暴力団「工藤会」トップ きょう2審判決 市民襲撃の4事件

北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」が市民を襲撃した4つの事件で、殺人などの罪に問われ1審で死刑判決を受けた組織のトップに12日、2審の福岡高等裁判所が判決を言い渡します。直接的な証拠がない中、トップが首謀者として関与したことを認めた1審の判断が維持されるかどうか注目されます。

北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」のトップで総裁の野村悟被告(77)と、ナンバー2で会長の田上不美夫被告(67)は、1998年から2014年にかけて福岡県内で漁協の元組合長を射殺したほか、看護師や歯科医師など3人を拳銃や刃物で襲うなど4つの事件に関わったとして、殺人や組織的な殺人未遂などの罪に問われています。

3年前、1審の福岡地方裁判所は、実行犯に指示をしたなどの直接的な証拠がない中、工藤会の強固な組織性などから4つの事件すべてで
▽野村被告が首謀者として関与したと認めて死刑を
▽田上被告に無期懲役の判決を言い渡し、被告側が控訴していました。

2審の審理では
▽野村被告は1審に続きいずれも共謀の事実はないと無罪を主張し
▽1審で全面的に否認していた田上被告は、2つの事件を独断で起こしたと一転して関与を認めました。

弁護側は、それぞれの事件には田上被告ら別の首謀者がいるとする新たな主張を展開したうえで「1審判決は重大な事実誤認がある」などと主張しています。

一方、検察は「1審の判断に不合理な点はない」と主張し、控訴を退けるよう求めています。

2審の判決は、12日午前10時から福岡高等裁判所で言い渡され、野村被告を首謀者と認めた1審の判断が維持されるかどうか、注目されます。

被告らの主張は

工藤会トップの野村被告とナンバー2の田上被告は、福岡県警が「壊滅作戦」と呼ぶ徹底的な取締りに乗り出した10年前に逮捕され、工藤会が市民を襲撃した4つの事件で起訴されました。

▽1つ目の事件は、26年前、北九州市小倉北区の繁華街で漁協の元組合長が至近距離から銃撃され殺害された事件で殺人の罪などに問われています。

港湾建設工事などの利権が事件の背景にあるとされています。

▽2つ目は、12年前に長年、暴力団の捜査を担当した福岡県警の元警察官が銃撃され腰や太ももに大けがをした事件です。

元警察官は野村被告ら工藤会幹部と対等に話ができる数少ない警察官でした。

▽翌年には、野村被告が通っていた美容外科クリニックの看護師が帰宅途中に福岡市博多区の歩道で刃物で刺されて大けがをしました。

事件前、野村被告は、接客や施術について看護師への不満をもらしていたとされています。

▽4つ目の事件は2014年の歯科医師襲撃事件です。

北九州市小倉北区で歯科医師が出勤時に胸や腹などを刺され、大けがをしました。

歯科医師は1つ目の事件で殺害された漁協の元組合長の孫でした。

元警察官と看護師、歯科医師が襲われたこの3つの事件では、組織犯罪処罰法違反の組織的な殺人未遂などの罪に問われています。

1審で、野村被告と田上被告はいずれも関与を否定し全面的に無罪を主張しましたが、判決では4つの事件すべてで野村被告が首謀者として関与したと認め、被告側が控訴していました。

2審では、野村被告が引き続き、すべての事件で無罪を主張した一方、田上被告は4つの事件のうち看護師と歯科医師がそれぞれ刃物で襲われた2つの事件は独断で起こしたと関与を一転して認めたうえで、いずれも殺意はなく「傷害罪にとどまる」と主張しました。

専門家 “1審と違う判断になれば暴力団対策考え直す事態にも”

工藤会トップの2審判決について、刑法が専門の甲南大学の園田寿名誉教授は「1審の判決が維持されて死刑になるのか、否定されて無罪になるのか、全く逆の結論になりうるのが今回の裁判のポイントだ」と話しています。

その理由について「1審判決はトップの関与について直接的な証拠がなく、状況証拠の積み上げによって有罪を立証した。推認ということばがかなり多く使われ、いろいろな角度から証拠を集めて線が1本につながるように1点に収れんするように推論の方法をとっている。それが妥当なのかが控訴審で問題になっている」と指摘しました。

一方、判決が暴力団対策に与える影響について「1審判決は非常に衝撃的な内容で、暴力団の犯罪に与える影響は大きかった。2審でも是認されれば今までの暴力団排除の社会の動きに拍車がかかることになるし、1審と違う判断になれば、暴力団対策も大きく考え直さないといけないような事態にもなると思います」と述べました。