首都直下地震 経済など長期的被害1001兆円に見直し 土木学会

首都直下地震による長期的な経済と資産の被害について土木学会は、6年前の推計を見直し、1001兆円にのぼるとする報告をまとめました。

土木学会の委員会は、巨大災害への対策に役立ててもらおうと、6年前、経済などへの影響を災害ごとに公表し、このうち首都直下地震では経済と資産の被害が20年間で合わせて778兆円、南海トラフ巨大地震では1410兆円と推計しました。

その後、新たに得られたデータをもとに見直しが行われ、首都直下地震については前回から223兆円多い1001兆円にのぼるとする報告をまとめました。

経済被害の推計には、その後の復興事業の影響を反映していないため、実際は軽減が見込まれるということです。

そのうえで、21兆円以上を投じて道路や港湾などの公共インフラの対策を進めれば、経済被害を369兆円減らすことができるとしています。

委員会の小委員長で、京都大学大学院の藤井聡教授は「経済がどれだけ被害を受けるか、国民がどれだけ苦しみを被るかを定量化した。被害の深刻さをしっかりと受け止めてもらうと同時に、対策を行えば軽減できることを認識してもらいたい」と話しています。

委員会は、南海トラフ巨大地震の経済などへの被害についても見直しを行っていて、結果がまとまりしだい公表するとしています。

報告書 推計結果の詳細

【巨大災害について】
どの程度、被害を受けるか推計したうえで被害を低減するための具体的な対策を検討しその効果を経済や財政の面から検討しています。

【首都直下地震では】
経済活動の低迷によるGDP=国内総生産の損失を示す「経済被害」が954兆円、被災した建物などの被害額を示す「資産被害」が47兆円でこれらを合わせると1001兆円となります。

また、国や自治体の財政収支の悪化を示す「財政的被害」は、389兆円にのぼると推計しています。

【被害を避けるための対策について】
道路網の整備や。緊急時の輸送路で電柱が倒れないよう地中に埋設する工事、橋や漁港、港湾の耐震化。建物の耐震化を進め、旧耐震基準を新耐震基準に強化することを挙げています。

こうした対策に、公的な支出として21兆円以上を投じれば、復興にかかる期間を5年ほど短縮し、954兆円とされる経済被害は369兆円、率にして、およそ4割縮小できるとしています。

また復興に必要な費用が137兆円、税収の減少が14兆円それぞれ圧縮され、151兆円の財政効果があるとしています。

「首都直下地震」とは

「首都直下地震」は、政府の地震調査委員会が、今後30年以内に70%の確率で発生すると推計しているマグニチュード7クラスの大地震で、国は2013年に被害想定などを公表しました。

首都の直下で起きるさまざまなタイプの地震のうち、陸のプレートの下に沈み込む「フィリピン海プレート」の内部を震源とするマグニチュード7.3の「都心南部直下」という首都中枢機能への影響が特に大きい地震が、被害想定のモデルになっています。

想定では、東京の江戸川区と江東区で震度7、東京、千葉、埼玉、神奈川の4つの都県で震度6強の激しい揺れに襲われるとしています。

被害が最も大きくなると考えられているのが、風の強い「冬の夕方」に地震が発生するケースで、住宅や飲食店で火を使う機会が最も多く、全壊または焼失する建物は61万棟にのぼりこのうち41万2000棟が火災で焼失するとされています。

死者はおよそ2万3000人にのぼり、その7割にあたる、およそ1万6000人は火災が原因だとしています。

また、けが人は12万3000人、救助が必要な人は5万8000人、避難者は最大で720万人と想定されています。

上下水道や電気などのライフラインのほか、交通への影響も長期化が想定されます。都心の一般道は、激しい交通渋滞が数週間継続し、鉄道は、1週間から1か月程度運行できない状態が続くおそれがあるほか、食料や水、ガソリンなどの燃料も不足した状態が続くとしています。

経済的な被害は、建物などの直接的な被害と、企業の生産活動やサービスの低下による間接的な被害を合わせて95兆円余りで、今回、土木学会の委員会が公表した1001兆円の10分の1以下となっています。

これについて委員会は、資産の被害に伴って20年ほど続く経済への被害も算出したため、大きな開きが出たとしています。

国は被害想定について、その後の社会変化なども踏まえて見直すことにしていて、2023年12月にワーキンググループの初めての会合が開かれました。

会合では、タワーマンションなど高層ビルが増えたことや、生活物資の供給網=サプライチェーンが広がったことなどを踏まえて議論が重ねられる見込みで、国は年内を目標に、新たな想定を取りまとめた報告書を公表する方針です。