障害者グループホーム質向上へ 透明性高めるため厚労省が対策

障害者が地域で共同生活するグループホームを巡って、福祉経験が少ない事業者の参入で質が低下していると指摘されていることから、厚生労働省は4月から運営事業者に対して、外部の目を入れるための会議の設置を努力義務化することになりました。

グループホームは、障害者が地域の家庭的な環境で暮らせるよう整備が進められていて、事業所数は去年3月末時点で全国に1万2600か所と、5年前の1.6倍に増加しました。

しかし、数が増える中で、国の専門家会議のおととしの報告書では「福祉の経験の少ない事業者の参入が多く、質の低下が懸念される」などと指摘されていました。

また、去年12月には全国でグループホームを運営する企業「恵」が、利用者から集めた食材費のごく一部しか使わず、その差額を組織的に会社の利益としていたなどとして厚生労働省から勧告を受けました。

こうした中、厚生労働省は新年度からグループホームを運営する事業者に対して、利用者と地域住民や有識者などでつくる「地域連携推進会議」を設置することを努力義務化することになりました。

会議ではホームの運営内容を報告したり助言を受けたりするほか、住民がグループホームを訪ねて暮らしの様子を見学します。

再来年度からは会議の設置を義務化します。

厚生労働省は外部の目を入れてグループホームの運営の透明性を高めることで、サービスの質を向上させたいとしています。

「恵」利用者の母親「なんでこんな仕打ちを」

国から勧告を受けた「恵」のグループホームを利用していた障害者の母親は、支援の内容について、閉鎖的な環境で地域との関わりも無く、質が確保されていなかったと振り返りました。

千葉市に住む堀井弥穂さん(64)の息子の龍飛さん(36)は重度の知的障害があり、ことばで気持ちを伝えることができません。

龍飛さんは障害が重く、支援に人手や知識が求められることから、利用できる施設が見つからず、33歳まで障害のある子ども向けの入所施設で地元から離れた場所での生活を余儀なくされてきました。

将来に不安を感じていたとき、唯一利用の提案があったのが、県内にオープンした「恵」のグループホームだったということです。

自宅から近く、見学をした際には従業員から、複数のスタッフで利用者の支援にあたることや食事は栄養士が作ること、どれほど障害が重くても利用者を受け入れているという方針について説明を受けたため、入居を決めました。

ただ、入居をしてすぐに支援の内容に疑問を感じたといいます。

ある日の食事は小さなおにぎりが2つと少量のおかずのみと少なく、面会のたびに龍飛さんはやせていき、精神的にも不安定になっていったといいます。

職員からは納得できる説明はなく、不安に感じた堀井さんは龍飛さんを退去させ、現在は別の施設で暮らしています。

堀井さんは「なんでこんな仕打ちを受けないといけないのかしらとすごく思いました。重い障害のある利用者を受け止めるには適切な訓練や経験を積んだ人でないと難しく、人間らしく暮らすには、閉鎖的ではない地域に開かれた環境も必要だと思います。子どもの心を傷つけてほしくない。本当に障害者が安心して暮らせるためにはどうしたら良いか考えながら対策を行って欲しい」と話していました。

グループホームの運営会社「恵」は、NHKの取材に対し「担当者が不在で個別の利用者のことについてお答えできません」としています。

【対策1】職員の専門性

グループホームでの支援の質の向上に関わる新年度からの対策は大きく分けて2つです。

1つ目はグループホームで働く職員の障害に対する専門性を高めるための対策です。

現在、グループホームの運営の責任者にあたる「施設長」になるためには特別な資格は必要ありません。

このため厚生労働省は、施設長を務めるために必要な資格要件のあり方などについて、新年度から専門家に検討してもらうことにしています。

また、グループホームでの支援の質を高めるためのガイドラインの整備も検討します。

【対策2】運営の透明性

2つ目が、運営の透明性を高めるための対策です。

日中の作業所や就労支援事業所などと異なり、グループホームは障害者の生活の場であるため、従業員以外の第三者が訪れることが少なく、運営が閉鎖的になりやすいと指摘されています。

このため来月からは、利用者やその家族、地域の住民、障害福祉に関する有識者などからなる「地域連携推進会議」の設置が求められます。

会議では、障害者の日常生活の様子や支援の内容、運営状況などについて報告し、参加者から助言を受けるなどして意見交換を行います。

また、会議のほか、年に1回以上は会議の構成員が実際にグループホームを訪ねて暮らしの状況を見学する機会を設けることも求められます。

この取り組みは新年度から努力義務になり、再来年度からは義務化されます。

住民が協力のグループホーム 改善のアイデアも

障害者の暮らしの質を高めるために、地域住民などの外部の目を入れることで、透明性を高める取り組みを進めているグループホームがあります。

長崎県諫早市の社会福祉法人 南高愛隣会は、知的障害者などが暮らすグループホームをおよそ120か所運営しています。

法人では、障害者の暮らしの質を高めるためには、職員だけではなく地域の助けが必要だと考え、施設や利用者の暮らしを知ってもらうための会議を2013年から始めました。

会議は年に3回開かれ、地域住民などに運営状況を紹介しているほか、グループホームに住民を招いて見学会を行っています。

会議をはじめた当初は出席者がなかなか集まらないこともあったということですが、障害者が地域の清掃活動に参加するなど積極的に交流し、住民からの意見を聞き取って反映させて、少しずつ関係を築いてきました。

その結果、現在では住民たちが会議で施設の改善に向けたアイデアを積極的に出してくれるようになったといいます。

今月、雲仙市内で行われた会議では、地域の町内会長や民生委員、利用者の家族など10人余りが参加し、去年の見学会で住民から危険だと指摘された側溝の溝を修理したことの報告や、利用者を対象にしたアンケートの結果などについて話し合っていました。

さらに、施設で行われているソフトボールのクラブ活動についても、住民が力を貸してくれています。

職員の異動で活動が休止していましたが、住民が職員の代わりに講師を務めたいと提案してもらえたことで、活動を再開できたということです。

こうした活動を続ける中で、利用者が地域で困っていると住民が自然と手助けをするような関係になっているといいます。

南高愛隣会の田島光浩理事長は「閉鎖的にやっていると、利用者さん達が望むことをやれないので、暮らしの質を高めるためにはグループホームとして地域に開いて、いろいろ教えてもらうことが大事だと思う。まずは地域住民との会議を通して運営について開示し、関係を築くきっかけを作る姿勢が重要で、信頼の上に意見をもらえるような関係作りが大事だと思う」と話していました。

専門家「グループホームも1つの住居 地域と関わりを」

グループホームを巡る現状について、障害福祉に詳しい日本社会事業大学専門職大学院の曽根直樹教授は「これほどグループホームが増加している背景には、依然として障害者が地域で生活をするための社会資源が足りていないことがある。以前は社会福祉法人やNPOなどの非営利の法人がグループホームを開設してきたが、質を保った形で運営をするためには、これ以上増やすことができない状態になってきている。そこへ営利法人が、人材などが確保できていない状態でたくさんのホームを作る形で参入してきており、いま、支援の質の低下が大きな課題となっている」と指摘していました。

その上で、来月から始まる「地域連携推進会議」の役割について「グループホームは外から見えにくく、閉鎖的になりやすい。会議には様々な機能が期待されるが、最も大切なのは地域との関わりを作ることだ。会議をきっかけに、障害者や事業所と住民がお互いを知り合い、良い関係を築くことができれば、例えば万が一、障害者の権利侵害が起きたときにも地域が気がつきやすくなる。グループホームも地域の1つの住居として隣どうし関わり合っていこうという関係を作るきっかけにすることが重要だ」と話していました。