ライバルとの切磋琢磨で元世界記録保持者が復活 渡辺一平

北島康介さんなどが活躍した日本のお家芸、男子200メートル平泳ぎで2大会ぶりのオリンピックの切符をつかんだ渡辺一平選手。元世界記録保持者は、練習パートナーであり、ライバルでもある存在との切磋琢磨(せっさたくま)を経て復活を果たし、悲願とするオリンピックでのメダル獲得へ、新たな一歩を踏み出しました。
(スポーツニュース部 記者 松山翔平)

その存在とは、大手私鉄で駅員経験もしながら競技に取り組んできた深沢大和選手。

渡辺選手と深沢選手(2024年1月)

元世界記録保持者の渡辺選手が、深沢選手とチームメートとなったのはおよそ1年半前。「一番の挫折を味わった」という東京オリンピック出場を逃した経験を経て、渡辺選手は高城直基コーチのチームに加わったのです。

高城コーチは、ロンドンオリンピックの銅メダリスト、立石諒選手などを指導し、厳しいメニューを課しながら練習を楽しめる雰囲気作りも重視することで知られています。

ここまでの渡辺選手は、とにかく苦しいことを課すことで世界記録をマークしましたが、改めて競技人生を振り返り、自覚しました。

「東京オリンピックに行けなかったのは、楽しむ部分が足りなかったからだ。緊張感は必要だが、オリンピックに出る選手は誰よりも競泳が好きで、平泳ぎという種目が好きで、そこに探求心を持って努力してきた人間がオリンピックという舞台に進めるものだと思った。失敗を経験したからこそ、アスリートとして1つ大きくなった」

その渡辺選手の練習パートナーとなったのが、慶応大時代から高城コーチの指導を受けてきた深沢選手でした。

大学卒業後は大手私鉄に就職し、仕事をしながら競泳を続けてきましたが、会社と相談し、去年10月から「出場できればパリオリンピックまで」という約束で競技に専念してきました。

渡辺選手と深沢選手。

2人は練習中から常に競い合い、深沢選手が競技専念後に一気にタイムを伸ばしてきたことで、いつしか“練習パートナー”から“ライバル”と認め合う関係となりました。

それが相乗効果を生んで、さらなるレベルアップにつながり渡辺選手は課題だった後半の粘り強さが強化され、今年度の全選手のトップのタイムをマークするなど輝きを取り戻していきました。

「去年10月くらいまでは僕が全力を出したら深沢選手に負けることはほとんどなかったが、今はもうライバルで、本当に負けたくない選手の1人。一緒に練習できる喜びを感じるし、いつも深沢選手に勝ちたくてうずうずしながら練習に取り組めた」

そして今回の代表選考。

激戦が予想された男子200メートル平泳ぎの代表争いは、予選・準決勝と、渡辺選手がいずれもトップで通過し、深沢選手や花車優選手が追いかけるという展開となりました。

そして決勝では、渡辺選手がレース前半から先行すると、鍛えてきた後半の粘りも見せて優勝し、2大会ぶりのオリンピックの切符をつかみました。

その一方で、ライバルの深沢選手は終盤に猛然と追い上げるも3位に終わり、初のオリンピック出場を逃しました。

レース後、深沢選手は涙をこらえながら「すごく悔しいけど全力で泳いだし、幸せな時間だった。内定した2人には僕らの分も頑張ってほしい」と話しました。

思いを託された渡辺選手は、感謝を口にしました。

「僕1人では逃げそうになったこともあったし、全力で泳いでいるライバルが隣にいたからこそ、この結果につながったと思う。高城コーチにも厳しいトレーニングを課してもらったおかげで、強くなって戻ってくることができた。さらに強くなってまた世界一を目指したい。日本のお家芸を復活させたいし金メダルを目指して精進していきたい」

パリ五輪に内定した渡辺選手と花車選手

高め合ってきたライバルの思いも背負い、2回目のオリンピックを見据える渡辺選手。

“お家芸”復活へ、パリの舞台で表彰台をねらいます。

渡辺選手がオリンピック代表内定を決めたレースのもようはNHKプラスで配信中↓↓↓(2024年3月28日まで)