米「シリコンバレーバンク」経営破綻から1年 日本への示唆は

アメリカで金融不安のきっかけとなった「シリコンバレーバンク」の経営破綻から、3月10日で1年となりました。急速な利上げが要因で銀行の財務が悪化し、預金流出につながりましたが、当局の監督のあり方には依然として課題も残っています。

「いまのアメリカの金融市場は?」
「日本への示唆は?」
日米の金融政策に詳しいエコノミストに聞きました。

アメリカでは去年3月10日、西部カリフォルニア州に拠点をおき、スタートアップ企業向けの融資で知られた「シリコンバレーバンク」が経営破綻しました。

FRB=連邦準備制度理事会による急速な利上げで保有する国債の価格が下落し、財務状況が一気に悪化しました。

SNSによる情報の拡散で預金流出が速まり、デジタル・バンク・ランとも呼ばれました。

これをきっかけに、「シグネチャーバンク」と「ファースト・リパブリック・バンク」が経営破綻し、わずか2か月の間に史上2番目から4番目の規模の銀行破綻が相次ぐ事態となりました。

金融当局が預金の全額保護や特別融資制度の創設などの異例の対応を速やかにとったことで、金融不安の拡大は抑えることができました。

ただ、急速な利上げが銀行の財務にもたらす影響など、当局が事前に危機を察知する監督のあり方には依然として課題が残っています。

また、オフィスビルなどの商業用不動産は、金利の上昇で借り入れコストが上昇しているうえに、空きテナントが増えて価格が下落傾向にあります。

商業用不動産向けに融資を行っている銀行の経営悪化につながらないか懸念がくすぶっています。

商業用不動産向け融資めぐり経営悪化の銀行持ち株会社も

ニューヨークに拠点がある銀行持ち株会社「ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ」は、去年12月までの3か月間の決算で、商業用不動産向けの融資の不良債権処理費用が膨らんだ結果、最終赤字に陥り、会社の株価は去年の年末と比べて、3月8日時点で60%を超える急落となりました。

商業用不動産向け融資が新たな金融市場の混乱要因になるのではないかとの懸念がくすぶっています。

この銀行持ち株会社は、去年経営破綻した「シグネチャーバンク」の一部を買い取りましたが、資産規模が拡大したことで当局の厳しい規制が適用されたことも、経営悪化の要因だと指摘されています。

FRBによる資金供給の枠組み 3月11日で終了

アメリカで去年、銀行破綻が相次いだことを受けて、FRB=連邦準備制度理事会が金融不安を払拭(ふっしょく)するために導入した資金供給の枠組みが、3月11日で終了します。

この枠組みは、BTFP=銀行ターム・ファンディング・プログラムと呼ばれるもので、銀行など預金を取り扱う金融機関は、国債や住宅ローン証券などを担保に、従来の制度より有利な条件で最長1年間の融資が受けられるというものです。

当初から1年間の時限措置となっていました。

去年3月、「シリコンバレーバンク」と「シグネチャーバンク」が相次いで経営破綻したことを受けて、多くの金融機関が預金の引き出しが起きる事態に備えて、この枠組みを利用しました。

FRBは最後の貸し手として金融機関の資金繰りを支援し、「銀行システムの安定化に寄与し経済を下支えした」としています。

いまの米金融市場や日本への示唆 エコノミストが指摘

いまのアメリカの金融市場や日本への示唆について、日米の金融政策に詳しいエコノミストの鈴木敏之氏に聞きました。

Q. アメリカの銀行破綻をどう振り返る

A. あれだけ大きな規模の銀行の破綻が相次げば、経済全体に悪影響を及ぼし大きな問題を残すものですが、アメリカ経済はいい状態にあると言えます。

古くは大恐慌からリーマンショックまで金融が荒れると経済に深刻な打撃を与えるという過去の教訓に学び、イエレン財務長官を中心に預金の全額保護やFRBによる資金供給などを迅速に打ち出したことで、影響の拡大を防ぎ、安心感をもたらしました。

いざ問題が起きた時の解決能力の高さが、いまのアメリカの強さの源の1つだと言えると思います。

一方で、アメリカの金融はいくつか問題を抱えています。

1つは商業用不動産への融資であり、もう1つは株式市場です。

見方にもよりますが、少しバブルのような水準に達しているという可能性もあり、問題が積み残されているというのが、いまの状況ではないでしょうか。

Q. 商業用不動産の問題 どの程度の影響が

A. アメリカ金融当局は「銀行システムは健全だ」としていますが、「商用業不動産に融資している個別の銀行では問題が起こるかもしれず、非常に丁寧に監視している」と強調しています。

破綻したシリコンバレーバンクのケースでは、多額の預金を集めながら経営陣のリスク管理がずさんで、当局もしっかりとみることができていませんでした。

いまは監視を強化しており、問題があれば迅速に当局が対応をとることを前提にすれば、ある程度は安心していいのかもしれません。

Q. アメリカの金融当局は経営悪化見抜けず 日本への示唆は

A. 金融緩和を長く実施したあとに金融引き締めに転じれば、歴史上、日本のバブル崩壊も含め、大きな金融上の問題が起きてきました。

本来は、問題が起きてから対処するのではなく、その前にやっておくべきことがあります。

日本でも長年の金融緩和やイールドカーブコントロールによって、国債市場は動かない状況が続き、日本の当局者の間でほとんど実務的な経験が途切れてしまっているおそれがあります。

銀行が経営環境の変化に対応できるのか、チェックを強化するとともに、問題が起きたときに経済全体への波及を食い止められるよう、訓練をしておくことが必要だと思います。