「不謹慎で迷惑」能登半島地震で相次いだ偽救助要請 実態は?

地震後に、石川県輪島市の男性の自宅にやってきた10人の警察官。

「この家の住所で、救助要請の情報があったのですが…」
「えっ?見ての通り、元気です」

男性にはまったく身に覚えはなく、けがもなかった。

能登半島地震直後に相次いだ偽の救助要請。現地で取材を進めると、警察や消防の救助活動を妨げかねない事態が起きていたことが分かってきた。

(デジタルでだまされない取材班)

拡散された救助要請

1月1日の能登半島地震の直後に広く拡散された救助を求めるこの投稿。3800万回以上、閲覧された。

「夫が足を挟まれて出られません。119つながりません。充電もあと6%しかありません。旦那の呼吸もありません。私自身も右足の感覚が無くなってきているきがしています。寒いです。」
(Xより 1月1日午後7時すぎの投稿)

投稿には震度7を観測した能登半島の輪島市の詳細な住所が書かれていた。

2月、記者がこの住所を訪ねた。

この住所は、大規模な火災が発生した輪島市の中心部に近い。

私たちは周辺で聞き込みを行い、この住所地で暮らしていた男性に話を聞くことができた。

男性は救助要請の投稿を即座に否定した。

「救助要請の投稿には、まったく心当たりはありません。地震が起きた時は、仕事仲間の家にいて、自宅にはいませんでいた」

自宅は柱などが損傷する被害を受けたものの、自宅にいた母親と子ども2人は特にけがもなく無事だったという。

警察官 投稿見て救助に…

しかし、地震から数日後。自宅の片づけをしていた男性のもとに、投稿を確認したおよそ10人の警察官が救助のために訪ねてきた。

「こちらの家に住む方が足を挟まれて動けなくなっているという情報があって…」
「えっ?家の住所で間違いないですが、見ての通り、元気です」

困惑する男性から説明を聞き、警察官たちは帰っていったが、その後も投稿を見て救助に来る人は相次いだという。

男性
「知り合いには亡くなった人や、今も行方が分からない人もいます。大変な思いをしている人がたくさんいるというのに不謹慎ですし、迷惑でしかありません。もう二度とやってほしくないです。許せません」

偽の救助要請を投稿したアカウントは、地震の3日後には『夫は亡くなった』などと同情を誘うような投稿を繰り返していた。一連の投稿は、合わせておよそ7200万回、閲覧されている。

投稿は1月4日を最後に途絶えていて、NHKの取材に対して返信はなく、今のところ投稿した目的は分かっていない。

偽の救助要請 ほかにも

輪島市の別の住所の「倒れたタンスに挟まって動けません」という投稿。これも偽の救助要請だった。

住所地の隣に住む男性に取材すると、この住宅では高齢の女性が1人で暮らしていたが、地震が起きる1か月前の去年12月、脳梗塞で病院に搬送されて以来、無人となっていたという。

地震が起きた日も、家には誰もいなかったことを男性は確認していた。

また石川県内の住所を示して、「息子がタンスの下に挟まって動けません」「頼みの綱がXしかない状況です」などとする投稿も、警察がこの家を訪問した結果、投稿されたような救助要請はなかったことを確認していた。

さらに、架空の住所の投稿もあった。

「石川県川永市」という存在しない市の名前を記載し「たすけてください」と書かれていたが、このアカウントは、その後の投稿で、実際は韓国にいたことをほのめかしている。

消防も出動 そこにあったのは…

このような偽の救助要請の投稿をきっかけに実際に消防が出動したケースもあった。

1日夜、震度5強を観測し1500棟以上の住宅が被害を受けた加賀市の消防に寄せられた通報。

加賀市内で「埋まっている人がいる助けて」というXの投稿を見た人からの通報だった。

通報を受け、消防は、その投稿を確認、通報どおり実在する住所地だったため、救助隊と消防隊あわせて8人が現場に駆けつけた。

しかし、そこにあったのは無人の倉庫。被害は確認できなかった。

現場に向かった救助隊は加賀市消防本部の唯一の隊で、偽情報に振り回されたことで、必要な救助が間に合わなくなるおそれもあった。

加賀市消防本部 畑昇消防司令
「出動から現場の確認まで、一連の作業に30分ほど時間を要しています。虚偽の通報で消防隊が出動してしまうと、本当に必要な人や場所に向かわせることができない可能性があります。いたずらは絶対にやめていただきたいと思っています」

災害時の情報伝達に詳しい東北大学の佐藤翔輔准教授はSNS上の情報が実社会に与える影響が大きくなっていると指摘している。

東北大学 佐藤翔輔 准教授
「投稿を見た人が消防へ通報したケースは、困っている人を助けたいという善意の気持ちが実害につながってしまったのだと思います。そもそもSNSの情報が被災地のすべてを投影している訳ではありません。被災地のすべてを知ることはできないという前提でSNSを見ることが大事になります」

そのうえで佐藤准教授は災害時の偽情報の対策について、SNSを運営する企業が技術的にチェックする機能を導入することや法整備などの検討が必要だとしている。

偽情報どう見分ければ?

今回の地震では、偽情報の検証を業務としている企業も、その見極めに時間を要した。

都内の企業「スペクティ」は専門チームが30人がかりでXなどの投稿が事実かどうかを検証するファクトチェックを行い、その情報を石川県に提供している。

チームでは、投稿内容が正しいかどうかを判別するために、まず、ウェブ上の地図とつぶさに比較して確認。

さらに、投稿者のアカウントのプロフィールや過去の投稿も確認していく。投稿した人が、実際に現場にいた可能性があるかどうかもチェックする。

スペクティ 村上建治郎CEO
「今回で言うと、本当に大量の救助要請があがってきたので、我々も結構、苦労しました。その中で本当にこれは救助要請だと確定することができたのは10件ぐらいかなと思います。投稿された情報に対して、なんらかそれが正しいと確信を持てないようなものに関しては、やっぱり拡散をしない。リツイートしない。そこは少しとどまっていただいて、じゃあ他の情報と確認してみるとか、そういう作業が必要かなと思います」

本当のSOSがかき消されないために

地震発生当時、石川県の消防のほとんどは、ひっきりなしに寄せられる救助を求める通報でパンク状態だった。

1分1秒が生死を分ける災害時に、真偽が不確かな情報をもとに、第三者がSNSの投稿を拡散したり、通報したりすることは、たとえそれが善意であっても、救助の妨げになることもある。

本当のSOSがかき消されてしまわないよう、災害時のSNSの利用について改めて考えたい。

(デジタルでだまされない取材班 科学文化部記者 植田祐 / 秋田放送局記者 中尾絢一 / ネットワーク報道部記者 籏智広太 岡谷宏基 / ニュースウォッチ9ディレクター 中村優樹)
※2024年2月29日(木)「ニュースウォッチ9」で放送