水俣病訴訟 一部の原告にり患認めるも訴え退ける 熊本地裁

水俣病と認定されず、救済策の対象にもならないのは不当だと主張して、熊本や鹿児島などの140人余りが国と熊本県、それに原因企業に賠償を求めた裁判の判決で、熊本地方裁判所は原告側の訴えをいずれも退けました。

このうち一部の原告については水俣病とは認めましたが、損害賠償を求めることができる期間が過ぎていると判断しました。

熊本県水俣市や天草市、鹿児島県出水市などに住む50代から90代の144人は、手足のしびれなど水俣病特有の症状があるにもかかわらず、水俣病に認定されていない人を救済する特別措置法で対象外とされたのは不当だなどとして、国と熊本県、原因企業のチッソの3者に1人あたり450万円の賠償を求めました。

22日の判決で、熊本地方裁判所の品川英基裁判長は、原告側の訴えをいずれも退けました。

裁判長は、水俣病に り患したと認められるケースについて、「有機水銀の汚染があった期間に、八代海の魚介類を継続的に多く食べたあと、おおむね10年以内に発症している場合だ」としました。

その上で、公的な検診の記録がない原告や、ほかの病気による症状の可能性がある原告は、水俣病との因果関係があると認められないという考え方を示し、原告のうち119人については水俣病と認められないと判断しました。

一方、25人については水俣病と認め、この中には特別措置法の救済対象の地域に住んでいなかった人も含まれています。

しかし、損害賠償を求めることができる20年間の「除斥期間」が過ぎていると指摘し、いずれも訴えを退けました。

同様の集団訴訟の初めての判決で去年、大阪地方裁判所は原告全員を水俣病と認めて国などに賠償を命じており、判断が分かれる形となりました。

判決が言い渡されると、熊本地方裁判所の前では原告側の弁護士が「不当判決」「すべての水俣病被害者の救済を求める」と書かれた紙を掲げました。原告や支援者は、涙を浮かべたりうなだれたりしていました。

原告弁護団 控訴の方針「不当判決にめげず闘う」

原告側の訴えを退けた熊本地方裁判所の判決について、原告の弁護団は「不当判決にめげず、闘っていきたい」と述べ、控訴する方針を示しました。

22日の判決後、弁護団は熊本市中央区で集会を開き、原告に向けて判決の内容を説明した後、記者会見しました。

この中で園田昭人弁護団長は、「被害の実態を公正な目で見た大阪地裁の判決と真逆で、非常にひどい内容だった。不当判決にめげず団結して闘っていきたい」と述べ、控訴する方針を示しました。

原告団長の森正直さんは、「全員棄却という裁判長の第一声には耳を疑いました。怒りを通り越した判決で、すべての被害者が救済されるまで闘いたい」と語りました。

今後、水俣病の裁判をめぐっては、4月に新潟地方裁判所でも判決が言い渡される予定で、新潟弁護団の中村周而弁護団長は、「熊本地裁の判決の矛盾点を解き明かすような判決になってほしいと期待している」と述べました。

林官房長官「引き続き関係省庁で適切に対応」

林官房長官は午後の記者会見で、「裁判には、引き続き関係省庁で適切に対応していく。被害者救済については公害健康被害への補償や特別措置法に基づく給付などを適切に行うとともに、医療福祉の充実や地域づくりなどに取り組んでいく考えだ」と述べました。

環境省「今後も法律の丁寧な運用を積み重ねていく」

水俣病に関する補償や施策などを担当する環境省は判決について、「判決の詳細は把握していないが、結論として、原告の請求が棄却されたものと承知している。環境省としては、今後とも、公害による健康被害への補償に関する法律の丁寧な運用を積み重ねていくとともに、地域の医療・福祉の充実、地域の再生・融和・振興に取り組む」とコメントしています。

チッソ「コメントは特にございません」

22日の判決について、被告のチッソは、「弊社としてコメントすることは特にございません」としています。

新潟県の原告・弁護団「新潟では事実に向き合い妥当な判決を」

同様の集団訴訟で4月に判決が言い渡される新潟県の原告や弁護団が記者会見し、「意外で、不当な判決だ。新潟では事実に向き合い妥当な判決が出ることを確信している」などと訴えました。

22日の判決で熊本地方裁判所は、水俣病特有の症状があるにもかかわらず、水俣病に認定されていない人を救済する特別措置法で対象外とされたのは不当だなどして国や原因企業などに賠償を求めていた144人の訴えをいずれも退けました。

これを受けて、新潟水俣病の被害を訴える同様の集団訴訟で、4月に判決を控える原告と弁護団が新潟市で記者会見を開き、弁護団の味岡申宰事務局長は「救済されていない水俣病被害者が大勢いる熊本の地元の裁判所がこのような判決を出すのは意外で、不当だ。新潟では事実に向き合い妥当な判決が出ることを確信している」と訴えました。

その上で、「新潟での判決は水俣病の問題を正しい解決の道に戻す非常に大きな意味を持つことになる」と強調しました。

また、原告団の団長を務める皆川栄一さん(80)は、「大阪と熊本で別々の判断を出した司法のあり方に疑問を感じる。『新潟の裁判は全員が勝つ』という強い気持ちをもって判決までの時間を過ごしていきたい」と話していました。

原告全員を水俣病と認定した大阪裁判の原告・弁護士は

同様の集団訴訟で初めての判決で去年、大阪地方裁判所は原告全員を水俣病と認めて国などに賠償を命じています。

この裁判の原告と弁護士が、22日の熊本での判決を受けて大阪で記者会見を開きました。

弁護団の井奥圭介弁護士は、「予想外であり残念だ。発生から長い年月がたった水俣病を救済すべきという世論の流れに反する判決だ」と述べました。

また、鹿児島県阿久根市出身で、現在は大阪・島本町に住む原告の1人、前田芳枝さんは、「怒り心頭のひと言に尽きる。熊本訴訟の判決を知ったとき、頭が真っ白になってしまった。多くの原告は高齢で残された時間が少ないので、一刻も早く解決をしてほしい」と訴えました。

そして、熊本県上天草市出身で、現在は東大阪市に住む原告の安田幸美さんは「熊本は水俣病の一丁目一番地だ。今回の判決のショックは大きいが、悔しさを力に変えて共に闘っていきます」と話しました。