二人三脚で理想の泳ぎを追って パラ競泳 木村敬一

パラ競泳の木村敬一選手が得意種目バタフライのフォームの改良に取り組んで、およそ1年。その成果を試す舞台として臨んだのが、10日まで行われたパリパラリンピックの代表選考会です。

代表内定を決めたレースのあと、木村選手は「完成度はまだまだ低い」と道半ばだと語り、「もう一度世界で戦える泳ぎを作ってパリ大会を迎えたい」と力を込めました。

手本となる泳ぎを”見たことがない”

「どこまで記録を伸ばせるか挑戦したい」と去年、木村選手は10年来の友人で、オリンピック2大会連続で銅メダルを獲得した星奈津美さんに指導を依頼し、いちから泳ぎを見直すことにしました。

全盲で2歳から目で見た記憶がない木村選手は、これまで手本となる泳ぎを見たことがなく、独自に泳ぎを習得してきました。

そこで、星さんはまず正しい体の使い方を知ってほしいとプールでじかに手を取って指導したり、視覚的に捉えるのが難しい木村選手に伝わりやすいことばに言いかえたりするなど、試行錯誤を続けてきました。

ひじの曲げとキックのタイミングを修正

2人がフォームの改良で重点的に取り組んだのが、腕の使い方です。

星さんは、従来の木村選手の泳ぎは腕をまっすぐに伸ばした状態で水をかいていたため、水中で手のひらが下に向いてしまい、うまく水を捉えられていなかったといいます。

このため、ひじを曲げ腕全体を使うことを徹底しました。

さらに、修正を加えたのがキックのタイミング。

健常の選手に比べてキックを打つタイミングが早く、上体が起きてしまって水の抵抗を受けやすくなっていたといいます。

そこで、星さんが水中に潜って適切なタイミングを体にしみこませてきました。

世界記録に3秒届かず

それからおよそ1年。

パリパラリンピックの代表内定がかかるレース前日、木村選手は「目指している泳ぎを100%とするとまだ8%ぐらい」としながらも「いい泳ぎをして記録を突破したい」と意気込んでいました。

迎えた当日(10日)、男子100メートルバタフライのレースで木村選手は前半、「今まで練習でやってきた泳ぎができた」と28秒93の好タイムで折り返します。

しかし後半、前半のペースを維持できず、1分3秒03でフィニッシュ。

派遣記録を突破し、パリへの切符を手にしたものの、4年前の自己ベストの1分1秒17をおよそ2秒上回るタイムでした。

去年、ウクライナの選手が出した世界記録の1分00秒56にはおよそ3秒届きませんでした。

表情引き締め「完成度はまだまだ低い」

レースの後、星さんに誘導されながら報道陣が待つ取材エリアに現れた木村選手は「自信を持って大会を終えられたのはよかった」とほっとした表情を見せたあと、すぐに表情を引き締め「前半に関しては今までやってきた泳ぎができたと思うが、完成度はまだまだ低い。手の使い方はできたが、足の使い方はタイミングがまだ合わず、後半はちょっと苦しかった」と語りました。

そして、「バタフライの技術力はまだ及んでいないと思うので、しっかりと磨き上げて、もう一度世界で戦える泳ぎを作ってパリ大会を迎えたい」と力を込めた木村選手。

パリパラリンピック開幕まで残り半年、二人三脚で理想の泳ぎを追求します。