死因の8割が“家屋倒壊” なぜ進まない?住宅の耐震化

死因の8割が“家屋倒壊” なぜ進まない?住宅の耐震化
k10014385831_202403110957_202403131749.mp4
能登半島地震における石川県内での住宅被害は7万6000棟余りに上っています。

死因などが公表されている人のうち約8割は「家屋の倒壊」で亡くなっていて、住宅の耐震化の必要性が指摘されています。

国は2030年までに耐震性が不十分な住宅を解消することを目指しています。

しかし現行の耐震基準を満たす住宅は全国で87%。

なぜ100%に届かないのか?

いち早く取り組みを行ってきた静岡県で課題を探りました。
(おはよう日本 ディレクター 谷圭菜・川上慈尚)

無料の耐震診断に申し込みが急増

南海トラフ巨大地震の発生に備え、取り組みを行ってきた静岡県。

県内のすべての自治体で住宅の耐震診断を行ってきました。
耐震診断では、傷んでいる木材や家の設計などを確認して、大地震が起きたときに倒壊しないかどうか調べます。

診断の対象は、昭和56年以前の「旧耐震基準」で建てられた木造住宅。

費用は無料です。

静岡市では昨年度230件だった耐震診断の申し込みが、能登半島地震の発生から1か月で129件に上りました。
耐震診断を受けた住民
「能登半島の地震があったのを見てちょっと怖いなと感じたので説明をしてもらったら、住んでいるのが怖いなと…。補強工事をやったほうがいいのかなというのをひしひしと感じました」
静岡県の被害想定では、住宅建物の倒壊による死者数は最悪の場合7800人に上ると推計しています。
そのため県は、23年前に「TOUKAI(東海・倒壊)-0」プロジェクトを立ち上げ、耐震診断のほか、補強工事を行う場合には、一般世帯で最大100万円の補助などを行っています。

開始当初73%(2003年)だった耐震化率は89%(2018年)まで上昇しましたが、100%には達しない状況が続いています。

耐震化していない住宅 7割が高齢者

要因となっているのが、耐震化の進まない住宅に住むおよそ7割が65歳以上の高齢者であることです。

静岡市に暮らす鍋田正夫さん(77)も、耐震化をするか悩んでいるひとりです。
今は亡き両親とともに建てた築49年の木造住宅で妻と二人で暮らしています。

静岡市からのはがきで無料の耐震診断の案内が届き、初めて耐震診断をうけました。

届いた診断結果では、評価は4段階の中で一番下。

震度6強以上の地震で倒壊する可能性が高いという判定です。
鍋田正夫さん
「すごい値だから、びっくりしたというのが第1感想ですね。評点が0.7未満だと倒壊する可能性があるものですから、うちの評点が0.23。この数字を見ますと大きな地震に対しては耐えられないと思います」
窓が大きく日当たりがよいことが自慢でしたが、柱が少ないため地震の揺れに対して弱いことも説明をうけました。

耐震基準を満たすためには、全面窓となっている部分は柱を加えたり、壁にしたりするなどの補強が必要となります。
さらに、屋根の軽量化など補強工事にはおよそ200万円の費用がかかり、補助を受けても自己負担額は100万円近くになると想定されます。

年金生活で、家の跡継ぎもいない鍋田さん夫婦。

いつ来るかわからない地震にどこまで備えるのか、決断できずにいます。
妻 さよ子さん
「瓦って重たいでしょ。だから軽いのに、今風のようにしたいなとは思いますけど、そうするともう相当な金額がかかりますからね」
鍋田正夫さん
「いろいろ悩みます。一番の問題は資金で、蓄えもありませんから。このまま大きな地震が来ないでほしい、そういう願いです。あと何年生きられるかわかりませんけど、工事をやらなくて済むなら…。でもこういう診断を受けましたから考えていきたいとは思っています。命あってのことですからね。今はそんな感じでいます」

耐震化を後押しするために

簡単には決断ができない、高齢者の住宅の耐震化。

少しでも後押ししようと、静岡県では耐震化に踏み切った住民の声をまとめて配布する活動を始めています。
「年寄り2人世帯なので、耐震補強をするか迷っていましたが、倒壊して近所に迷惑をかけてもいけないので、実施を決めました(焼津市の住民)」

「孫たちが安心、安全な建物で暮らせるよう私たちからのプレゼントのような気持ちで工事をしていただくことにしました(沼津市の住民)」
住宅の耐震化が多くの命を守ることや、命が自分だけのものではないことを改めて知ってほしいという思いからです。
静岡県 建築安全推進課 鈴木貴博課長
「今回の能登半島地震では古い住宅の倒壊が多い。そういったところに住んでらっしゃった方に高齢者が多かったということも聞いていますので、われわれが危惧していたことが現実的に起きてしまったなと…。補助金をたくさん積み上げてもなかなか活用していただけない。あの手この手でいろいろ対策をしているところです」
とはいえ、補助金の制度を使っても自己負担がゼロになるわけではありません。

静岡県では、家の耐震補強工事よりも安価な対策として、防災ベッドや耐震シェルターの購入にも補助金の制度を導入しています。

例えば、昭和56年以前の旧耐震基準で建てられた木造住宅の住民には、耐震シェルターを設置する経費の半分以内で12万5000円を上限に補助を出します。
ほかにも耐震化に踏み切れない人には、耐震性のある住居への住み替えなども選択肢として提示しています。

家全体の倒壊を防げなくても、命だけは守ろうという考えからです。

耐震化は 災害前の“事前復興”

一方、個人の住宅に対して、どこまで税金で耐震化を進めるべきなのか。

地域の防災対策に詳しい専門家は、耐震化を進めるためには「事前復興」という考え方が大切だと指摘します。

「事前復興」とは、災害が起きてから多額のコストや時間をかけるよりも、事前に災害に強い街を作っておくという考え方だといいます。
静岡大学 岩田孝仁特任教授
「今回の能登半島地震で耐震化の重要性が改めて認識されました。倒壊した住宅が避難用の経路を塞ぐような場合もあり、耐震化を進める事は地域の安全を確保するためでもあります。今後の首都直下地震や南海トラフ大地震などを想定し、大地震の予測地域や倒壊すると避難・救助活動の妨げになりかねない住宅に対し、国や自治体がより手厚い補助制度を導入できないか、議論が必要です」

“いつ起きるかわからない”からこそ

今回の能登半島地震のあと、現地で目の当たりにした光景。

数日前まで、多くの人が生活していた住宅が見る影もなく倒壊していました。

もし家が耐震化されていれば、救えたかもしれない命。

そう思わなくていいよう、私たちは「未知の脅威にどこまで備えるのか」、社会全体で一層考えていかなければならないと感じました。

(2024年3月4日「おはよう日本」で放送)
おはよう日本 ディレクター
谷 圭菜
2016年入局
初任地の静岡局でも「TOUKAI-0」を取材
改めて「耐震化」の重要性を痛感しました
おはよう日本 ディレクター
川上慈尚
2018年入局
大阪局を経て現所属
「旧耐震基準」に暮らす親戚に声かけしました