ロシア大統領選投票開始へ プーチン大統領が当選確実の情勢

ロシアでは、15日から3日間、大統領選挙の投票が始まります。プーチン大統領としては、圧倒的な支持を集めることで国民から信任を得たと強調し、ウクライナへの軍事侵攻や欧米側との対決姿勢など、これまでの路線を継続、強化していくとみられます。

ロシア大統領選挙は、15日から3日間投票が行われます。

選挙には、プーチン大統領を含む4人が立候補していて、政府系の世論調査機関「全ロシア世論調査センター」による予測では、「プーチン大統領に投票する」と回答した人が82%と、ほかの候補者を大きく引き離し、プーチン氏の通算5期目となる当選は確実とみられています。

また、ウクライナ南部クリミアのほか、ロシアが軍事侵攻によって一方的に併合を宣言した東部と南部の4つの州でも選挙だとする活動を強行する構えです。

地元メディアなどによりますと、プーチン大統領は投票率70%、得票率80%の圧勝を目指しているとされ、プーチン氏は、14日に公開した動画メッセージで「ロシアはあらゆる分野で深刻な課題に直面しているが、克服するためには結束し、確固たる自信を持たなければならない」と述べ投票を呼びかけました。

プーチン大統領としては、圧倒的な支持を集めることで国民から信任を得たと強調し、ウクライナ侵攻や欧米側との対決姿勢などこれまでの路線を継続、強化していくとみられます。

ロシア大統領選挙は、日本時間の18日未明から開票が行われ、大勢が判明する見通しです。

プーチン政権 大統領選を前に大規模国際イベント開催

ロシアのプーチン政権が、大統領選挙を控える今月1日から南部のソチで開催したのが「世界青少年フェスティバル」と呼ばれるイベントです。

プーチン大統領が去年大統領令に署名して開催を指示したもので、ロシア各地のほか中国やアフリカの友好国などから合わせておよそ2万人の若者が参加したとしています。

会場では、ビジネスやスポーツ、文化、などをテーマに意見を交わす催しが開かれたほか、ロシアの最新の技術や各地域の魅力などがブースごとに紹介されています。

プーチン大統領みずからも今月6日、ロシアや友好国の若者たちを集めて演説を行い「ここロシア南部に世界の若者たちが集結した。残念ながら今の世界は不平等で世界秩序は不正義だ。われわれの扉は常に開かれている」と訴えました。

イベントに参加したモスクワの大学生、イリーナ・パルシナさん(19)は、プーチン大統領の選挙運動にもボランティアとして携わっています。

ことし1月には選挙対策本部を訪れたプーチン大統領とも面会したということで、パルシナさんは「プーチン氏を支持している。彼はロシアのことを知る機会を与えてくれている」と述べ、SNSを使って若者たちにプーチン大統領への支持を呼びかける活動をしているといいます。

また、イベントに参加している別の若者たちも「この状況でプーチン大統領こそがロシアに安全を与えてくれる唯一の人物だ。この国を誇りに思っている」などと話していました。

イベントが開かれたソチは、2014年2月に冬季オリンピック・パラリンピックが開催され、愛国的な雰囲気に包まれた地でもあります。

プーチン大統領としては、ソチで大々的にイベントを開くことでウクライナ侵攻が長期化する中にあっても、多くの人々の生活は安定し、発展しているとして愛国心をもとに国民に結束をよびかけるねらいがあるとみられます。

また、ロシアに制裁を続ける欧米諸国とは関係が極めて悪化しているものの、それ以外の多くの国はロシアとの関係を維持しているとして、ロシアの対外的な存在感をアピールする思惑もあるとみられます。

このイベントでは、大統領の主張やこれまでの実績だとする国内政策が随所で強調され、プーチン氏の求心力を高める選挙活動の一環にもなっていました。

プーチン大統領を支持 その理由は“社会の「安定」”

プーチン大統領を支持する国民の多くがその理由としてまず挙げるのが社会の「安定」です。

ロシア南部のソチに住むイワン・ミチャエフさん(64)もそう考える1人です。

ミチャエフさんは、プーチン大統領について「強い指導者であり誇りだ。ロシアに安定と発展をもたらした。大統領選挙でも多くの人がプーチン氏に投票するだろう。誰もが偉大なるロシアの安定を必要としているからだ」と話していました。

ミチャエフさんの母親は、ウクライナ出身だということでウクライナ侵攻については「もちろん早く終わるにこしたことはない。しかし私はロシア人なので最後までロシアを支持する。ロシアがこの戦争に負けることはないだろう」と話していました。

また「この戦争、すなわち特別軍事作戦はウクライナにとっても欧米から押しつけられたものだ」と述べるなど政権側と同じような欧米批判を展開していました。

ミチャエフ氏の娘 タチアナさんは「10年前のクリミア併合のあとみんなが高揚感に包まれたし、ここ数年でロシア国民はさらに結束したと思う。大統領選挙でもプーチン氏への投票が必要だ」と述べ、タチアナさんの夫コンスタンチン・イワノフさんも「プーチン氏以外の指導者は考えられない。安定した国、社会に住みたいからだ。残念ながら欧米側はわれわれを受け入れず、この状態が続くだろう。アメリカもイギリスもロシアが強くなることを望んでいないからだ」と話していました。

もともと愛国心が強いとされるロシアの人たちはプーチン大統領が「強いロシア」を掲げてこれまで進めてきた愛国的な政策や言動に共鳴し、支持を続けている側面もあるとみられます。

ロシア国際政治学者 “欧米側の脅しに軍事的に対抗する構え”

ロシアの国際政治学者ドミトリー・ススロフ氏は、NHKとのインタビューでプーチン大統領の対外政策の原則として「脅迫を恐れることはないということだ」と述べ、ロシアは欧米側の「脅し」に対しては軍事的に対抗する構えだと強調しました。

具体的には、欧米が供与した兵器によるロシア領の奥深くへの攻撃や欧米による地上部隊のウクライナ派遣が「脅し」にあたるとしたうえで「このどちらについてもプーチン大統領は核戦争を含む世界大戦につながる可能性があるときっぱりと主張している。事態が激化すれば、核兵器も含めてあらゆる手段の使用をためらわないだろう」と述べました。

ウクライナ侵攻については「ロシアは自国の安全が保障されるのであれば、ウクライナでの戦争を終わらせる用意がある。少なくともウクライナでロシアの占領地が領土と認められ、ウクライナは永世中立を宣言すべきだ。ただ、西側は拒否するので、結局、戦争は続く」と指摘しました。

一方、アメリカ大統領選挙がロシアに与える影響についてススロフ氏は「どちらになっても実質的な違いはない」と述べ、バイデン氏とトランプ氏のどちらが大統領に就任しても米ロ関係が改善する見通しは薄いとしています。

ただバイデン氏については「より予測可能で、対立をエスカレートさせるような手段をとらない傾向がある。実際に長距離のミサイルをウクライナに供与することを今も拒否している。第3次世界大戦のリスクや両国の直接的な軍事衝突を非常に懸念している」と分析しました。

トランプ前大統領については「ロシアとの直接的な軍事衝突という意味では抑制的でなくなりより危険になるおそれがある。しかし、アメリカの同盟国、特にヨーロッパ諸国との関係が損なわれれば、ロシアには大きな利点になる」と述べ、欧米側の結束が揺らぐことで結果的にロシアに有利に働く可能性を指摘しました。

さらに、プーチン政権が、中国をはじめとするBRICSの加盟国やグローバルサウスと呼ばれる国々との関係を強化していることについて、ススロフ氏は「世界における西側の影響力は相対的に低下しておりこれは不可逆的だ」と述べました。

そして「欧米以外の国々はウクライナ侵攻を支持していないかもしれないがロシアの戦略的敗北を支持しているわけでもない。世界が多極化したほうがいいと考えている」と述べ、欧米中心の国際秩序からの脱却という考えでロシアと欧米以外の国々は結び付いているとしています。

一方、ロシア政府が「非友好的な国」に指定している日本との関係については「アジア太平洋地域を中国が支配するのではなく多極化した地域にするためにロシアは日本とアジアとの協力関係を再構築すべきだと思う」と述べ、現在は日ロ関係が改善する状況にはないものの、ロシアは中国との関係に過度に依存しないためにも日本との関係を考慮する余地は残しておくべきだと指摘しました。

ロシア社会学者「プーチン氏しか選択肢ない状況で圧勝演出」

ロシアの社会学者レフ・グドゥコフ氏は、NHKのインタビューで今回の大統領選挙について「ロシア国民はプーチン氏に代わる人物を見いだせずにいる」と述べ、政権側は反対勢力への圧力を強めるなどして、プーチン氏に投票するしか選択肢がない状況を作り出し、圧勝の演出に努めていると指摘しました。

ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務めたレフ・グドゥコフ氏は「政権側はプーチン大統領は経験豊富で決断力があり、思いやりがある政治家だというイメージを与えている。国民は彼が安定をもたらし、欧米の脅威から守ってくれ、大きな戦争に巻き込まれないよう保証してくれていると信じている」と述べ、プーチン政権は国営テレビを中心とした強力なプロパガンダと情報統制によってプーチン氏への支持を維持させているとしています。

また、今回の大統領選挙について「本物の候補者も政治家もいない。対立候補もリストから外され、ナワリヌイ氏の運動も潰された」と述べ、政権は、反戦候補として注目されたナデジディン元下院議員の立候補を認めず、反体制派の指導者ナワリヌイ氏の運動も封じ込めるなどして反対勢力への圧力を強めていると指摘しました。

グドゥコフ氏は、こうした状況の中でプーチン氏を固く支持する国民は全体の55%から60%ほどいるとしたものの「国民はプーチン大統領に代わる人物を見いだせずにいる」と述べ、積極的に支持しているわけではない国民にとってもプーチン氏に投票するしか選択肢がない状況が作り出されているとしています。

また、「国営企業などは投票率を保つよう指示されている。多くの圧力がある」として政権は、投票率7割、得票率8割の目標を達成させるなど、プーチン氏の圧勝の演出に努めていると指摘しました。

そしてロシア社会の今後については「見通しは非常に暗い。ロシアに変化が訪れるとしたらウクライナでロシアが敗北を喫したときだけだろう」と述べました。

グドゥコフ氏が所長をつとめた「レバダセンター」はプーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。