“飛ばない”バットと呼ばれて!? 実際、どうなん…

「音の割には打球が飛ばない」

「高く上がると失速する」

「バットの音と打球の速度が違う」

センバツに出場した選手や監督の試合後の発言です。

今大会からすべての金属バットが反発力を抑えた新たな基準のものになりました。

出場32チームすべてが初戦を終え、専門家の見方も交えて検証してみました。

“新金属バット”で変わった?!

新たな基準で反発力を抑えた金属バットを甲子園で使った選手たち。

選手や監督の発言に注目してみますと、まず打球音と飛距離に違いがあるようです。

バットによって違いはあるものの打球音はこれまでより全体的に高くなったという声が多く聞かれました。

「バットの音と打球の速度が違う」

「音の割には打球が飛ばない」と話す選手もいて、いい音がしても打球が伸びないと感じているようです。

日本高校野球連盟の試験では、打球の平均速度と初速が3%以上遅くなったほか、飛距離も5~6メートル落ちると見込まれています。

実際はどうなん?

大会を取材している私たちがバックネット裏の記者席から試合を見ていても「外野の頭を越える」と感じたライナーやフライが失速してアウトになるケースが何度もありました。

実際のデータではどうなっているのでしょうか?

出場校が初戦で打ったヒットを過去2大会と比べてみました。

二塁打以上の『長打』は、おととし(22年)と比べると大きく減りましたが、去年とはほとんど変わっていませんでした。

高校野球は毎年、出場校や選手の大半が入れ替わるために単純な比較はできないものの、この数字を見るかぎりでは、新基準のバットによる影響は限定的なものとみられます。

こうした状況についてNHKの高校野球の解説者に聞きました。

現在の三菱重工Westで野手として活躍した山口敏弘さんは単なる飛距離だけではなく長打の“質”、さらにはバットが変わったことで打者の心理面にも影響が出ているのではないかと指摘しています。

山口敏弘さん

NHK高校野球解説 山口敏弘さん
「飛距離が伸びなかったり、当たりが弱かったりする打球が目立つ。例えば(飛ばなくなったことで)外野手の守備位置がものすごく前になっています。今回の大会で長打になっているのも、去年までの定位置に守っていたら捕れていた打球が外野の頭を越えたりとか、レフト線やライト線に飛んだ打球も弱いので、ツーベースになったりとか。フェンスまでいかなくなりました。今まではフェンスに直接当たったり、フェンスまで転がったりした長打が結構あったのですが…。そういう長打の違いがあると思います」

「もう一つは、強くスイングをしている選手があまりいないです。長距離打者でも(新基準のバットが)芯に当たらないと遠くに飛ばないというイメージなので、打席に入った時の心理状態が少し消極的というか。今のバットでも芯に当たれば飛ぶと思います。何が正解かわかりませんが、強く振ることは忘れないでほしい」

対策してきたチームは

去年秋から新基準のバットへの対応に取り組んできた出場校の監督や選手たちは、打球が飛ばなくなっていることを改めて実感しているようです。

作新学院・栃木 小針崇宏監督
「打球の高さでいうと、打ち上げていくよりも低い打球、内野を抜ける打球を以前よりも心がけていかないとなかなかヒットにならないかなと思う」

宇治山田商・三重 村田治樹監督
「特にフライが飛ばなくなっています。外野手を定位置より前に守らせた」

阿南光・徳島 高橋徳監督
「木製を含めて、重さや長さを変えてさまざま種類のバットを使って1人400球から500球は打ち込んできた。その結果が出てきた」

ホームランを打った選手は…

1回戦16試合を終えた時点で、大会のホームランは2本。

このうち神村学園(鹿児島)の正林輝大選手は、ライトポール際へ打ちました。

去年夏の甲子園でも4番を任され、5試合で合わせてヒット10本、打率4割3分5厘をマークした「不動の4番」です。

神村学園 正林輝大選手

去年秋の九州大会を終えてから新基準のバットを使い始めました。

練習をしている学校の野球場では“5本に1本”はホームランを打っているということですが、最初は戸惑っていました。

神村学園 正林輝大選手
「あまり変わらないだろうと思っていたのですが、最初はバットの芯の位置がわからず、フェンスまで打球が飛ばなかったですし、調子がいいときに出ていた場外ホームランも出ませんでした」

「使い始めていくと、バットの芯で捉えれば打球の飛距離は出ると感じました。そこで芯で捉える練習をしようと思って、バッティングの質を上げることやウエイトトレーニングを大会までの期間にしてきました」

冬場に食事の量を増やして去年秋と比べて体重を10キロ増やしたほか、練習でも筋力トレーニングに多く時間を割いてパワーを向上させました。

新しいバットの感覚をつかみながらセンバツを臨みました。

正林輝大選手
「打った瞬間は入るかどうかわかりませんでしたが、入ったとわかった瞬間はうれしかったです。しっかりと芯を捉えれば、低反発のバットでも問題ないと思います。バッティングの技術を上げる意識っていうのは、大きく変わりましたし、やってきたことを出してホームランが打ててよかったです」

優勝のカギを“新バット”が握るか?!

対策を結果につなげることが出来たバッター、つなげられなかったチーム。

ただ、打球が飛ぶかどうかはバットだけでなく、ピッチャーやバッターの能力、さらに甲子園球場特有の風など、さまざまな要因が関わっています。

出場した全チームが初戦を終え、“新金属バット”の影響を受けたとみられる打球が多く出ている中、今後、優勝争いのカギも“バット”が握っていくのかどうか注目されそうです。

(甲子園取材班)並松康弘 具志保志人 松尾誠悟 山田俊輔