香港 スパイ行為取り締まる「国家安全条例案」 全会一致で可決

香港の議会はスパイ行為など国家の安全を脅かす行為を取り締まる「国家安全条例案」を19日夜、全会一致で可決しました。中国政府が主導して施行された「香港国家安全維持法」を補完するもので、施行されれば、香港の統制がいっそう強化されることになります。

香港の議会にあたる立法会はすべての議員が出席して本会議が開かれ、19日夜、採決が行われた結果、全会一致で「国家安全条例案」を可決しました。

この条例は中国政府が主導して2020年に施行された「香港国家安全維持法」を補完するもので、▽「国家機密」を盗むことやスパイ行為、▽外国勢力による干渉などを国家の安全を脅かす行為として禁じていて、違反すれば最高で終身刑を科すとしています。

採決のあと、香港政府トップの李家超行政長官は議場を訪れ、議員を前に、「条例の可決は歴史的な瞬間だ。国家の安全が守られた」と述べたうえで、3月23日に条例を施行すると明らかにしました。

立法会は政府を支持する親中派が議席をほぼ独占していて、土日返上で連日、審議を行うなど、条例の制定を全面的に後押しし、香港政府が今月8日に条例案を提出したあと、わずか11日という異例のスピードで可決しました。

条例をめぐっては、「国家機密」の定義があいまいだなどとして、企業のビジネスやメディアの取材などに影響が出ると懸念する声もあり、施行されれば、香港の統制がいっそう強化されることになります。

異例のスピード可決 中国の習近平指導部の意向か

香港の議会が条例案の提出のあと、わずか11日という異例のスピードで条例案を可決した背景には、中国の習近平指導部の意向が働いたとみられています。

3月5日に北京で開幕した中国の全人代=全国人民代表大会には、香港からも李家超行政長官や代表団が出席しましたが、李長官は開幕日の5日、突如、予定を繰り上げて香港に戻り、条例の立法に向けた作業を始めました。

中国の国営メディアは、共産党最高指導部のメンバーの1人である、丁薛祥筆頭副首相が7日に開かれた香港の代表団との会合で、条例の制定は香港の憲法上の責任だとして、早期に完成させるよう促したと伝えています。

また、条例案をめぐっては、欧米などから「人々の権利と自由に否定的な影響がある」などと懸念の声があがっていて、香港メディアは、こうした海外からの批判が拡大するのを避けるため、香港政府が可決を急いだという見方も伝えています。

「国家安全条例」制定 香港では長年の政治課題に

「国家安全条例」の制定は、1997年の中国への返還にあわせて制定された、香港の憲法にあたる基本法の23条で定められていて、香港では長年の政治課題となっていました。

香港政府は、21年前の2003年、同様の条例の制定を目指しましたが、50万人規模の抗議デモが起きるなど、市民の強い反対で撤回に追い込まれ、それ以来、制定は先送りされていました。

しかし、香港では4年前の2020年に、中国政府の主導で反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が施行され、政府に反対する抗議活動が厳しく抑え込まれているうえ、選挙制度の変更によって、議会にあたる立法会は政府を支持する親中派が議席をほぼ独占しています。

こうした状況を受けて、香港政府は条例の早期制定を目指していました。

香港の市民からはさまざまな声 意見表明に慎重な人も

香港の議会が「国家安全条例案」を可決したことについて、香港の市民からはさまざまな声が聞かれました。

このうち60代の男性は「いいことだと思います。この条例がもっと早く定められていればよかったのではないかと思います」と話していました。

一方、40代の女性は「条例ができれば多くのことが変わってしまい、何も話せなくなります。自由を失うだけでなく、息をつく場所すらもなくなってしまいます」と話していました。

このほかインタビューを依頼すると「話したくありません」などと足早にその場を去り、取材を断る人もいて、当局による統制が強まる中、みずからの意見を表明することに慎重になっている人が少なくないこともうかがえます。