ロシア大統領選挙15日から プーチン氏 通算5期目の当選確実視

ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から極東地域で始まりました。プーチン大統領は、通算5期目の当選が確実視されていますが、圧倒的な支持を得ることで、ウクライナ侵攻を初めとしたこれまでの路線に対して国民の信任を得たとアピールしたい考えとみられます。

ロシア大統領選挙には、プーチン大統領などあわせて4人が立候補していて、15日から3日間の日程で行われます。

投票は、最も早い極東のカムチャツカ地方などで日本時間の15日午前5時に始まり、国内の時差に合わせて西に向かって順に行われます。

また、ウクライナの南部クリミアのほかロシアが軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したドネツク州など、東部と南部の4つの州でも選挙だとする活動を強行するとしています。

政府系の世論調査機関「全ロシア世論調査センター」による予測では、プーチン大統領に投票する人が82%と、ほかの候補者を大きく引き離し、プーチン氏の通算5期目の当選が確実視されています。

ロシア国内では、政権の意向に沿わない個人や団体の活動が、大幅に制限されたり、監視が強化されたりして統制が強まっています。

こうした中にあって先月ロシアの刑務所で死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻は、有権者に対し、投票最終日となる17日の正午、プーチン大統領以外の候補に一斉に投票するよう呼びかけています。

プーチン大統領は、今回の選挙で投票率70%、得票率80%を目指しているとされ、圧倒的な支持を得ることで、ウクライナ侵攻を初めとしたこれまでの路線に対して国民の信任を得たとアピールしたい考えとみられます。

投票は、日本時間の18日午前3時に締め切られたあと開票され、大勢が判明する見通しです。

ロシアの大統領選挙で中央選挙管理委員会に立候補を認められたのは、現職のプーチン氏のほか、プーチン政権に協力的で「体制内野党」とも指摘される政党の幹部3人のあわせて4人です。

3人はいずれもウクライナへの軍事侵攻を支持する立場で、軍事侵攻を批判していた元下院議員のナデジディン氏と、女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏は、いずれも立候補が認められませんでした。

立候補が認められた、政党「新しい人々」のウラジスラフ・ダワンコフ下院議員(40)は、2021年から下院副議長の1人を務めています。

ロシアメディアによりますと、手術などによる性別変更を原則、禁止する法律の提案者で、学校の宿題廃止や過去のSNSでの投稿に基づく処罰の禁止などを主張しているということです。

ダワンコフ氏は、立候補が認められなかったナデジティン氏との協力を望んでいると伝えられましたが、具体的な動きには至っていません。

極右政党「ロシア自由民主党」のレオニード・スルツキー党首(56)は、議会下院で、国際問題を担当する委員会の委員長を務め、おととし(2022)ウクライナへの軍事侵攻直後に行われた停戦交渉では、ロシア側の代表団に加わっていました。

選挙では、侵攻の早期終結が必要だとしてウクライナ軍に降伏を求めたり、地方の生活水準の引き上げを呼びかけたりしています。

また、過激な発言で知られ、おととし亡くなるまで30年以上党首を務めた、ジリノフスキー氏の路線を引き継ぐ姿勢も示しています。

「ロシア共産党」のニコライ・ハリトノフ下院議員(75)は、旧ソビエト時代の1990年から議員を務め、いまは議会下院の極東と北極圏の開発を担当する委員会の委員長です。

貧富の格差の是正や、住宅や生活インフラの料金に制限を導入することを訴えています。

ハリトノフ氏は2004年の大統領選挙にも立候補し、13%あまりの票を獲得して6人中2位となりました。

ロシアの大統領選挙は、18歳以上の国民による直接投票で行われます。

大統領任期 延長や制限の見直し プーチン氏の長期政権へ

いまの大統領の任期は6年で、任期の制限は2期12年となっています。

しかし、これまで任期の延長や制限の見直しが繰り返され、プーチン大統領が長期政権を担う道が開かれてきました。

2012年までの任期は4年でしたが、この年に大統領職に復帰したプーチン大統領の任期から6年に延長されました。

また2020年の憲法改正によって、プーチン大統領は任期が「リセット」され、さらに2期12年、最長で2036年まで続投が可能となりました。

投票日時は?高い投票率を期待する政権側のねらいも

今回の大統領選挙の投票日は、3月15日から17日までの3日間です。

ロシアでは、2020年以降、下院選挙や地方選挙などで新型コロナウイルス対策などを理由に3日間の投票日が設けられ、今回初めて大統領選挙にも適用されることになり、高い投票率を期待する政権側のねらいがあるともみられています。

投票時間は、それぞれ現地時間の午前8時から午後8時までで、極東のカムチャツカ地方などでは、首都モスクワと比べて9時間早い、日本時間の午前5時に投票が始まり、反対に、最も西に位置するカリーニングラード州では日本時間の午後3時から投票が始まり、18日の午前3時に投票が締め切られます。

投票方法は?一部の地域で電子投票が可能

各地の学校などに設けられた投票所で投票する場合、有権者は候補者の名前が印刷された投票用紙を受け取って、名前の横に印をつけて投票します。

また、首都モスクワなど一部の地域では、事前に登録すればスマートフォンなどからの電子投票が可能で、今回は、およそ490万人が申請したということです。

どう決まる?過半数に届かない場合 決選投票に

開票は17日の投票終了後に行われ、過半数の票を獲得すれば当選が決まります。

いずれの候補の得票も過半数に届かなかった場合には、上位2人の候補による決選投票が行われます。

これまでに決選投票となったのは1996年だけで、当時のエリツィン大統領がロシア共産党のジュガーノフ党首と激しく争ったすえ、再選を決めました。

過去の投票率は60%台で推移

現在のロシアの大統領選挙では、投票率は60%台で推移してきました。

プーチン氏が初めて立候補した2000年の大統領選挙では、投票率が68.70%、プーチン氏の得票率は52.94%でした。

2004年、プーチン氏の2期目の選挙は投票率が64.38%、プーチン氏の得票率は71.31%でした。

2008年の選挙は、当時第1副首相をつとめていたプーチン氏の側近、メドベージェフ氏が立候補し、投票率は69.81%得票率は70.28%で勝利しました。

プーチン氏が再び大統領職につくことになった2012年の選挙は投票率が65.34%プーチン氏の得票率が63.60%でした。

前回・2018年、プーチン氏にとって通算4回目の立候補となった選挙では、投票率が67.54%、プーチン氏の得票率は76.69%で、過去最も多い5600万票あまりを獲得しました。

これまでの大統領選は

ソビエト崩壊後、いまのロシアで最初の大統領選挙が行われたのは1996年です。

大統領の任期は4年で、選挙には、ソビエト崩壊にともない初代大統領を務めたエリツィン氏のほか、旧ソビエトの最後の指導者ゴルバチョフ氏など、10人が立候補しました。

投票の結果、いずれの候補も過半数の票を獲得できず、エリツィン氏とロシア共産党のジュガーノフ党首による決選投票が行われ、エリツィン氏が得票率53%あまりで、からくも再選されました。

しかし、経済政策の行き詰まりや健康不安などから、エリツィン氏は1999年、当時首相だったプーチン氏を後継者に指名し、年末に突然、辞任を表明しました。

これを受けて、2000年3月に行われた大統領選挙では、プーチン氏のほか各政党のトップなどあわせて11人が立候補し、プーチン氏が得票率52.94%で当選し、2代目の大統領に就任しました。

続く2004年の大統領選挙では、プーチン氏は日系ロシア人で改革派のハカマダ氏など5人に対し、71%を超す得票率で圧勝しました。

2008年の選挙では、当時のロシアの憲法では、大統領の連続3選が禁じられていたため、プーチン氏はいったん退き、後継者に指名された第1副首相のメドベージェフ氏が70%あまりの得票で初当選しました。

一方、プーチン氏は首相として政権に強い影響力を維持し、2012年の大統領選挙では、プーチン氏は再び大統領に立候補し、63%あまりの得票率で大統領の座に戻りました。

また憲法改正によって、大統領の任期は6年に延長されました。

ロシアでは、プーチン氏の大統領復帰に対して抗議デモが相次ぎ、5月の就任式の前日には、首都モスクワ中心部でデモ隊が警官隊と衝突し400人以上が拘束される事態にもなりました。

2014年には、プーチン大統領はウクライナ南部のクリミアを一方的に併合して国際社会の非難を浴びましたが、国内では国営メディアなどを通じて愛国心を訴え支持を高めることになりました。

前回・2018年の選挙では、反体制派の指導者ナワリヌイ氏が立候補を表明しましたが、過去の有罪判決を理由に立候補は認められず、選挙のボイコットを呼びかけました。

この選挙は、クリミア併合を宣言してから4年となる3月18日に行われ、プーチン氏は、サンクトペテルブルクの元市長の娘で、野党勢力の抗議活動に加わってきたサプチャク氏など7人を抑え、76%あまりの得票率で圧勝しました。

今回の選挙を前に、2020年に再び憲法を改正し、プーチン氏はことしからさらに2期12年、最長で2036年までの続投を可能にして、長期にわたって権力を維持できる仕組みを作ってきました。

死亡した反体制派 ナワリヌイ氏の妻 抗議の姿勢を呼びかけ

ロシアのプーチン政権への批判を貫いた反体制派の指導者、ナワリヌイ氏が死亡し、妻のユリアさんや支援団体は遺志を継いで、大統領選挙でプーチン大統領への抗議の姿勢を示そうと呼びかけています。

プーチン大統領の最大の政敵ともいわれたナワリヌイ氏は先月(2月)、収監されていたロシアの北極圏にある刑務所で死亡しました。

ナワリヌイ氏の死因をめぐっては、家族や欧米などはプーチン政権側の関与があったとして、責任を追及していますが、政権側は関与を強く否定しています。

ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは、夫の遺志を継ぐ考えを示し、今月6日、SNSで「選挙の日を利用して、私たちが存在し、大勢いることを示す必要がある」と訴え、大統領選挙でプーチン大統領への抗議の姿勢を示そうと支持者などに呼びかけています。

具体的には、大統領選挙の最終日となる17日の正午、各地の投票所を訪れ、プーチン氏以外の候補者に投票したり、投票用紙にナワリヌイ氏の名前を書いたり、投票用紙を持ち帰ったりすることなどを呼びかけています。

ユリアさんは13日、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストへの寄稿でプーチン大統領について「政治家ではなく、ギャングだ。欧米諸国で依然として正当な政治指導者とみなされるのは大きな間違いだ」と強調し、プーチン大統領の再選が確実視されている選挙結果を認めないよう国際社会に訴えています。

また、ナワリヌイ氏の側近だったレオニード・ボルコフ氏が、12日、滞在先のリトアニアで何者かに襲撃されてけがをしたと、本人や支援団体が明らかにしました。

リトアニアの当局は、ロシアで大統領選挙が行われるのを前に、ロシア側がプーチン氏への反対運動を阻止するねらいで行った可能性があるという見方を示しています。

モスクワの市民は

ロシアの大統領選挙について、首都モスクワの市民からは、安定などを理由にプーチン大統領の続投を支持する声が聞かれた一方、政権交代の必要性を訴える声も聞かれました。

このうち高齢の男性は「プーチン大統領とともに、秩序ができた。1990年代を覚えているが、彼のもとですべてがよくなった」とソビエト崩壊の混乱から国を立て直した功績などに触れプーチン大統領に投票すると話していました。

また、サッカーチームのコーチを務める男性もプーチン氏を支持しているということで「私たちはいま、国の進路を変える必要はない。安定が常に重要だからだ。国の安定なしに、よいことは何もない」と話していました。

60代の年金暮らしの女性は、「すべてに満足している。プーチン大統領のもとで、国が発展し、経済がどのように発展してきたかを見てきた」と話した一方、軍事侵攻については早く終わることを期待しているとしました。

一方、プーチン大統領への反対の姿勢を示すために、無効票を投じるという40代の教師の女性は「投票したい人は誰もいない。いまに内部の泡のようなものが膨らんで爆発すると信じている」と述べ20年以上続くプーチン政権の下で国民の不満がくすぶっているとしています。

19歳の学生の女性は「政権交代があるべきだというのは確かだ。投票に行かなければ、政権側に同意することを意味してしまう」と話し、プーチン大統領以外に投票すると明かしました。

また別の男性は「投票は自分の声を届けるという意味で大事なことだと思う。変化を期待している」と話しましたが、口は重く、投票先や期待する変化については明らかにしませんでした。

米国務省“ウクライナ領土内で行う偽の選挙 正当性認めない”

アメリカ国務省のミラー報道官は14日、記者会見で「ロシアが、占領するウクライナ領土内で偽の選挙を行うことで、ウクライナの主権や領土保全、政治的な独立性を引き続き侵害しようとしていることを非難する。アメリカはロシアの大統領選挙の一環としてウクライナ領土内で行う偽の選挙の結果や正当性を認めることは決してない」と述べました。

その上で「こうした見せかけの行いの結果は、ロシア政府が決めるもので、ウクライナ市民の自由な意思を反映することはできない。ロシアが露骨に国際法上の義務に違反していることを改めて示すだけだ」と指摘しました。

林官房長官「ウクライナでロシア大統領選 明らかな国際法違反」

林官房長官は15日、閣議の後の記者会見で「ロシアは違法に併合したウクライナ国内の地域でも、いわゆる『大統領選挙』を実施するとしているが、明らかな国際法違反で、関連の国連総会決議とも相いれないものであり、決して認められない」と指摘しました。

そのうえで「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序全体の根幹を揺るがす暴挙であり、G7をはじめとする国際社会と連携し、厳しい対ロ制裁を講じるとともに、強力なウクライナ支援にしっかりと取り組んでいく」と述べました。