注を停止しました。
建物の外から電気を引き込むために使う「高圧ケーブル」に加え、潤沢にあったはずの、建物内で電気を送る「低圧ケーブル」も不足するようになったのです。
「こんなことは一度も経験したことがない」
取材したメーカーや電気工事会社の担当者が口々にこう話すほどの“異常事態”でした。
建物の外から電気を引き込むために使う「高圧ケーブル」に加え、潤沢にあったはずの、建物内で電気を送る「低圧ケーブル」も不足するようになったのです。
「こんなことは一度も経験したことがない」
取材したメーカーや電気工事会社の担当者が口々にこう話すほどの“異常事態”でした。
その後、大手メーカー4社はフル稼働での生産を続け、ことし2月から3月にかけて両ケーブルの新規受注を少しずつ再開。不足は解消に向かう見込みです。
ただ、注文から製品が届くまでに数か月かかるケースもあり、工事現場などでの不足が解消されるには、しばらく時間がかかるとみられます。
ただ、注文から製品が届くまでに数か月かかるケースもあり、工事現場などでの不足が解消されるには、しばらく時間がかかるとみられます。
今年に入って3回も!相次ぐ盗難
電線・ケーブル不足が広がるなか、電気工事会社は予想外の事態にも苦しめられています。
実はいま、工事現場などで電線・ケーブルが盗まれる被害が相次いでいるのです。
埼玉県三郷市にある電気工事会社では、ことしに入って3回も盗難被害に遭いました。被害額は合わせておよそ100万円にのぼるということです。
実はいま、工事現場などで電線・ケーブルが盗まれる被害が相次いでいるのです。
埼玉県三郷市にある電気工事会社では、ことしに入って3回も盗難被害に遭いました。被害額は合わせておよそ100万円にのぼるということです。
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この写真は、2月上旬に「低圧ケーブル」が盗まれた現場の様子です。赤い丸印が何者かに切断された箇所です。
ケーブルは建設中の会社事務所に取り付けたもので、盗まれたのはおよそ80メートル。
電線・ケーブルに使われている銅の価格が高止まりしているため、転売目的で盗まれたのではないかとこの会社は考えています。
電線・ケーブルの取り付け工事が終わっても、建物全体の工事が完了しないと施錠ができない場合があります。このため、事務所内に侵入されて盗まれてしまったとみています。
不足している今、新しい電線・ケーブルを用意しようとしてもなかなか手に入りません。
盗難被害を受けたほかの工事会社では、学校や店舗などの工事に遅れが出ているケースもあるといいます。
ケーブルは建設中の会社事務所に取り付けたもので、盗まれたのはおよそ80メートル。
電線・ケーブルに使われている銅の価格が高止まりしているため、転売目的で盗まれたのではないかとこの会社は考えています。
電線・ケーブルの取り付け工事が終わっても、建物全体の工事が完了しないと施錠ができない場合があります。このため、事務所内に侵入されて盗まれてしまったとみています。
不足している今、新しい電線・ケーブルを用意しようとしてもなかなか手に入りません。
盗難被害を受けたほかの工事会社では、学校や店舗などの工事に遅れが出ているケースもあるといいます。
対策強化に200万円
この電気工事会社では盗難防止の対策を強化しました。
まず、工事現場に作業員がいなくなる夜間に警備員を配置。さらに、新たに2台のコンテナを借り上げました。電線・ケーブルを施錠して保管するためです。工事で使う時には鍵を開け、現場まで運ぶようにしています。
まず、工事現場に作業員がいなくなる夜間に警備員を配置。さらに、新たに2台のコンテナを借り上げました。電線・ケーブルを施錠して保管するためです。工事で使う時には鍵を開け、現場まで運ぶようにしています。
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コンテナはこの会社の敷地に置かれ、監視カメラや赤外線センサーも設置されています。
これら一連の対策にかかった経費は200万円余りだということです。
これら一連の対策にかかった経費は200万円余りだということです。
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瀧澤社長
「電線・ケーブルがこれほど不足するのは初めての経験なので、早く元の状態に戻ってほしいです。盗難被害も相次ぎ、本来であればかけなくていい費用がかかっています。(同じように)盗難被害を受けている会社も多く、社会全体として対策を検討する必要があると感じます」
「電線・ケーブルがこれほど不足するのは初めての経験なので、早く元の状態に戻ってほしいです。盗難被害も相次ぎ、本来であればかけなくていい費用がかかっています。(同じように)盗難被害を受けている会社も多く、社会全体として対策を検討する必要があると感じます」
【不足の要因1】需要と供給のバランスが…
ではなぜ、電線・ケーブルが不足したのでしょうか。
経済産業省は、大手メーカーや業界団体などに聞き取りを実施。明確な原因が確認できたわけではないとしながらも、要因を挙げました。
経済産業省は、大手メーカーや業界団体などに聞き取りを実施。明確な原因が確認できたわけではないとしながらも、要因を挙げました。
不足の要因
▽コロナ禍で遅れていた工事の着工が相次ぎ、需要が高まった
▽電線・ケーブルが足りないという不安が広がり、工事会社などが実際の需要よりも多く発注するケースが出たのではないか
▽コロナ禍で遅れていた工事の着工が相次ぎ、需要が高まった
▽電線・ケーブルが足りないという不安が広がり、工事会社などが実際の需要よりも多く発注するケースが出たのではないか
こうした要因が重なったことで、注文が急増。メーカー側の生産が追いつかなくなり、不足が広がったのではないかというのです。
【不足の要因2】需要予測と注文量にずれ
一方、大手メーカーの「住電HSTケーブル」は、ほかにも理由があると説明します。
メーカー側の電線・ケーブルの需要予測と実際の注文量にずれがあったことも、不足の要因の1つと考えられるというのです。
メーカー側の電線・ケーブルの需要予測と実際の注文量にずれがあったことも、不足の要因の1つと考えられるというのです。
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このメーカーでは、去年6月から7月にかけて電気工事会社などからの注文が例年より少ない状態が続きました。
さらに8月には、電線の材料となる銅の価格が急激に上昇したことなどから、余分な在庫が出ないように生産量を減らす対応をとりました。
こうした中で、秋ごろから電線・ケーブルの注文が増加。増産体制を取ったものの、フル稼働になるまでは一定程度の時間を要したというのです。
さらに8月には、電線の材料となる銅の価格が急激に上昇したことなどから、余分な在庫が出ないように生産量を減らす対応をとりました。
こうした中で、秋ごろから電線・ケーブルの注文が増加。増産体制を取ったものの、フル稼働になるまでは一定程度の時間を要したというのです。
「在庫を持ちにくい」事情も
こうした対応の背景には、電線・ケーブルならではの「多量の在庫を抱えにくい」事情があるといいます。どういうことなのでしょうか?
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このメーカーや業界団体によりますと、電線・ケーブルの中心部分は主原料である「銅」でつくられていますが、銅の値段は大きく変動しやすく、さらに円安が続いていることもあって高止まりしているといいます。
そして、メーカーが電線・ケーブルを販売する際の価格には、この業界独特の「商習慣」で、仕入れた時の銅の価格ではなく、受注した際の銅の価格を連動させるといいます。
つまり、仕入れた時の銅の価格が高く、受注した際の銅の価格が低くなった場合、過剰な在庫を持つことで大きな損失が出るリスクがあるというのです。
そして、メーカーが電線・ケーブルを販売する際の価格には、この業界独特の「商習慣」で、仕入れた時の銅の価格ではなく、受注した際の銅の価格を連動させるといいます。
つまり、仕入れた時の銅の価格が高く、受注した際の銅の価格が低くなった場合、過剰な在庫を持つことで大きな損失が出るリスクがあるというのです。
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岡田社長
「銅の値段がかなり乱高下しています。今年度の変動は比較的少ないですが、それでも年間で高い時と安い時で15%くらい差が出ていますし、昨年度は30%以上差が出ました。銅価が仕入れ時よりも販売時の方が下がると、われわれメーカーとしては膨大な損失を抱えることになり、企業が立ちゆかなくなるくらいの損害が出るというのが実態です」
「銅の値段がかなり乱高下しています。今年度の変動は比較的少ないですが、それでも年間で高い時と安い時で15%くらい差が出ていますし、昨年度は30%以上差が出ました。銅価が仕入れ時よりも販売時の方が下がると、われわれメーカーとしては膨大な損失を抱えることになり、企業が立ちゆかなくなるくらいの損害が出るというのが実態です」
電線・ケーブルのメーカーを管轄する経済産業省は、こう指摘します。
経済産業省 金属課
「銅は世界的に投資家によって売り買いされており、銅価格は投機目的での売り買いの影響を受けます。また、一部の国でしか生産されていないため、その国の政治的、経済的な状況、自然災害の発生状況などで供給が左右されます。このため、銅の価格は急に上がったり下がったりするし、予測がつきにくいのです。また、電線業界の商習慣にも、今回の電線不足の一因があるのではと思っています」
「銅は世界的に投資家によって売り買いされており、銅価格は投機目的での売り買いの影響を受けます。また、一部の国でしか生産されていないため、その国の政治的、経済的な状況、自然災害の発生状況などで供給が左右されます。このため、銅の価格は急に上がったり下がったりするし、予測がつきにくいのです。また、電線業界の商習慣にも、今回の電線不足の一因があるのではと思っています」
“不安定さ”が及ぼす影響
専門家は、今回の電線・ケーブル不足のような事態は建設業界では今後も起きる可能性があるとしたうえで、対策の必要性を指摘します。
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三原教授
「建設業界というのは顧客の要望にあわせ、その現場にあった太さ、長さ、量を発注する“一品生産”で、少品種の大量生産ではありません。このため建設工事が集中すると、需要と供給のバランスが崩れて材料が手に入らなくなるという事態が起きてしまうのです。
円安で輸入資源が値上がりすれば、そうしたバランスがさらに崩れやすくなる。建設業界はこれまでは安定した供給がありましたが、最近になって突然、鉄が入らなくなった、木材が入らなくなった、電線がないという問題が出てきました。供給が不安定になる中で、どう対応していけばいいのかを、考えなければいけない時期にさしかかっていると思います」
「建設業界というのは顧客の要望にあわせ、その現場にあった太さ、長さ、量を発注する“一品生産”で、少品種の大量生産ではありません。このため建設工事が集中すると、需要と供給のバランスが崩れて材料が手に入らなくなるという事態が起きてしまうのです。
円安で輸入資源が値上がりすれば、そうしたバランスがさらに崩れやすくなる。建設業界はこれまでは安定した供給がありましたが、最近になって突然、鉄が入らなくなった、木材が入らなくなった、電線がないという問題が出てきました。供給が不安定になる中で、どう対応していけばいいのかを、考えなければいけない時期にさしかかっていると思います」
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機動展開プロジェクト記者
柳澤 あゆみ
2008年入局
秋田局、石巻報道室、カイロ支局などを経て現所属
柳澤 あゆみ
2008年入局
秋田局、石巻報道室、カイロ支局などを経て現所属
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北九州放送局記者
伊藤 直哉
2017年入局
山口局を経て現所属
伊藤 直哉
2017年入局
山口局を経て現所属