ミャンマー 徴兵制発表から1か月 隣国タイに出国の若者相次ぐ

ミャンマーで実権をにぎる軍が徴兵制の実施を発表して10日で1か月となりました。対象となった若者たちの間では徴兵から逃れようと、隣国タイに出国するケースが相次いでいます。

ミャンマーでは3年前のクーデター後、実権を握る軍が先月、18歳以上の男女を対象に兵役の義務を課す徴兵制を実施すると発表しました。

若者の間では徴兵を逃れようと、隣国タイの大使館などに長期ビザを求める人が殺到し、第2の都市マンダレーでは旅券事務所の前に集まっていた2人が死亡する事故も起きています。

こうした中、タイ北部チェンマイの大学では今月、大学の英語科の入学試験が行われましたが、100人の定員を大幅に上回る2100人の応募があり、そのほとんどがミャンマー人でした。

このうち、最大都市のヤンゴン出身の32歳の男性は「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない」と、タイに逃れてきた理由を話していました。

大学の担当者は「大学始まって以来の応募者数です。ミャンマーからの学生たちにできる限りの支援を提供するよう努めたい」と話していました。

軍は来月に最初の5000人を徴兵するとしていますが、女性は対象外にすると発表するなど、若者の間に広がる動揺と反発の鎮静化をはかっています。

徴兵制逃れるため タイの大学目指す若者は

ミャンマーはASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国であるため、タイへの入国は14日以内の滞在であれば、ビザを取得する必要はありません。

ミャンマー最大都市のヤンゴンからタイ北部チェンマイにやってきたマウ・ピュさんは(仮名・32歳)今月5日、チェンマイにある大学に入学するための面接をオンラインで受けました。

過去に軍に対する抗議デモを組織したこともあるマウ・ピュさんは「家にいるのが安全ではないのでタイに逃れてきた。ミャンマーの若者はみな国を出たがっている。徴兵されたくないのが主な理由だ」と話しました。

さらに、去年、民主派の武装勢力に加わった双子の兄の存在も、出国までして徴兵を逃れたい大きな理由になったといいます。

マウ・ピュさんは「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない。徴兵を逃れたいのはお互いを殺し合うことに反対だからだ。誰かを銃で撃ちたくないし、誰からも銃を突きつけられたくない。軍の独裁下のミャンマーにとどまる考えはなかった。なんとしてもタイに長期間滞在したい」と話していました。

京都大学 中西嘉宏准教授 “軍の思いどおりにはいかないだろう”

ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は「そもそも若い人たちが海外に出ようとしていた中で、今回の徴兵制でさらに、なりふりかまわず、徴兵から逃れたい若者が海外を目指し、一種の社会的なパニックが起きている。武器を渡す新兵が軍のために働くのか。どこかで銃口を軍側に向けないか。軍はそうしたことを精査しないまま徴兵を進めている。兵隊を増やして戦況を有利に変えていくという軍の思惑はうまくいかない可能性が高い」と分析しています。