“やり残したことはない”入江陵介 若手の壁になり続け

「やり残したことはないですかね。やりすぎちゃったかなと思っています」

日本競泳界初となる5大会連続のオリンピック出場は果たせなかった入江陵介選手。第一線で泳ぎ続け、若手選手の壁となりつづけた34歳が、“集大成”と位置づけたパリオリンピックへの挑戦を後輩に思いを託して終えました。
(スポーツニュース部 記者 松山翔平)

入江陵介 選手
「過去、何回オリンピックに行っているとか、ベテランだとか若手だとか関係ない。それが競泳の良さで、一発で決まる選考の良さ。それを乗り越えて、いい景色を見たい」

今大会前に入江選手が語ったことばです。

“一発勝負”の場でみずからのすべての力を出し尽くすという決意がうかがえました。

世界選手権(2023年7月)

5大会連続のオリンピック出場を目指し、2022年に現役続行を表明した入江選手。

この大会までの道のりは決して順調ではありませんでした。

去年は7月の世界選手権前に肩を痛め、その後は思うように体重や筋量が増えず泳ぎのスピードが出ない時期が続きました。

アジア大会(2023年9月)

当時について入江選手は次のように振り返ります。

「けがも体調不良もさらに心の不調もあり、心技体のどこかが常に悪い状態。すごくしんどくて、つらい時期だった」

そして、ことし1月の国内大会では22歳の松山陸選手に100メートル背泳ぎで敗れ「こんなにも試合に臨むのが嫌なのは久しぶり」とまでこぼしました。

そうしたなか、代表選考に向けて入江選手の気持ちを再び奮い立たせたのは「若手の壁になる」、そして「プレッシャーを楽しむ」という気持ちでした。

「若い選手には僕を超えていってほしいし、どんどん勢いを持ってきてほしい。自分自身も“高い壁”になりたい。人生の中でこれほどのプレッシャーを味わうことはなかなかないと思う。もしかしたらオリンピックに関する選考会は最後になると思うので、このプレッシャーを存分に味わいたい」

迎えた代表選考。

最初の種目の男子100メートル背泳ぎでは、予選・準決勝と、ねらいどおりに泳ぎ「負けたくないし、プライドだけは強く持って」と意気込んで決勝に臨みました。

しかし、またも松山選手に敗れて2位。派遣標準記録も切れずに、得意種目での代表内定はなりませんでした。

オリンピック出場に向けあとのない状況で迎えた22日の男子200メートル背泳ぎ決勝。

「すがすがしく、レース前も落ち着いていた」とベテランらしい平常心で臨みましたが、優勝した19歳の竹原秀一選手に終始先行されるレース展開で3位に終わり、この種目でも代表内定はつかめませんでした。

これまで入江選手が大きな壁となり、引っ張ってきた日本男子の背泳ぎ。

背泳ぎの2種目、いずれも若手が入江選手を破って優勝し、新たな時代の到来を感じさせる結果となりました。

代表内定 竹原秀一選手(19)

優勝し、初のオリンピックの切符をつかんだ竹原選手は、その思いを受け止めました。

竹原秀一 選手
「入江選手には『ここからだよ、頑張って』と声をかけてもらった。入江選手の分まで頑張って、自分が背泳ぎを引っ張っていきたい」

入江選手はレース後、これまでの競泳人生を振り返りつつ話しました。

「自分を褒めてあげたいと思う。ずっと競泳1本でやってきて、青春も含めてずっと競泳で生きてきた。16歳から選考会のプレッシャーを味わい、そこで生きてきたのでしんどかった。これまで代表に入ることが当たり前で、代表から落ちたという、この気持ちになったのが人生で初めてなので、なにか不思議な感覚だ」

そのうえで…。

「世代交代を感じるような大会で、それはすごく喜ばしいことだ。ベテランとしてあらがって、一緒に代表に入りたい気持ちは強かったが、フレッシュなメンバーで頑張ってほしいなという気持ちがすごくある」

若手の壁になり続けた入江選手。

“集大成”の戦いを終えた34歳の表情は、明るい未来に期待するようにすがすがしさにあふれていました。

入江選手のレースのもようはNHKプラスで配信中↓↓↓(2024年3月29日まで)