甲子園のチアリーダー 盗撮被害から守るために 自衛策進むも

連日、熱い戦いが続く、センバツ高校野球。
選手たちのプレーに加えて、大会を彩る「華」と言えるのがアルプス席のチアリーダーです。

ただ、特に近年、大きな課題となっているのが彼女たちをねらった「盗撮」。

この卑劣な行為から生徒たちを守ろうと、各学校では対応に追われる状況が続いています。

アルプス席“撮影禁止”

晴れの舞台に立つ選手たちに声援を送る甲子園のアルプス席。

ただ、ことしのセンバツ大会の1回戦では、どことなく「緊張感」が漂っています。

「撮影禁止」
「撮影はご遠慮ください」

そう書かれたプラカードのようなものを観客に対して掲げる学校関係者の姿が目立っているのです。

理由は、応援を引っ張るチアリーダーたちをねらった「盗撮」が相次いでいることでした。

大きいサイズの長袖、タイツ、半ズボン…

生徒に対する撮影に目を光らせる一方で、学校側では、チアリーダーが着用するユニフォームを変更する動きも進めています。

10年ぶり出場の愛知・豊川高校は、スカートの下には黒のタイツを着用し、上半身は長袖で、しかも「体のラインが強調されないように」とサイズが大きめのものにしたということです。

豊川高校 チアリーディング部顧問 加藤美紀子教諭
「SNSが発達する中で、生徒たちには『あなたたちを守るため』と伝えました。ただ、この問題は本当に難しいですね…」

また、6年ぶり出場の千葉・中央学院も「盗撮予防」を目的に、今大会からスカートではなく「半ズボン」に変更しました。

盗撮は“心の一生の傷”

さらに、過去のセンバツではベスト4に進出したことがある群馬の高崎健康福祉大高崎高校も同様に、今大会からの「半ズボン着用」に切り替えました。

過去6回出場した大会では、実際に「盗撮被害」に悩まされてきたといいます。

記者を装い、隠し持ったスマートフォンで撮影する姿が確認され、そのたびに教員が注意したものの、対応が追いつかなかったということです。

応援の責任者を務める塩澤光平教諭は憤りを隠しません。

健大高崎 塩澤光平教諭
「盗撮されると『心の一生の傷』になってしまいます。絶対にやめてほしいです」

新たなユニフォームに戸惑いも

健大高崎は、ユニフォームの変更が「苦渋の決断」だったと明かしています。

届いたばかりのユニフォーム

過去の大会で応援の姿を見て「ユニフォームへの憧れ」を持って入学する生徒もいることからです。

当事者であるチアリーダーの生徒たちは何を思っているのか。

甲子園での初戦前日。

出発直前に、ようやく生徒たちに「半ズボン」の新たなユニフォームが届くタイミングで取材をさせてもらいました。

早速、開封して試着し練習を終えた生徒たち。

「結構かわいい」「野球部と一体感があるのでいい」と評判は上々でした。

一方で、スカートから半ズボンに変わることへの驚きや複雑な思い、そして、甲子園ではないものの、地方大会で被害を経験したことを明かす生徒もいました。

チアリーディング部員
「え!?みたいな驚きがありました。悲しかったです」
「スカート履くだけでもテンション上がるし、かわいらしく踊れるので、スカートがよかったなということはあります」
「去年の秋の大会で、実際に自分が盗撮されて…。盗撮被害が多いと知っていたんですけど、された時もびっくりしたので『ちょっとスカートが危ないな』みたいな感じだったんです」

顧問は、ユニフォーム変更を告げた時のことをこう明かしました。

健大高崎 チアリーディング部顧問 雨宮由利子教諭
「最初ですか?全然いい反応じゃなかったですよ。『変わっちゃうんですか?』みたいな反応でしたね。(自分の中での葛藤は?)すごくありました」

「それを着て演技をすることに、プライドや自信を持っている部分があるんです。言い方がすごく悪いんですけど…」と前置きした上で、続けました。

「盗撮する人がいるからというだけで、彼女たちが着たいものを着させてあげられない。自分たちがしたい応援スタイルをさせてあげられないというのが、一教員として『もやもや』する部分でした。あの人たちもそうですし、私たちの方も納得するのに難しかったかなと感じました」

一般客“しっかり対策を”

翌日の試合、新たなユニフォームを着用したチアリーダーたちの応援を受けて、健大高崎は初戦を突破しました。

そのアルプス席にいた一般の客にも話を聞きました。

20代女性
「不安を感じながらやるよりも、対策していたほうが、気にせずに応援できるのでいいと思います。甲子園のスタッフの皆さんが、きちんとセキュリティー(対策)をして、被害がなくなるのが正解ではないかな」

30代男性
「(半ズボン着用は)盗撮の問題にもなりにくいし、いいかなと思います。盗撮はやめてほしいですよね。自分からしたらやる人の意味がわからない」

大会本部“全力で応援できる環境を”

こうした現状や声に対して大会本部は、NHKの取材に次のように回答しました。

大会本部コメント
「開幕前に出場校の応援団責任者を集めて開催する会議で、アルプススタンドの最も内野席寄りの通路にはチアを配置しないようにすることなどを勧めています。また、出場校向けに配布する資料には、アルプスの座席表やチアの配置例を示すほか、上記会議後にはアルプスを実際に視察してもらい、ブラスバンドなども含めた応援団の配置について安全面の観点からも検討してもらっています。
アルプスにとどまらず盗撮は決して許されない行為であり、大会本部としては、引き続き出場各校とも連携し、すべての応援団の皆さんが気持ちよく、全力で応援できる環境を整えられるよう取り組んでいきたいと考えています」

盗撮は“犯罪”

グラウンドの選手たちに2時間、長ければ3時間ほども、アルプス席に立って踊り、声援を送り続けるチアリーダーたち。

その姿をねらう「盗撮」をめぐっては、去年、わいせつな画像の撮影や第三者への提供などを取り締まるための「撮影罪」が新たに設けられました。

盗撮は犯罪。

その卑劣な行為に対して、許さないという強い姿勢を持ち続け、「NG」を発信し続けていくことが大切だと、感じています。

(前橋放送局 中藤貴常/甲子園取材班 藤原陸人)

(2024年3月23日「おはよう日本」で放送)