ディレクターの実家が孤立?道路寸断のリスクが次々と明らかに

ディレクターの実家が孤立?道路寸断のリスクが次々と明らかに
能登半島地震で課題となった「集落の孤立化」。

南海トラフ巨大地震の被害が危惧される地域にとってはひと事ではありません。

四国では、多くの地域が孤立する可能性があると想定されています。

高知県の山間部で育った私は、連日の報道を見る中で、地元の集落の孤立に危機感を覚え、地震地質学の専門家と一緒に地元が抱えるリスクについて調査しました。
高知放送局 ディレクター
片岡美月
2022年入局
高知県いの町出身
防災、地域振興など地域の課題を幅広く取材。

能登半島地震からみる「集落の孤立」とは?

「集落の孤立」は、ほかの地域とつなぐ道路が断たれ、外部からのアクセスが途絶し、人の移動や物資の流通が困難もしくは不可能になる状態です。

能登半島地震で孤立解消が発表されたのは発災から19日後。

一時は3,300人以上が孤立状態となっていました。
5日間の孤立を経験した山口侑香さんは発災当時、自身が運営する石川県珠洲市の宿泊施設にいました。

集落と外を結ぶ道路は落石と土砂崩れで断たれ、携帯電話もつながらなくなりました。

周辺集落の50人ほどが孤立し、山口さんの宿泊施設に身を寄せました。
山口侑香さん
「余震が続く中、安全な場所に行けるのはいつなのか、救助がくるまで水や食料などの備蓄は足りるのか(とても不安だった)」
情報も食料も断絶される集落の孤立。

山口さんは、常に命の危険にさらされた状態で、精神がすり減る日々を過ごしたと言います。

四国で想定される被害は?

いつ起きてもおかしくないとされている南海トラフ巨大地震。
令和元年6月時点の内閣府の試算で、四国では農業を主な産業とする集落で最大1377、漁業を主な産業とする集落で最大181か所に孤立の可能性があると想定されています。

道路の寸断のリスクは

能登半島地震では、「土砂崩れ」や「落石」「液状化」などによって主要な道路が寸断されたことが、孤立の要因となりました。
私の実家がある、高知県いの町の山間部ではどのようなリスクが潜んでいるのか、地震地質学を専門とする高知大学の岡村眞客員教授と調査しました。

地区には、およそ100人が暮らしていて、その2人に1人は65歳以上です。
川沿いの斜面に住宅が立ち並び、地区の外に出るには国道を使わなくてはなりません。

その国道につながる主なルートは3つあります。

道路寸断の可能性を示すもの(1)「たわんだ落石防止ネット」

まず向かったのは北側のルート「町道(1)」。

山の斜面に沿って道が作られています。

地元の人たちは「旧道」と呼び、散歩などで使われる道です。
ここで岡村さんが注目したのは、山間部でよく見られる「落石防止のネット」でした。
高知大学 岡村眞 客員教授
「地震では山の岩盤崩壊が起こるので、こんなちゃちな物では防ぎきれない。当座この道路を維持するという目的だけ。雨の小規模崩壊対処法です」
ふだんの雨などで発生する土砂崩れを防ぐ効果はあるものの、山の岩盤崩壊が起きてしまう大地震では耐えきれないといいます。

道路寸断の可能性を示すもの(2)「へこんだガードレール」

続いて岡村さんが注目した場所も、山間部ではよく見られる風景。

ここにも道路寸断の可能性が示されているといいます。
岡村さん
「このガードレールを見ていただくと分かるように、石が直撃してガードレールが変形してしまっている」
片岡ディレクター
「たしかに。車が当たったかと思っていましたが、車が当たったにしてはガードレールの上の部分が丸くへこんでいますね」
ガードレールがへこんでいた場所はおよそ10mにわたっていました。
すぐそばの山の斜面を見ると、すでに土砂や石が落ちてきており、ネットよりも頑丈な「ストーンガード」と呼ばれるもので落石が防がれていました。

この場所も大地震の揺れに斜面が耐えきれない可能性があると岡村さんは指摘します。

道路寸断の可能性を示すもの(3)「過去の土砂崩れ跡」

続いて、西側から国道に出る「町道(2)」を調査しました。
こちらも山間部ではよく見かける風景です。

ここからも道路寸断のリスクを読み取れるといいます。
岡村さん
「高さ100メートルぐらいの昔に崩れた跡があって、人間の手によって修復されていますよね。それも少し穴が空いてきて風化しているんですよね。これだけの量が崩れたとなるとこの川が閉塞(へいそく)されてしまうっていうことが起きたはずなんです」
一度崩れた斜面は再び崩れる可能性が高く、その場合、この町道も通行できなくなるといいます。

道路寸断の可能性を示すもの(4)「川に点在する大岩」

最後に向かったのは国道に出るための橋です。

そこで見える風景からも道路が寸断される可能性が読みとれました。
岡村さん
「あの岩を見てください。川で削られずに、丸くならずに、角張っているんですよね。これだけの大きな岩は過去の大地震で山が崩れた跡です」
角張っている大きな岩は、地質学的に過去の大地震によって山から落ちてきたと考えられています。
片岡ディレクター
「幼いころ、よく泳いで登っていたあの岩は『ここはすごく崩れる場所だったんだよ』と知らせてくれていたんですね…」
この国道沿いには、同じように大きな岩が100m以上にわたって点在していました。

もし国道に出られたとしても、国道自体が通れなくなっている可能性が高いといいます。
岡村さん
「この地域が孤立する可能性は非常に高いです。四国にはここよりももっと急しゅんな斜面に家がある地域もある。そういった崩れやすい場所に自分たちが住んでいることを自覚しなければなりません」

実家を調査 孤立を生き延びる備えは

“孤立する可能性が高い”という私の地元。

そこに住む祖父母の備えはどうなっているのでしょうか。

祖母は79歳、祖父は74歳。

2人はこの地区で50年近く暮らしています。
片岡ディレクター
「『孤立する』って言われたらどう思う?」
祖父
「大変やね、大変。孤立を避けようと思ったら地区を出て行かないとしゃあない。だけどもう人生70年。もうここから動きとうないしね」
この土地で暮らし続けたいという祖父母。

生き延びるために何が必要か、話し合いました。

水や食料の備蓄は?

岡村さん
「今どれくらい食料を備蓄していますか?」
祖父
「米10キロぐらい。ラーメンとか乾燥麺とか多少あるけどね。それだけじゃね」
ふだん食料を買うのは10日に一度。

備蓄のために置いているものはありませんでした。

体調管理・薬は?

また、祖父母は病院通いが欠かせません。

孤立した時の体調管理についても気になりました。
祖母
「トイレなんかも困るしね」
岡村さん
「女性はね。なかなかそれだけだから我慢するんですよ。そうすると腎臓悪くしたりするんですよ。我慢するっていう女性が特に多くなるんですよね」
祖父母はそれぞれ、2か所の病院に通っており、6種類ほどの薬を毎日服用しています。

持病がある2人にとって、薬が飲めない生活は、命の危険にさらされるおそれもあります。

能登半島地震では、保険証やお薬手帳をスマホで写真を撮っていたり、コピーを持ったりしていたことで、自分に必要なものを的確に伝える助けになったといいます。
片岡ディレクター
「お薬手帳って考えちょった?」
祖母
「いやいやいやいや、お薬手帳忘れちょったね。今まで逃げるとき持って出ないかんというのは頭になかった」
高知大学 岡村眞 客員教授
「日頃から準備できることだから簡単。コピーでいくつか作っておけばいいんで。だからできれば車を運転されるのであれば、車の中にも1つ入れとくとか。どこへ行っても薬剤師の人が見て『あっ』て分かりますから。ものすごく大切な命のつなぎ方ですよ」
想定すらしていなかった孤立。

話し合いを終えて祖父母は…
祖父
「やっぱりこうやってじかにみんなと話をしよったら能登地震もあったことやしね、すごく身近に感じました」
祖母
「能登の地震もひと事。本当によそのことやと思うてましたけど、やっぱり備えとかそういうことはしちょかないかんなということをひしひしと感じました」

「心配だよ」と声をかけるだけでなく 一歩踏み出す行動を

東日本大震災以降、「津波に備える」必要性は、高知県内でも強く語られてきました。

南海トラフ巨大地震の被害はそのほかにもあるはずなのに、私自身は山間部に住んでいるにもかかわらず、なんとなく「津波はこないから大丈夫」と思ってしまっていました。
今回、祖父母と話してみて「心配だよ」と声をかけるだけでは備えは進まないことを実感しました。

「防災」というと少しハードルが高く思えていましたが、少しずつでもできることがあると知りました。

「家屋倒壊」を避けるため、耐震化を進めたり、防災グッズをプレゼントしたり、帰ったときに家具を安全なところに移したり、気軽に防災の話をしたり。

そんな少しの行動が、家族や関わりのある人の命を守ることにつながるのではないでしょうか。