春闘とは労働組合が賃金の引き上げや労働環境の改善などについて経営側と話し合う交渉を春の時期に足並みをそろえて行う動きで、昭和31年(1956年)ごろに始まったとされています。
【春闘】給料を上げる交渉をしている?目的や役割を詳しく
3月13日の集中回答日を迎えたことしの春闘。大手企業は高水準の回答が相次いでいます。
しかし、「春闘ってなんだっけ?」「どこに注目してニュースを見たらいいの?」という方もいると思います。
そこで、春闘の目的や役割、ことしの交渉のポイントをまとめました。
春闘 集中回答日 大手企業ベースアップはいくら?【詳しく】
そもそも春闘ってなんだっけ?
多くの大企業などでは新年度が始まる4月に賃金改定が行われることから、各労働組合はその年の2月ごろから経営側との交渉に入ります。
企業ごとの交渉にあたってはまず、労働組合の中央組織の「連合」や産業別の労働組合が要求方針や目標を掲げます。
そして連合や産業別の労働組合の指導や調整を受けながら経営側と交渉を進め、大企業などでは春に一斉に回答を引き出します。
これまでの春闘では業績の良い産業や企業がけん引役となって、賃上げの水準を高めていく役割も果たしてきました。
しかし、長くデフレが続き賃上げを要求する動きが停滞したことや、格差の是正や雇用の維持など要求自体が多様化してきたこと、さらに労働組合に加入している人の割合を示す組織率は推計で16.3%と過去最低となったことなどから、春闘が賃上げの相場を形成する機能が弱くなっているという指摘も出ています。
ことしの春闘 ポイントは?
ことしの春闘の最大の焦点は去年に続き持続的な賃上げを実現させ、その動きを中小企業や非正規雇用にまで広げられるかどうかです。
去年の春闘では30年ぶりの高い水準の賃上げ率となりましたが、物価上昇の影響を受け実質賃金は22か月連続でマイナスが続き、個人消費も伸び悩んでいる状況です。
労働団体の連合は、ことしの春闘を経済と賃金と物価が安定的に上昇する経済社会へのステージ転換を図る正念場だと位置づけ、定期昇給分を含めて5%以上と去年を上回る賃上げを求めました。
産業別の労働組合も例年以上に高い水準の賃上げを求める動きが相次ぎました。
組合側のこうした動きに対し、自動車業界や外食業界などの大手企業の間では集中回答日を待たず、高い水準の賃上げで早期に決着する動きが相次いでいます。
今後、労使交渉が本格化する中小企業や非正規雇用で働く人にまで波及させることができるかどうかが焦点です。
そこで重要となるのが企業が賃上げの原資を確保するための「価格転嫁」をどこまで進められるかです。
経団連と連合は、原材料費や人件費などの上昇分を元受けの大企業などに対する価格転嫁の実現に向けて取り組むことで一致しています。
一方で大企業の中には下請け企業への支払い代金を一方的に引き下げるなどのケースも確認されていて、国は価格転嫁を促す指針を策定したり監視を強化したりして対策を進めています。
今後は価格転嫁しやすい環境を整え、中小企業や非正規雇用の賃上げにつなげることができるのか、そして、消費の拡大によって賃金と物価が安定的に上昇する好循環を生み出し、デフレからの完全脱却につなげられるかが焦点です。
ことしの春闘 これまでの経緯は?
【連合 5%以上の賃上げ要求】
労働組合の中央組織の連合がおよそ30年ぶりの高い水準となった去年を上回る、定期昇給分を含めて5%以上の賃上げを要求する方針を去年12月に正式に決定しました。
これに伴って産業ごとに労働組合が集まる産業別労働組合が、それぞれ要求方針や目標を掲げ、例年以上の高い水準の賃上げを求める動きが相次ぎました。
さらに今回は国も地方の中小企業まで賃上げを波及させようと、都道府県ごとに行政と労使の3者が集まって議論する「地方版政労使会議」を開いて議論を続けています。
2024年1月
【春闘 事実上スタート】
1月24日、連合と経団連が賃上げの方針などを説明する労使フォーラムを開催し、春闘が事実上スタートしました。
2月
【労使交渉が本格化】
各企業の労働組合は連合や産業別労働組合の方針を踏まえて経営側に要求書を提出し、2月から労使の間での交渉が本格化しました。
【早期決着する動きも】
大手企業の中からは2月下旬ごろから「ホンダ」や「マツダ」などの自動車業界や「イオンリテール」などの流通業界、「すかいらーくホールディングス」などの外食業界で組合の要求に応じる形の満額回答で早期に決着する動きが相次いでいます。
3月
【集中回答日】
こうした中で13日、主に大企業が回答する集中回答日を迎えました。
【今後 中小などで交渉続く】
一方、中小企業の多くは13日の集中回答日以降に交渉が本格化する予定で、賃上げの流れをどこまで広く波及させることができるかが焦点となっています。
賃上げ率 過去どのくらい上がっている?
厚生労働省は大手企業などを対象に春闘の妥結状況について昭和40年から集計を行っています。
春闘は昭和31年ごろから始まり、高い経済成長を背景に昭和50年(1975年)まで10%を超える賃上げ率が続きました。
しかし、その後は経済成長が鈍る中、賃上げ率も低下傾向となりました。
そして、バブルが崩壊し、経済停滞とデフレが長期化すると賃上げ率の水準はさらに低下し、平成14年(2002年)以降12年連続で1%台で推移しました。
その後、政府が経済界に対して賃上げを求めるいわゆる「官製春闘」などを背景に令和2年(2020年)まで7年連続で賃上げ率は2%台となりました。
しかし、令和3年(2021年)には新型コロナウイルスの影響などで賃上げ率は1.86%と再び2%を下回りました。
その後、コロナ禍からの経済回復などでおととしの賃上げ率は2.20%まで上がり、去年には物価高騰や人手不足などを背景に30年ぶりの高い水準の3.60%となりました。
ことしは去年に続き高い賃上げ水準を維持して、持続的な賃上げを実現できるかが焦点となっています。
「UAゼンセン」「JAM」ってなに?
「UAゼンセン」は繊維化学、流通、サービス業などおよそ2200の組合でつくる産業別労働組合で、組合員は187万人あまりと連合傘下で最大規模を誇ります。
特に中小企業や非正規雇用で働く人が多いのが特徴で、組合員のおよそ6割はパートなどです。
ことしの春闘では、定期昇給分をあわせて「6%を基準」とした賃上げの方針を掲げていて加盟する労働組合の要求水準は2012年の発足以来、最も高くなっていました。
13日の集中回答日の前の段階でも、流通大手のイオングループを中心にすでに組合の要求に応じる形で満額での回答が相次いでいました。
会長の松浦昭彦さんは労働組合の中央組織「連合」の会長代行も務めています。
「JAM」は機械や金属産業などの中小企業を中心におよそ39万人の組合員が加盟する産業別労働組合です。
加盟する労働組合の6割が100人以下の組合、4分の1が30人以下の組合で中小の製造業で働く人が多いのが特徴です。
ことしの春闘では月額1万6500円以上という1999年の結成以来過去最高の賃上げを要求する方針を掲げていて、すでに満額を含む高い水準の回答が示されるケースも出ていました。
また、サプライチェーン全体での適正な分配を呼びかけていて、下請けとなる中小企業から大手企業側へ人件費を含めた価格転嫁を行うための取り組みにも力を入れています。