“水原氏を違法賭博の疑いで米国税当局が捜査” 米メディア

大リーグ、ドジャースは、大谷翔平選手の通訳を務める水原一平氏を解雇したことを明らかにしました。球団は解雇の理由については明らかにしていませんが、アメリカのメディア各社は水原氏の解雇について大きく伝えています。

このうちAP通信は、アメリカの国税当局が違法賭博の疑いで捜査を始めていると伝えました。また、アメリカのスポーツ専門チャンネル、ESPNは大谷選手が初めて事態を把握したのは20日の開幕戦の後だったと伝えました。

記事では、ギャンブル依存症についてもまとめています。

“米野球界最大級の賭博スキャンダルになるかも”AP通信

水原氏をめぐっては、アメリカの複数のメディアが、カリフォルニア州では違法とされているスポーツ賭博で多額の借金を抱え、大谷選手の口座からブックメーカーと呼ばれる賭け屋に対して450万ドル、日本円でおよそ6億8000万円が送金されていたと報じています。

これについてAP通信は、日本の国税庁にあたるアメリカのIRS=内国歳入庁の報道官が21日、違法賭博の疑いで水原氏と賭け屋に対する捜査を始めていることを認めたと伝えました。

また賭け屋の弁護人がAP通信に対し「賭け屋が大谷選手と直接連絡を取ったことはない」とした上で、去年10月の時点で賭け屋が家宅捜索を受けていたと明らかにしたということです。

AP通信は、水原氏からコメントを取ることはできなかったとしていますが「アメリカの野球界で最大級の賭博スキャンダルになるかもしれない」と報じていて、国税当局による捜査がどのように進められるのかに注目が集まっています。

ESPN

水原氏の違法賭博問題 “大谷翔平は開幕戦後に初把握” 米報道

大谷選手の通訳だった水原氏が違法賭博に関与したと報じられドジャースから解雇されたことをめぐって、スポーツ専門チャンネルのESPNは球団関係者の話として水原氏がチームメートに対してみずからの行為を説明した状況を詳しく報じました。

それによると、水原氏は韓国 ソウルで行われた20日の開幕戦の後にチームメートに対してみずからが関わった違法賭博の問題を説明し、ギャンブル依存症であるなどと英語で説明したということです。

この際、大谷選手は別の通訳の助けを借りて水原氏の説明を聞き、ここで初めて事態を把握したということです。ESPNは大谷選手が自分の口座から多額の金が送金されていたこともその際に初めて知ったと伝えています。

水原氏は当初の取材に借金の返済を大谷選手に依頼したなどと説明していましたが、すぐにこれを撤回しました。水原氏の違法賭博や借金について、大谷選手が認識した時期や返済に関わった程度によっては今後の影響が避けられないだけに水原氏の発言が注目されています。

=米メディアの報道ぶりは(日本時間20日)=

ロサンゼルス・タイムズ

「大規模に盗んだ」

アメリカの複数のメディアは20日、大谷選手の代理人弁護士が水原氏が違法賭博に関与したと明らかにしたなどと伝え、このうちロサンゼルス・タイムズは、水原氏が連邦捜査の対象となっている違法な「ブックメーカー」と呼ばれる賭け屋で賭けるために、大谷選手の資金を「大規模に盗んだ」としています。

また、アメリカのスポーツ専門チャンネル、ESPNによりますと、大谷選手の口座からこのブックメーカーに対して450万ドル、日本円でおよそ6億8000万円が送金されていたということです。

これについて球団はNHKの取材に対して、「報道の内容は把握している」としたうえで、水原氏を解雇したことを明らかにしました。ただ、解雇の理由については明らかにせず、情報を収集しているとしたうえで、「現時点ではこれ以上のコメントはない」としています。

ESPN

水原氏のインタビュー取材を詳報

取材のきっかけは、違法とされるブックメーカーに大谷選手の口座から複数の送金があることがわかったことだったということで、ESPNが今週に入り水原氏に取材した際には「ギャンブルで多額の借金を抱え、その返済を大谷選手に依頼した」などと話しました。

具体的には去年、水原氏の立ち会いのもと、大谷選手が自分のパソコンから複数回に分けて送金したとしていて、なぜ大谷選手が水原氏にお金を渡すのではなくブックメーカー側に直接送金したのかと問われると「大谷選手は私にそのお金をギャンブルに使わせたくなかった」と答えたということです。

借金は450万ドル、日本円で6億8000万円にのぼったとされ、借金が増えていったいきさつについては「勝ったことは一度もなく、沼にはまって借金がどんどん大きくなり、取り返すためにさらに賭けて負け続けた。もう二度とやらない」と明かしたといいます。

さらに「野球に賭けたことはない。ルールは知っていた」と述べ、国外のサッカーやNBA=アメリカプロバスケットボールなどが賭けの対象だったと説明したということです。

そして「当然、彼はよく思っていなかったが、二度とやらないように私を助けてくれると支払ってくれた。翔平は賭博には一切関与してないことをわかってほしいし、私もこの賭博が違法だとは知らなかった」と話し、当初は大谷選手に相談の上で借金の問題に対処したとしていました。

しかし、その翌日になって大谷選手の代理人事務所の広報担当者がESPNに対して水原氏の発言を撤回したということで、大谷選手の弁護士も「大谷選手が窃盗行為の被害者であるということが発覚した」というコメントを発表しています。

さらに、水原氏も取材に対して「大谷選手は自分のギャンブルや借金、その返済についてなにも知らない」と前日のインタビューの内容を否定し、「これはすべて私の責任で、受け止める準備はできている」と話したということです。

ESPN

水原氏「すべて自分のせい」

ESPNは水原氏がギャンブルで多額の借金を抱えていたとも伝えていて、取材に対して、水原氏本人が去年、借金の返済を大谷選手に依頼したと明かしたとしています。

その中で水原氏は「翔平はギャンブルに全く関与していなかったということを知ってほしい。このギャンブルが違法だとは知らなかった」などと話したということです。

また、20日夜の試合後には、水原氏がドジャースのチームメートに対して、みずからがギャンブル依存症であるとした上で「すべて自分のせいだ」などと説明したということです。

The Athletic

「大谷選手は現時点で処罰対象ではない」と関係者

アメリカのスポーツ専門サイト「The Athletic」は大リーグ機構の関係者の話として「大谷選手は現時点で処罰の対象ではない」と伝えています。

大谷選手は21日夜の試合も先発出場するなど、今のところ試合の出場自体に影響はありません。

今後のスケジュールとしては21日夜の試合が終わりしだい、チームとともにロサンゼルスに戻り、25日から27日にかけては古巣のエンジェルスとオープン戦が組まれています。29日からは本拠地開幕戦となるドジャースタジアムでのカーディナルスとの4連戦に臨む予定になっています。

ニューヨーク・ポスト

「巨額の窃盗」

ニューヨーク・ポストは「巨額の窃盗」という見出しとともに「大谷の通訳が賭博のためにスターから数百万ドルを盗んだとして解雇された」などと伝えていて水原氏の解雇はアメリカでも大きな関心を集めていることがうかがえます。

また、ワシントン・ポストも現地時間21日、電子版で「野球界最大のスターに渦巻く驚がくのスキャンダル」と題された記事を配信し、水原氏の解雇や
21日夜、韓国で行われた試合での大谷選手の成績などについて伝えています。

弁護士事務所“大谷選手は巨額の窃盗の被害者”

大谷翔平選手のメディア対応を担っている弁護士事務所は、NHKの取材に対し「メディアからの問い合わせに対応していく過程で、大谷選手が巨額の窃盗の被害者であることが明らかになった。今回の件については当局に対応を委ねる」とメールで回答しました。

=試合が行われた韓国では=

ドジャース ロバーツ監督 水原氏の解雇“何も答えられない”

ドジャースのロバーツ監督は午後3時すぎ、試合前の記者会見に臨みました。会見では冒頭から水原氏の解雇について質問が集中し、水原氏が昨夜、チームメートに何を伝えたのかや、どのように解雇が決定されたのか、監督自身に動揺があったかという質問に対してはいずれも「何も答えられない」と回答を控えました。そのうえで大谷選手のプレーに影響があるかどうか問われると、「翔平は試合に向かう準備ができている」と話しました。そして「われわれは野球をするためにここに来ている。きょうもいい結果を残せるようにしたい」と力強く話していました。

ロバーツ監督は、ふだんは記者の質問ににこやかに答える姿が印象的ですが、21日は水原氏に関する質問に対して厳しい表情を崩しませんでした。大谷選手の通訳についてはほかのスタッフがサポートするとしています。

また、ロバーツ監督は15失点を喫して敗れた試合後の会見で、水原氏が解雇されたことがプレーに影響したかという質問に対して「いつもどおりだった。特に中心選手たちはいろいろな経験をしている選手たちだ」と話しました。そのうえで「先発した山本由伸にも影響はなかったと思う。彼らしくない投球だったが、立ち直ってくれる選手だ。難しい試合にはなったが、野手たちはよくやってくれた」として、先発した山本投手をはじめ選手たちを気遣いました。

韓国のファンクラブ会長「開幕戦前に水原氏と面会」

400人以上の会員を抱える大谷選手ファンクラブのイ・ジェイク会長によりますと、開幕戦前日の今月19日の午後、選手たちが宿泊していたソウル市内のホテルのロビーで水原氏を見かけて声をかけ、短時間言葉を交わしたということです。

この際、イ会長は自身が著者となって出版した大谷選手に関する本を手渡して大谷選手本人に渡してほしいと依頼し、水原氏は「私が渡しておく」と言って本を受け取ったということです。

水原氏はイ会長との写真撮影にも応じたということですが、イ会長は「表情がとても暗くてどうしてだろうと心配した。彼が大谷選手のファンと写真におさまることが、今後もうないかと思うと胸が痛い」と話していました。

水原一平氏 大谷の大リーグ移籍後 専属通訳務める

大谷選手の専属通訳を務める水原一平氏は39歳。北海道出身で幼少期にロサンゼルスに移住しました。2012年からプロ野球の日本ハムで外国人選手の通訳を務め、この年のオフに日本ハムに大谷翔平選手が入団しました。

2017年のオフに大谷選手が大リーグのエンジェルスと契約を結んだあとは、水原氏もエンジェルスに移籍して大谷選手の専属通訳となりました。今シーズン、大谷選手がエンジェルスからドジャースに移籍したのに合わせて水原氏もドジャースに移籍しました。

水原氏は大谷選手の通訳業務はもちろん、球場の送り迎えやキャッチボールの相手を務めるなど常に大谷選手と行動をともにしていて、大谷選手からの信頼も厚く、家族同然とも言える関係を築いていました。

大谷選手が初めてシーズンMVP=最優秀選手を受賞した2021年11月には、苦難を乗り越えた時の支えになった人として「お世話になったのは一平さん」と名前を挙げていました。

これまで大谷選手をもっとも近くで支えてきた水原氏が突然、チームを去ることになり、新天地で新たなシーズンをスタートしたばかりの大谷選手への影響も懸念されます。

水原氏は韓国のソウルで行われているドジャースの開幕シリーズにも同行して、20日夜の開幕戦もベンチ入りし、試合後の大谷選手の取材対応の際にも通訳していました。21日夜の試合は球場に姿を見せることはなく、すでにチームを離れたものと見られます。

一方、大谷選手は21日夜の試合後、クラブハウスで報道陣の取材には応じず、帰り支度が済むと集まった大勢の報道陣に「お疲れ様です」と声をかけ、午後11時すぎに球場をあとにしました。そしてチームとともにそのままロサンゼルスに向けて出発し、韓国での開幕シリーズを終えました。

=「ギャンブル依存症」とは=

ギャンブル依存症は、競馬や競輪、パチンコといったギャンブルをやめたくてもやめられない状態に陥り、本人や周りの人たちの生活に支障が生じる精神疾患の1つで、借金をする、仕事や学業を休む、睡眠や食事がおろそかになる、周囲との関係が悪くなるといった特徴があると厚生労働省は位置づけています。

国内でも社会全体で予防を図ることが重要だとして、政府も基本計画を策定して対策に乗り出しています。

それによりますと、依存が疑われる人は成人の2.2%と推計しているということです。

ギャンブルにのめり込むことで、本人や家族の日常生活や社会生活に支障を生じさせるだけでなく、多重債務や犯罪といった重大な社会問題を生じさせる場合があるとして対策が必要だとしています。

ギャンブル依存症は、早期の支援や適切な治療で回復が十分可能だとしていて、政府は、地方自治体や事業者などと連携して必要な取り組みを包括的に講じていくとしています。

専門家 “社会的に成功した人でも依存症のリスク”

ギャンブル依存症の患者の治療にあたっている大阪精神医療センターの入來晃久医師は、依存症の人に見られる特徴について「基本的には日常生活や人間関係、仕事などに支障が出ているにもかかわらずギャンブルを続けてしまうのが特徴で、人間関係や社会的な地位を失ってしまうことにもつながる。患者は真面目な性格で物事に一生懸命取り組み、能力も高い人が多い気がする。社会的に成功した人であっても本音が言えなかったり、ストレスをため込んでいたりする人はギャンブル依存症のリスクがある」と指摘しました。

その上で対策については「正直に話せる場所や人がいることが非常に大切だ。患者本人は恥ずかしいとか自己責任だとか思ってしまいがちで、自分で何とかしようと考えて治療や支援につながらないことが対策が難しい理由になっている。周りの人も正しい知識を持って偏見をなくすことが大切で、患者を責めたりすることがないようにしてほしい。同じ依存症の人が集まる自助グループに参加したりするのも有効だ」と話していました。

=アメリカのスポーツ賭博めぐる現状は=

スポーツ賭博 カリフォルニア州では「違法」

アメリカではおよそ40の州でスポーツ賭博が認められていますが、大谷選手や水原氏が住むカリフォルニア州では違法です。

またアメリカで行われているスポーツ賭博は一般的にブックメーカーに対して掛け金を前払いしますが、アメリカのメディアによりますと今回、水原氏が利用したとされる捜査対象となったブックメーカーは前払いをしなくても賭けることが出来たということです。

大リーグでは所属する選手やスタッフは野球への賭博が全面的に禁止されていますが、そのほかの競技については合法であればスポーツ賭博をすること自体は認められています。

こうした規程については毎年、春のキャンプ期間中に選手会の担当者が各チームのキャンプ地を訪れて詳しく説明することになっていて、ドジャースのキャンプ地でも先月、選手会が主催するミーティングが練習前に開かれルールの徹底が周知されていました。

水原氏はESPNに対してサッカーの国際試合やNBA=アメリカプロバスケットボール、NFL=アメリカプロフットボールリーグ、それに大学のアメリカンフットボールに賭けたと説明し、今回のブックメーカーが「違法だとは知らなかった」と話したと伝えています。

また、禁止されている野球の賭博については「一切していない」と話しているとしています。

専門家 “合法の賭け屋なら「6億8000万円」はない”

アメリカにおけるスポーツ賭博についてプロ野球の球団経営に関わった経験がありスポーツ経営学が専門の桜美林大学の小林至教授に話を聞きました。

アメリカのスポーツ賭博=スポーツベッティングは2018年に州の判断で合法とすることができるようになり、その後、各州が解禁に動き、小林教授によると現在の市場は日本円にして年間18兆円に上ると言うことです。

小林教授はアメリカのスポーツベッティングをめぐる現状について「スポーツベッティングは巨大な市場になりスポーツビジネスの中核という位置づけで大リーグを含むアメリカの4大プロスポーツは若いファンを獲得するためスポーツベッティングと連携しようとやっきになっている」と話しています。

合法とされている州ではブックメーカー(賭け屋)はすべてライセンス制となっているということで「すべてがガラス張りで誰が何に賭けたのか、全部、トラッキング(追跡)できるようになっている」ということです。

そして「そもそも合法のスポーツベッティングでは大金を賭けることができない。大手のブックメーカーで1回、1試合で賭けられる金額は多くても500ドルだ。ほとんどの場合は100ドル以上賭けようとすると拒絶されるはずだ。なぜかというと、スポーツベッティングを4大プロスポーツが積極的に展開している背景にはこれを通じて広く浅くファンを募り、試合に対して興味を持ってもらうことが目的であり、本物のギャンブラーが大金をかける世界ではない。一方で、ギャンブルのために賭ける人にとっては、現在のアメリカのスポーツベッティングは賭け金が低いのでもの足りないはずだ」と話しました。

また今回、水原氏が多額の借金を抱え、大谷選手の口座からブックメーカーに対して6億8000万円が送金されたと報じられていることについては「そこまでの金額を失うのは朝から晩まで世界中のあらゆる試合に賭け続けなければ難しいのではないか。合法のブックメーカーであればそこまで金額に膨らむ可能性はほとんどないと思う」と指摘しています。