路線バス運賃 値上げ急増 「2024年問題」前に運転手確保へ

身近な交通手段である路線バスについて、今年度、国がバス会社からの運賃の値上げ申請を認可した件数は93件で、昨年度の5倍以上に急増したことがわかりました。
4月から運転手の労働時間の規制強化で人手不足が懸念される「2024年問題」を前に、バス各社が運転手の人数を確保する対策を進めていることなどが背景にあるということです。

値上げ申請の認可件数 昨年度の5.8倍に

路線バスの運賃について、NHKがバス事業を管轄している全国の運輸局などに取材したところ、今年度、バス会社から出された値上げの申請を認可した件数は、3月12日までに93件で、昨年度の16件と比べると5.8倍に急増していました。

地域別では、
関東運輸局管内が44件
九州運輸局管内が16件
近畿運輸局管内が10件
などとなっていました。

また、現在審査中の申請も6件あるということです。

路線バスの運賃は、消費税率の引き上げを除いて20年以上変えていない会社も多くありましたが、今年度、一斉に値上げが進められています。

コロナ禍で利用客減 燃料費高騰 人手不足背景に

その理由を各社に取材したところ、
コロナ禍の影響による利用客の減少や
燃料費の高騰などに加え
4月から運転手の労働時間の規制強化で人手不足が懸念される「2024年問題」への対応でこれまでより多くの人数を確保する必要があり、その人件費に充てるためだとしています。

東京や神奈川では、16日から京王バスが、3月24日には東急バスが、それぞれ10円の値上げを予定しています。

バスの利用者からは「物価も上がっているのでしかたがない」とか、「人件費を上げるためなら応援したい」など値上げに理解を示す声が多く聞かれた一方、「乗り換えルートを検索して値段が高く表示されると、移動手段として選ばなくなるかもしれない」という声も聞かれました。

東急バス 27年ぶり値上げ 運転手応募人数6年前の半分に

東京 目黒区に本社を置く東急バスは、3月24日から東京23区と横浜市の路線バスの運賃を27年ぶりに値上げする予定で、大人運賃を現在の220円から230円に引き上げられます。

背景には、コロナ禍でテレワークが定着し利用者が減った結果、定期券などの収入が全体でコロナ前より10%ほど減少したことがあると言います。

また、燃料の軽油の価格が3年間で3割近く上昇したほか、来月からのいわゆる「2024年問題」で人手不足が懸念される中、運転手の人数を確保する必要があることも影響しているということです。

東急バスでは、バスの運転手の応募人数は、6年前の半分ほどに減っていて、人材獲得競争が激しい中で、処遇を改善していく必要もあるということです。

会社では、鉄道の終電後に走らせる深夜のバスの運行を見直し、4月から一部の路線の廃止を決めました。

このほか、大学や駅を結ぶ利用者が多い路線では、2つの車両をつないだ連節バスを4月から順次導入し、一度に運べる乗客数を増やして効率的な輸送を図りたいとしています。

東急バス計画部管理グループ 原山大輔課長
「いろいろな要素が一度にバス事業者を襲って、一気に体力を失ってしまったというところがある。運賃を値上げした分を利用者サービスにも投資して、お客様も利用しやすいようなバスを目指したいと考えているので、ご理解いただければと思う」

バス会社別 値上げ詳細

今年度中に値上げしたりこれから予定していたりするバス会社の詳細です。

都内では
「京王バス」が3月16日から、
「東急バス」が3月24日から、
それぞれ大人運賃を、220円から230円に改定します。
また、
「小田急バス」は6月1日から220円を240円に値上げするとしています。

▽バスの保有台数で全国最大規模の「西鉄バスグループ」はことしの1月20日から福岡と北九州地区の初乗りを170円から210円に、
▽関西を走る「阪急バス」は去年9月1日から大阪や兵庫のエリアで距離に応じて10円から60円
▽名古屋市に本社がある「名鉄バス」は去年10月1日から愛知や岐阜の多くの区間で20円から40円、それぞれ値上げしています。

このほかにも、全国各地のバス会社で今年度、運賃の値上げが行われています。

運転手不足2030年度に3万6000人に 減便や廃止拡大も

バス運賃の値上げの背景にある運転手の不足について、業界団体に聞きました。

日本バス協会はおととし、加盟する全国のバス会社に調査を行い、788社の回答などから、今後の見通しを試算しました。

それによりますと、2024年度は全国で12万9000人の運転手が必要になるのに対して実際に働ける運転手は10万8000人と試算され、2万1000人が不足する見込みです。

担い手不足はその後も続き、2030年度には、全国で12万9000人の運転手が必要になるのに対して実際に働ける運転手は9万3000人まで減少し、不足する人数は3万6000人にふくらむ見通しだということで、日本バス協会は、人材確保のためには運賃改定の必要があるとしています。

協会では、運転手確保に向けた対策を取るよう国にも働きかけていますが、厳しい状況が続いていて、このまま運転手不足が続けば路線バスの減便や廃止の拡大も避けられないという見通しを示しています。

専門家「利用者に一緒に考えてもらう機会を」

路線バスの活性化策などに詳しい東京都市大学の西山敏樹准教授は、「路線バスの運賃は鉄道などほかの交通機関と比べて安く設定されていて、値上げはやむをえない」と指摘しています。

特に西山准教授は、「2024年問題」といわれる来月からの労働時間の規制強化のうち、バス業界にとって働き方改革のための「休息時間」の変更が相次ぐ値上げに影響していると指摘します。

現在は業務の終了から次の開始まで8時間空けていたのに対し、4月からは原則11時間空けることが求められるため、利用客の多い朝と夜の時間帯はそれぞれ別のドライバーを確保する必要があり、その分、人件費が増えることになります。

さらに高齢者や障害者が利用しやすいようバスの車両や設備を更新する費用がかかることも背景にあるということです。

そのうえで西山准教授は「バス会社はただ値上げを発表するのではなく、なぜ値上げし、何に使用するのかなど情報を公開していく努力をしないと利用者の納得は得られない。大規模な減便や路線の廃止を防ぐためにも利用者に一緒に考えてもらう機会を作ることが求められている」と話していました。