「建設2024年問題」 3Kから脱却なるか?

「建設2024年問題」 3Kから脱却なるか?
長時間労働などから「3K」職場とも言われてきた建設業界。4月から始まる時間外労働の規制強化で、さらに人手不足が深刻化するとの懸念も高まっています。

「建設の2024年問題」とも呼ばれる課題を前に、業界を挙げた働き方改革の取り組みが始まっています。

工事現場はどう変わるのか!?最前線を追いました。

(経済部記者 横山太一)

課題は現場監督の長時間労働

建設業界と言えば、長時間労働や労働環境の厳しさなどが指摘されてきました。

厚生労働省の調査でも、「建設業」は「運輸・郵便業」に次いで労働時間が長く、そのイメージは、データでも裏付けられてきました。
そんな建設業界の中で、大工などの職人よりも、労働時間の長さが課題となっているのが、現場監督です。

国が2000社あまりの建設会社を対象に行った調査では、おととし1年間で、1か月あたりの時間外労働が45時間を超えていた割合は、職人が5%、現場監督は13%と2倍以上の開きがありました。

現場監督は、現場での管理・監督に加えて、書類作成といった事務作業もあって、仕事量が多くなる傾向があります。
さらにこの数年は、都心部を中心にした高層ビルの建設ラッシュで、工事現場の件数は増加傾向が続いています。

その一方で現場監督に必要な「監理技術者」や「主任技術者」の有資格者数は、この10年ほぼ横ばいで、1人あたりの負担は増え続けているのが実情です。

4月から時間外労働の規制が強化されるにあたり、現場監督の長時間労働をどう改善するかが業界の課題となっているのです。

IT技術で「掛け持ち」 効率アップ

その解決につながると今、期待されているのがIT技術を活用した「掛け持ち」の拡大です。

法律では、請負金額が8000万円未満の建築工事については、1人の現場監督が複数の現場を掛け持ちして管理することが認められています。

さらにこの掛け持ちは、スマートフォンやタブレット端末を使って映像を確認しながら、遠隔で監督することも認められています。
遠隔による現場監督の掛け持ちは、どのように行われているのか。

私たちは、賃貸住宅大手の「大東建託」が手がける、横浜市神奈川区の木造アパートの建設現場を訪ねました。

現場を取りしきる中園礼一さんは、左官に対してセメントなどを塗る場所を指示したあと、近くの休憩所で別の現場の図面を広げてスマートフォンでやりとりを始めました。

相手は横浜市旭区の別の建設現場で働く社員や職人たちです。

聞き間違いがないようチャット機能も備えた専用アプリで現場の映像を確認しながら、配管の寸法を測らせたり、安全確保のため資材の置き場所を変更するよう指示したりしていました。
2つの現場の距離は、車で片道30分ほど。

2つの現場を遠隔で掛け持ちできることで、移動時間の負担を減らすことができます。
現場監督 中園礼一さん
「私自身、日頃から平均で3つか4つの工事を掛け持ちしているので、移動時間は年間を通すと馬鹿になりません。移動時間が減るだけで業務負担は相当軽くなります」
この会社では、本社と現場の間を同じアプリでつなぎ、追加検査を実施するなど安全管理の強化にも役立てているということです。

国も規制緩和へ

国も、こうした遠隔による現場監督の掛け持ちを広めたい考えで、ことし3月、関係する法律の改正案を閣議決定しました。

現在「8000万円未満」となっている請負金額の条件を「2億円未満」まで拡大する方針です。

ただし、掛け持ちを実施する場合は、スマートフォンなど遠隔で指示を出せる通信環境の整備や、1年以上の実務経験がある連絡要員の配置などが必要になります。

取材した会社は、この請負金額の引き上げが実現すれば、掛け持ちする工事を1割ほど増やせる見込みで、それによって生じた人員の余裕を使って、現場監督の休日の確保につなげたいとしています。
大東建託 小川龍二 品質管理課長
「規制緩和の効果は非常に大きい。現場監督はなり手が不足しているので休日の確保につなげて若い世代が目指す仕事にしていきたい」

悩むクレーン業界

一方で、建設業界への取材を進める中で、2024年問題への対応に頭を悩ましている職種があることも見えてきました。

その1つが、大型クレーンのオペレーターです。

都心でタワーマンションや高層のオフィスビルなどの建設ラッシュが続く中、現場では不可欠の職種ですが、こちらも移動時間が負担になっているというのです。

実情を聞こうと埼玉県三芳町にある従業員80人のクレーン会社を訪ねました。
会社に着いたのは早朝5時。

この時間に会社のクレーンが一斉に都心の現場へ出発するのです。

現場までは渋滞がなくても片道1時間半はかかります。

往復の3時間は当然、勤務時間にカウントされるため、残業を減らすのが難しいという訳です。

夜間もクレーンを現場に駐車できればいいのですが、都心では工事現場も狭いうえ、近隣に大型クレーンの保管場所を確保するのも簡単ではありません。

そのため、工事がある日は毎日、現場と行き来せざるを得ないのです。
市原重機建設 市原洋一会長
「保管場所を確保すれば土地の賃料も高くなってしまうので、都外からクレーンを移動させる会社が大半だ。そうなればオペレータの拘束時間はどうしても長くならざるを得ない。人手不足も深刻で業界に興味を持ってもらえるよう高校で出前授業なども開いているが、なかなか厳しい状況だ」
さらに残業の増加に拍車をかけているのが、走行規制です。

車重が20トンを超える大型クレーンは、移動ルートによっては走行時間が、交通量が少ない「夜9時から朝6時まで」に制限されています。
この結果、オペレーターにとっては深夜残業が避けられず、働き方改革が進まない要因の1つとなっています。

国は4月から走行時間を「夜8時から朝7時まで」に緩和する考えですが、業界からは、さらなる緩和を求める声も挙がっています。

15時撤収で工期影響も

こうした状況を改善しようと、業界の取り組みも始まっています。

東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県のクレーンの業界団体は、発注元であるゼネコンに対し、クレーンの移動が伴う現場では、日中の作業時間を2時間減らして「15時撤収」を原則とすることなどを求めています。
移動時間を減らせない以上、オペレーターの残業を減らすには、日中の作業時間を削らざるを得ないという判断です。

走行時間が制限されている大型クレーンでも、夜間の移動までの休憩時間を確保できることになります。

ただ「15時撤収」を徹底した場合、工期が延びる可能性があります。
クレーンの会社では、その分、クレーンの燃料費などが増えて、発注元から見合った代金が支払われなければ、従業員の給料にしわ寄せが行きかねないという不安も抱えています。
市原洋一会長
「残業が減っても、従業員には少なくとも今までと同じ給料を払いたいと考えているが、そのためにはゼネコンから適正な代金をもらう必要がある。働き方改革は必要だが、それで収入が減れば、建設業で働く人材はますます減ってしまう」

実現するか“持続可能な建設業”

クレーン会社の会長が危惧する事態は業界全体の課題です。

3月に閣議決定した法案には、職人の労務費に目安を設け、これを大きく下回る額で見積もりを依頼した場合、勧告や業者名を公表できることなども盛り込まれました。

また、契約後に資材が高騰するなどして、受注業者側が契約変更を申し出た際は、発注業者側に協議に応じる努力義務を課します。

ただ、建設業では、作業が何重にも下請けに出される「多重下請け」のケースが少なくありません。

3次下請け、4次下請けといった形で発注される中で、零細事業者が仕事を確保するため「赤字覚悟」で受注する事例も指摘されています。

政府は、建設業界を「新3Kの産業に変える」と意気込んでいます。

「給与が良く」「休暇が取れて」「希望が持てる」の3つの「K」です。

本当に「持続可能な建設業」を実現できるのか。

国にはルールを作るだけでなく、その実効性を担保するための取り組みも求められています。

(3月11日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
横山太一
2013年入局
富山局、高松局を経て現所属