香港で「国家安全条例」23日に施行へ 企業活動などに影響懸念

香港では、スパイ行為など国家の安全を脅かす行為を取り締まる「国家安全条例」が、23日に施行されます。条例をめぐっては、犯罪行為の定義が広くあいまいだという指摘があり、企業活動などへの影響が懸念されています。

香港の「国家安全条例」は、2020年に施行された「香港国家安全維持法」を補完するもので、
▽「国家機密」を盗むことやスパイ行為
▽反乱の扇動
▽外国勢力による干渉
などを犯罪として規定し、違反すれば最高で終身刑を科すとしています。

親中派が議席をほぼ独占する香港の議会、立法会は、異例のスピードで審議を行い、3月19日に条例案を全会一致で可決しました。

条例は、23日に施行されます。

この条例では、「国家機密」を不法に取得したり開示したりすると懲役5年から10年を科し、外国での行為も取締りの対象としています。

「国家機密」には、「中国や香港の経済・社会、科学技術の発展に関する情報」も含まれると規定するなど範囲が広いうえ、具体的に何を「国家機密」とするかは当局の判断に委ねられ、ビジネスで知り得た情報なども国家機密にあたると判断されるのではないかと懸念する声が出ています。

「反スパイ法」が施行されている中国本土では、日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されるケースが相次いでいますが、「一国二制度」のもと、中国本土とは異なる法律が適用される香港で、どのような運用が行われるのか注目されています。

香港市民は

「国家安全条例」が施行されることについて22日、香港の市民からはさまざまな声が聞かれました。

60代の男性は「この条例はもっと早く制定されるべきだった。厳しい内容と思うかもしれないが、あとからみれば国家の安全は重要だとわかるでしょう」と話していました。

また、この条例について尋ねたところ、20代の男性は「誰も何も言いたくなくなるでしょう」と答えていたほか、「話せない」などと発言を控える人たちの姿も目立ちました。

専門家「香港の独自性がますます失われる」

中国の社会問題に詳しい東京大学大学院の阿古智子教授は「具体的に、何をすれば国家の安全を脅かすことになるのか、非常にあいまいだ。条例の施行によって、慎重に行動したり、発言を控えたりすることが当たり前になってしまう」と述べ、香港で言論や行動の自由を制限する動きが広がることへの懸念を示しました。

そして、香港で条例に対する表立った抗議がみられないことについて「市民は本音ではもう許せない、もう我慢できない、大声で抗議したいということだと思うが、それをやってしまうと、どこで何をされるか分からない。本当に苦しい状況だと思う」と指摘しました。

さらに阿古教授は、条例は日本のビジネス界などにも大きなリスクになると指摘したうえで、「外国企業の投資がどんどん香港から逃げていってしまい、香港の独自性がますます失われ、中国の一部になってしまう」と警鐘を鳴らしました。

そして、中国経済が低迷する中、条例の施行は中国に対する海外の見方にも影響するとして、「中国は自国の経済を回復させたいのに、自分から問題のある方向に突き進んでいるような感じがする」と批判しました。