「しんどい時に人間の素が出る」教えは心の支えに

「しんどい時に人間の素が出る」

大阪桐蔭高校の西谷浩一監督は、このことばを大切にしてきました。

甲子園で積み重ねた勝利数は「67」、歴代最多まであと1勝です。

大舞台でのプレッシャーや逆境の数々を乗り越えてきた指揮官のことばは、いまも教え子の心の支えとなっています。

教え子が偉大さを語る

大阪桐蔭OB 白水健太さん
「想像もできない数字ですね。あれだけ注目されて、全国の高校が大阪桐蔭を倒そうとやっているなかで勝ち続けるのはすごいです」

そう話すのは西谷監督の教え子の1人、白水健太さん(29)です。

高校3年生だった2012年にはセンターのレギュラーとして、現在、大リーグでプレーする同学年の藤浪晋太郎投手とともに甲子園で春夏連覇を果たしました。

高校時代に西谷監督からの教えで最も印象に残っているのはあることばだといいます。

“人間の素はしんどい時に”

西谷監督
「最後は人だぞ。しんどくなったときに人間の素が出るんだ」

白水さんがこのことばの意味を強く実感したのが春夏連覇をかけて臨んだ夏の甲子園でした。

2012年 夏の甲子園決勝 背番号8が白水さん

チームは決勝まで勝ち上がったものの、白水さんは準決勝まで17打数1安打と結果が出ていませんでした。

決勝の直前、甲子園球場の室内練習場で思わぬできごとがあったと言います。ふだん個別での技術的な指導は、あまりしないという西谷監督が白水さんのバッティング練習をつきっきりで見てくれたのです。

グラウンドに出る直前まで数分間「もっと引き付けて打て」などアドバイスをもらいながらバットを振り続けました。

西谷監督やバッティングピッチャーを務めてくれた控え部員への感謝を胸に、気持ちを整理してグラウンドに向かうことができました。

決勝のソロホームラン

迎えた第2打席、ボールを手元まで引き付けてとらえた打球はセンターへの先制のソロホームラン。

白水さんにとって、公式戦で初のホームランで、春夏連覇に大きく貢献したのです。

大阪桐蔭OB 白水健太さん
「試合前は正直、ちょっとおかしくなって、嫌な感じはありました。あの指導がなかったら絶対に打てていませんでした。西谷先生が自分にこだわってくれたことが打ったことよりうれしかったです」

あの夏から12年

連覇を果たしてから12年。

白水さんは甲子園に出場したことがある福井工大福井高校で監督を務め、西谷監督と同じ立場になりました。

選手たちに幾度となく伝えているのが「うまくいかないときこそ、どのようにふるまうか」です。

大阪桐蔭OB 白水健太さん
「高校野球をする2年半、うまくいくことばかりでなく、苦しむ子もいっぱいいますが、しんどいときが人として成長するチャンスだと伝えています。西谷先生に教えてもらったことすべてが人としての土台となっています」

大阪桐蔭は、これまで甲子園で春夏合わせて通算9回の優勝をしています。

西谷監督が率いて初めて優勝した2008年から15年間で春夏合わせて8回の全国制覇を果たしました。

近年の圧倒的な強さは、西谷監督のもとで磨かれてきた逆境と向き合う心が支えているのかもしれません。

西谷監督は22日の試合に勝てば春夏の甲子園での勝利数が68となり歴代最多に並びます。

(甲子園取材班 並松康弘)