池袋暴走事故 遺族が刑務所職員を介して加害者に思い伝える

5年前、東京 池袋で起きた暴走事故で妻と娘を亡くした松永拓也さんが、事故を起こした受刑者が収容されている刑務所を22日、初めて訪れました。刑務所の職員を介して、被害者などが加害者本人に心情を伝えることができる新たな制度を利用し、「人と人として向き合い、ちゃんと話がしたい」と思いを伝えたということです。

2019年4月、東京 池袋で車が暴走し、松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が死亡したほか、9人が重軽傷を負った事故では、車を運転していた飯塚幸三受刑者(92)が過失運転致死傷の罪で禁錮5年の実刑が確定しました。

この事故で妻と娘を亡くした松永拓也さんは、被害者や遺族の心情を加害者に伝えることができる新たな制度を使って受刑者に思いを伝えたいと、22日、収容されている刑務所を初めて訪れました。

去年12月に始まったこの制度では、刑務官など収容施設の職員が被害者や遺族から心情を聴き取り、加害者本人に伝えます。

松永さんによりますと、担当の職員とおよそ2時間やりとりし「刑事裁判で無罪を主張され、すごく苦しくつらかったが、真菜と莉子の命を無駄にしたくない、あなたの経験や苦悩も無駄にしたくないので、人と人として向き合い、ちゃんと話がしたい」などと思いを伝えたということです。

終了後、松永さんは「被害者と加害者という立場を越えて、一緒の目線で再発防止を考えることが重要だと思っている。自分が望んでいることが少しでも加害者に伝わるといいなと思う」と話していました。

今回の制度とは

刑務所や少年院が犯罪被害者や遺族の心情などを聴き取って加害者本人に伝える制度は、去年12月に始まりました。

被害者と加害者の間に立つのは、「被害者担当官」として専門の研修を受けた職員で、全国の刑務所や少年院に配置されています。

被害者や遺族から心情や自身の置かれている状況、加害者の施設での生活に対する意見などを聴き取って書面を作り、加害者に読み聞かせます。

被害を受けた人の心の回復などを図るとともに、加害者に反省を促し、立ち直りや再犯防止につなげるねらいがあり、被害者側は希望すれば、心情を伝えられた際の加害者の様子や発言を知ることもできます。

法務省によりますと、被害者側が逆恨みされるおそれがある場合などは、制度を利用できないこともあるということです。

22日、松永さんから心情を聴き取った被害者担当官は「被害者のための制度ということを念頭におきつつ、受刑者に対しても、伝え方一つで深く重く伝わったり、更生に効果的になったりすると思うので、被害者が話したことをただ単に伝えるのではなく、受刑者に響くよう伝えたい」と話していました。