東日本大震災で注目 ツイッターの救助要請 しかしXでは…

13年前の東日本大震災では電話が使われなくなった地域での救助や支援の要請などでSNSが注目されましたが、能登半島地震では旧ツイッターのXで救助を求める投稿の中で偽情報が過去の災害より多い傾向があることが国の研究機関のデータからわかりました。

専門家は災害時に偽情報の拡散を防ぐため、SNSの運営会社による改善や法的な対策が必要だとしています。

東日本大震災のあと、災害時の情報伝達の手段としてツイッターを始めとするSNSが注目され、その後起きた地震や水害などの災害では行政が細かい地域に応じた情報を発信するなど、情報インフラの1つとして活用されるようになりました。

しかし、ことしの能登半島地震のあとは特にXで偽の救助要請が拡散されていて、国の研究機関、情報通信研究機構が災害時に日本語でのXの投稿を収集しているシステムでみると、能登半島地震が起きた後の24時間で救助に関する投稿1091件のうち、104件が住所などが実在しない偽情報とみられるものでした。

システムで集めているのは日本語での投稿のおよそ10%ですが、2016年の熊本地震が起きた後の24時間では、救助に関する投稿573件のうち、偽情報とみられるものは1件だけで、能登半島地震で偽情報は格段に多くなっていました。

東日本大震災や熊本地震の際には、ツイッターの運営会社が情報の真偽や出所に注意するよう呼びかけていましたが、日本で利用者の多いツイッターを起業家のイーロン・マスク氏が買収してXになって以降、たび重なる人員削減や、投稿が多く見られると収益が得られる仕組みが導入されたこともあり、偽情報の広がりに歯止めがかからない状況になっています。

東日本大震災 ツイッターで救われたケースも

東日本大震災の津波で大きな被害を受けた宮城県気仙沼市では、当時のツイッターを通じて救助を求める情報がリレーされ、実際に東京消防庁のヘリコプターに救出されたケースがありました。

13年前の3月11日に起きた地震で大津波警報が出されたあと、気仙沼市の中央公民館には、近くの保育園児やお年寄りなどおよそ400人余りが避難しました。

津波で2階の天井付近まで浸水したため、一時は屋上に逃げて助けを待ちました。

内海直子さん

公民館に避難していた1人で、隣にあった児童福祉施設「マザーズホーム」で園長を務めていた内海直子さんは周辺で火災が起き、湿った雪や寒さの中、不安を感じながら家族に状況を知らせるメールを送りました。

このメールは、当時、イギリスで暮らしていた息子の直仁さんに届き、直仁さんはツイッターに「私の母が子どもたち10数人と一緒に、宮城県気仙沼市中央公民館の3階にまだ取り残されています」などと状況を知らせ、「空から救助が可能であれば、子どもたちだけでも助けてあげられませんか」と救助を求めました。

救助を求める投稿

投稿はツイッターで拡散されて当時の東京都の副知事にまで情報が届き、避難してからおよそ18時間後の翌朝には東京消防庁のヘリコプターが出動し、全員の救助につながりました。

救助される内海さん

内海直子さん
「火がのぼるし、津波も何回も襲ってくるし、だめかなと思いました。消防士に『息子さんの要請で救助に来ました』と言われなんのことかわかりませんでしたが、それでも『助かるんだ』とうれしかったです。あとから経緯を知り、奇跡的だと感じました。『誰かにつなげなくちゃ』と思ってくれた人がたくさんいて助けられましたが、偽情報などが広がってしまういまだったら難しかったのではないかとも思います」

気仙沼市 震災時ツイッターどう活用?

宮城県気仙沼市では、防災情報を伝える手段として東日本大震災の前からツイッターを活用していて、震災のときは市役所内のシステムが停電でダウンしても市がしばらくツイッターでの発信を続けられたため、外部からの支援を受けることにつながったということです。

一方で、当時、ツイッターを通じた救助要請は誤報も多かったということで、市としては対応する人員がかかることも考慮して災害時の情報収集にはSNSを活用していないということです。

鈴木秀光さん

気仙沼市危機管理課 鈴木秀光課長補佐
「SNSでの救助要請は大きな反響になってしまうとすべて正確なのかどうか、どこが発信元なのかもわからなくなる。うそや過大な情報で本来いち早く救助しなければならない人を助けられなくなってしまうかもしれない。安易に取り扱うのは危ない面もある」

情報発信については。

「今後災害があっても気仙沼市では犠牲者を出さないんだという思いで取り組んでいきたい」

特務機関「NERV」は…

東日本大震災以降、旧ツイッターなどで防災情報を発信してきた東京都内のIT企業ではXになって以降、投稿が制限されるようになり、独自に開発したアプリでの発信に力を入れています。

東京都内のIT企業「ゲヒルン」が運営している防災情報を発信するアカウント、特務機関「NERV」は緊急地震速報や大雨、火山の噴火といった災害について、気象庁などからの情報をもとに発信していて、Xでは235万人以上がフォローしています。

宮城県石巻市出身の社長の石森大貴さんは19歳だった2010年、防災情報の発信を始め、津波でおばを亡くすなど、故郷が大きな被害を受けた東日本大震災をきっかけに運用を本格化させました。

石森さんは震災後、電力需給がひっ迫したときに節電要請の情報を発信するなど、なんらかの動きがあるたびにツイッターを使っていち早く情報発信することで支持を集めてきましたが、イーロン・マスク氏が買収したあと、仕様が変更され、自動で投稿できる回数が制限されたことから、能登半島地震のあとは一時、災害情報の投稿ができなくなりました。

Xは公共機関などのアカウントの防災に関する発信については、自動で投稿できる回数に制限を設けておらず、「NERV」のアカウントもXから公共的な発信だと緊急に認められ、制限がかかってから数時間後に投稿を再開できました。

しかし、石森さんは災害が起きたときにいち早く正確な情報を知ってもらい、命を守る行動をとってもらうために情報の発信をXだけに依存せずに行うことが大事だとして、自社で開発したアプリで利用者がいる場所での危険を認識できる発信に力を入れていて、アプリのダウンロード回数はこれまでに450万回を超えたということです。

石森大貴さん

IT企業「ゲヒルン」 石森大貴さん
「東日本大震災の時は外にいると情報がなかなか手に入らない時代だったので、ツイッターを通じた発信には多くの反響があり、発信を続けていた。Xで投稿の制限が厳しくなってわれわれや公的機関が発信するときにうまくできないケースが多く見られるようになった。迅速に正確に情報を届ける仕組みを残していくのは、今を生きる私たちの義務だと考えています」

能登半島地震 投稿動画の無断使用で偽情報拡散

能登半島地震の発生直後、旧ツイッターのXには被災地で救助や支援を求めるために投稿された動画が無断で使われ、偽情報が拡散されるケースが相次ぎました。

動画を無断で使われた石川県能登町の女性はこうした投稿をやめるとともに、SNSの運営会社に対応するよう訴えています。

石川県能登町の松波地区では、地震で多くの建物が倒壊し、金七聖子さんが経営する酒造会社も蔵や店舗が大きく崩れ、製造を再開できる見通しはいまも立っていません。

地震発生時に店舗の隣の自宅にいた金七さんは、被災した町の状況を伝えようと、倒壊した蔵や周辺の建物の様子を撮影し、Xに投稿しました。

金七さんの投稿に対して支援のメッセージが寄せられた一方、関係のない珠洲市大谷という具体的な住所と「閉じ込められて逃げられない」などといった情報を記載したうえで金七さんの動画を無断で使った偽情報の投稿が相次ぎ、多いものでは1つの投稿だけで55万回閲覧されるなど拡散されました。

こうした投稿の多くは海外からで、閲覧数に応じて支払われる収益を目的としたものもあったとみられています。

金七聖子さん

金七聖子さん
「この地区は、街の中心部ではないので誰も助けに来ないのではないかという不安もあり動画を投稿しましたが、間違った情報が拡散されとても残念です。広めた人も善意の方が多いとは思いますが情報源を確認してほしかった」

その上でSNSの運営会社にも責任はあるとして。

「災害はどこでも起きるので、偽情報に対して今後は節度ある監視や取締りを行ってほしい。動画を無断で使用した投稿には収益が支払われないようにするなど対策を徹底してほしいです」

専門家「災害時は複数メディア組み合わせて信頼性確かめて」

旧ツイッターの日本国内でのユーザーの数は、2012年には2000万人ほどでしたが、ドイツの調査会社によりますと去年1月には6700万人以上と増加しています。

災害時の情報伝達に詳しい東北大学の佐藤翔輔准教授はSNSを使う人が増えたため、能登半島地震では被災地から発信される情報が多くなっていて、現地の状況が具体的に分かる投稿も増えたとみています。

その一方で、能登半島地震のあと、偽情報や誤った情報が拡散したことについて、SNSの運営会社が災害時に偽情報が拡散しない仕組みの導入など、技術的な改善を行うとともに法的な対策が必要だと指摘しています。

佐藤翔輔 准教授

東北大学 佐藤翔輔准教授
「過去の災害時の情報収集について調べると、被災した地域で役立った情報手段はテレビとラジオが圧倒的に多く、災害発生初期の安否確認や情報共有でもLINEやフェイスブックが活用されていた。どれか1つのプラットフォームに頼りすぎず、複数のメディアを組み合わせて情報の信頼性を確かめながら活用することが大切だ」