「絶対勝てる」天国に届ける初勝利

「絶対勝てる!」

その言葉を思い出し、選手たちは空を見上げました。どうしても勝利を届けたい相手がいたからです。

「俺を甲子園に連れて行って」という“恩師”との約束を果たしました。

アルプス席から見守る男性

甲子園球場のアルプス席に置かれた1枚の写真。

熊本国府高校野球部の創部当初、18年ほど前から運営に携わっていた森宏さんです。

去年8月、病気で亡くなりました。84歳でした。

部長として活動をしていただけでなく、監督や選手などからの相談に親身になって対応してくれました。

野球部を見守る森さん

亡くなる5か月ほど前まで、高校に職員として勤務していました。

マイナスな発言をせずに前向きな言葉でアドバイスをしていました。

『絶対に勝てる』とか『甲子園に出る力を持っている』など全員を励まし続け、まさに野球部の精神的な柱でした。

「森さんのために」つかんだ初出場

森さんが礎を築いた野球部は2006年に創部。今のメンバーは全員が熊本県出身です。

堅い守りが持ち味で、去年秋の九州大会では鹿児島の神村学園や大分の明豊高校など甲子園に出場経験のある学校を次々に破って優勝。センバツの切符をつかみました。

18日の第3試合で初めての大舞台に臨んだ熊本国府。控えの選手たちにの心の中にも森さんがいました。

アルプス席で大声を上げて応援していた2年生の福山覚楽選手は、どの部員にも分け隔てなく接して励まし続けてくれたことに感謝しています。

福山覚楽選手
「よく練習や試合に足を運んでくれて声をかけてくれました。亡くなってから、自然とみんなで『森さんのために勝とう』と言い始めていました。部員全員が甲子園に連れて行きたいという思いでいっぱいだったので、きょうは空から見ていてほしいです」

励まされたピッチャー 無失点の好投

試合は接戦となり終盤まで1対1。

8回から2人目の植田凰暉投手が登板し無失点に抑える好投を見せました。

この植田投手も森さんに励まされていた1人です。

植田凰暉投手
「高校に入学した当時、寮生活になり親元から離れて心細かったときに声をかけてくれました。1年生の時はベンチに入れなかったのですが、その時も声をかけてくれてすごくありがたく感じていました」

森さんに届け!

試合中、熊本国府の選手たちがマウンドやベンチで何度も繰り返していたしぐさがありました。

『上を見よう!』

森さんを思って空を眺め、“力を借りていた”のです。

熊本国府は延長10回、タイブレークに満塁のチャンスで相手のワイルドピッチから得点を奪ってサヨナラ勝ちで甲子園初勝利を挙げました。

初勝利を喜ぶ 熊本国府ナイン

勝利投手は植田投手でした。

植田凰暉投手
「ピンチの時も森さんが見ていると思って弱気にならずに強気で投げることができた。まずは1勝を報告できてすごくうれしい。みんなでマウンドに集まったときは、上を見て『森さんが見守ってくれている』とみんなで言っていた。この勝利は森さんのおかげだと思います」

次の試合は5日後。

初勝利を届けた選手たちは、再び空を見上げながら森さんと一緒に戦うつもりです。

(甲子園取材班 石井直樹)