犯罪被害者遺族給付金で初判断「同性パートナーも対象」最高裁

犯罪被害者の遺族に支払われる国の給付金について、最高裁判所は「被害者と同性のパートナーも事実婚に該当し対象になりうる」という初めての判断を示しました。事実婚のパートナーを法律婚と同等に扱う規定は、年金など多くあり、同様の規定の議論などに影響を与える可能性があります。

名古屋市の内山靖英さん(49)は、10年前に、同居していたパートナーの男性を殺害され、犯罪被害者の遺族を対象にした国の給付金を申請したものの認められず、不服として愛知県に対する裁判を起こしました。

裁判では、給付金の対象とされている「事実上の婚姻関係にあった人」に同性のパートナーが含まれるかどうかが争点となり、1審と2審は、対象に含まれないとして訴えを退け、内山さんが上告していました。

26日の判決で、最高裁判所第3小法廷の林道晴裁判長は「被害者の死亡で、精神的、経済的打撃を受けるのは、異性か同性かで異なるとはいえない。被害者と同性のパートナーも事実婚に該当し、給付金の対象になりうる」という初めての判断を示しました。

そのうえで、被害者と事実婚の関係だったかどうか、さらに審理を尽くす必要があるとして、名古屋高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

判決は5人の裁判官のうち4人の多数意見で、1人は「同性パートナーは事実婚には該当しない」という反対意見を出しました。

事実婚のパートナーを法律婚と同等に扱う規定は、年金など多くあり、同様の規定の議論などに影響を与える可能性があります。

林裁判長の補足意見“趣旨目的踏まえ検討を”

裁判官出身の林道晴裁判長は、補足意見で、事実婚について取り決めたほかの法令や規定に同性婚も含まれるかどうかの解釈について「制度全体の趣旨、目的や仕組みなどを踏まえたうえで規定ごとに検討する必要がある」と述べました。

犯罪被害者遺族の給付金については「被害者と同性の人であっても被害者との関係、互いに協力して共同生活を営んでいたという実態や、その継続性から異性の内縁関係に準ずる関係だったと言える場合には、遺族に含まれると解釈するのが相当だ」と述べました。

今崎裁判官の反対意見「簡単に答え出せる問題ではない」

一方、裁判官出身の今崎幸彦裁判官は、5人の中で唯一「同性パートナーは事実婚には該当しない」という反対意見を出しました。

今崎裁判官は「判決で示した事実婚の解釈がほかの法令に波及することが想定され、社会に大きな影響を及ぼす可能性があり懸念がある」と述べました。

さらに同性パートナーの事実婚の要件について「単なる同性同士の共同生活と何が異なるのか、何をもって事実婚と同様と認めるかは簡単に答えが出せる問題ではない。今回の論点は家族をめぐる国民一人ひとりの価値観に関わるが、そうした議論の蓄積があるとは言いがたい。現時点では先を急ぎすぎている」と述べました。

原告 “安心できた 同性でも異性でも苦しみ変わず”

判決後、原告の内山靖英さんは、弁護士とともに都内で会見を開きました。

事件以降、声を発することが難しくなったため、弁護士が代理としてコメントを読み上げました。

コメントでは「パートナーを殺害された苦しみは、同性でも異性でも変わらないのに、違う扱いをされることは、おかしいと思っていました。今回、最高裁の裁判官が同じだと認めてくれて、ようやく安心できました」などとしています。

堀江哲史弁護士は「きょうの判決の解釈が、ほかの法律に直接当てはまるわけではないが、それぞれの制度でも必要性がある場合などは、同性の事実婚も保護の対象にできる余地を残していて評価できる。一日も早く、内山さんに支給が認められる進め方を望んでいる」と話していました。

民間企業では同性パートナーがいる社員支援も

同性カップルが法律上の事実婚に当たるかどうかが争われた今回の裁判。

民間では、同性パートナーがいる社員を支援する企業も増えてきています。

性的マイノリティーが働きやすい職場づくりを進める企業などを毎年表彰している一般社団法人「work withPride」によりますと、社員の同性パートナーも「配偶者」と同様、
▽看護や介護の休暇
▽家族手当
▽会社独自の遺族年金や保険の受け取り人に指定できる
などの支援をする企業が、年々増えているということです。

例えばKDDIは、
▽同性パートナーを「配偶者」に含め、休暇や祝い金などの社内制度を利用できるようにしているほか
▽4年前には、同性パートナーとの子どもを家族として扱う制度を始め、育児休職や看護休暇、出産祝い金などの対象にしているということです。

JR東日本も、
▽同性パートナーがいる社員が、事実婚をしている社員と同じ制度が利用できるようにしていて、
▽介護や出産の休暇や、扶養手当などの対象としています。

「work withPride」の代表の松中権さんは「性的マイノリティーも含めたすべての社員が自分らしく安心して働けるということが、企業や経営にとってメリットになるということに理解が進んでいる。一方、いろいろな仕組みが婚姻制度に紐付いているため、国が変わらないと、本当の意味で社員を守ることができない」と述べ、企業の支援にも限界があると指摘します。

そのうえで、最高裁の判決について「裁判所の社会に対してのメッセージでもあると思うので、注目している」と話していました。

専門家 “インパクト非常に大きく一つのステップに”

性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は、26日の判決について、「最高裁が、異性と同性のカップルに違いはないのだから、実態を見て判断すればよいと述べたのは重要なことで、社会や企業、行政などに与えるインパクトは非常に大きい」と評価しています。

そのうえで、「それぞれの法律の事実婚に関する規定のことばは、ほとんど同じなので、今後、法律の趣旨や目的に照らして、同性カップルを含めないことが正当化できるのかどうかが議論になっていくだろう。国や行政が同性カップルの権利の保障について本格的に動いていくための、一つのステップになったのではないか」と話していました。

愛知県警 “判決内容を精査し適切に対応”

判決について愛知県警察本部の加藤久幸監察官室長は「今後、判決内容を精査の上、適切に対応します」とコメントしています。