核燃料デブリ取り出し 充填材で固めて取り出す工法活用を提言

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉で最大の難関とされる「核燃料デブリ」の本格的な取り出しについて、国の専門機関は、原子炉などに充填(じゅうてん)材を流し込んでデブリごと固めて取り出す新たな工法の活用を提言しました。

福島第一原発では、13年前の事故で1号機から3号機で核燃料が溶け落ちるメルトダウンを起こし、核燃料と周りの構造物が混ざり合った「核燃料デブリ」はおよそ880トンにのぼると推計されています。

ただ、2号機で予定している試験的な取り出しは、装置の投入が進まず延期を繰り返していて、3号機で始めるとしている本格的な取り出しは工法も決まらず、開始できる見通しは立っていません。

東京電力に技術的な助言を行う国の専門機関「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」は8日、会見を開き取り出しの工法について新たな提言を発表しました。

提言では
▽原子炉や格納容器を水で満たさず、主に空気中で作業する「気中工法」を軸にしつつ
▽セメント系材料などの充填材を流し込んで、デブリごと固めて取り出す「充填固化」という工法を一部で活用することを検討すべきとしています。

「気中工法」は放射線を遮る水がないため被ばくのおそれが高いことが難点ですが、「充填固化」と組み合わせることで被ばくや放射性物質の拡散を防げるメリットがあるとしています。

一方、今回、原子炉建屋を巨大な構造物で覆い全体を水で満たして作業する「冠水工法」も検討されましたが、水で放射線を遮ることができる利点はあるものの、準備に長期間かかることなどから「現時点での選択は困難」とされました。

機構が設置した検討委員会のトップを務めた前の原子力規制委員会委員長、更田豊志さんは、最長40年で廃炉を終えるとしている計画を念頭に「充填固化の工法はまだまだ研究開発段階だが、廃炉全体のロードマップを考えると、いつまでも手をこまねいているわけにもいかないので、一つの転機となるよう提言をさせてもらった」と話していました。

東京電力は提言を受けて、今後1年から2年程度かけて実現性などを検証し、デブリ取り出しの工法を決めていきたいとしています。

充填固化工法とは

今回、活用が提言された充填固化工法は原子炉やその周りを囲う格納容器の中にセメント系材料などの充填材を注入して、核燃料デブリごと固めた上で、建屋の上部から掘削するなどして取り出す工法です。

こうした充填材はこれまで、放射性廃棄物を固めて保管する作業などに用いられていています。

▽充填材で核燃料デブリを覆うことで放射線を遮ったり、放射性物質を含む粉じんの飛散を抑えたりする効果が期待できるほか、
▽他の工法と比べて取り出しに使う設備が小さく、準備にかかる期間が短くなることで、最も早く取り出し作業を開始できる可能性があるとされています。

一方で、核燃料デブリの取り出しに使われた実績はなく、さまざまな場所や条件に合わせた充填剤の材料や注入方法を確立できるかなど、技術的な課題も残されています。

東京大学の鈴木俊一上席研究員は8年前からこの工法を研究してきました。

鈴木さんが注目しているのは、放射線を遮る能力が高く高温にも強い「ジオポリマー」と呼ばれるセメント系の材料です。

ことし1月には、格納容器の底の部分を模擬した実際の6分の1の大きさの装置を使って「ジオポリマー」が、格納容器内に近い常温の水の中でねらいどおりに固まるか調べる実験を行いました。

実験では装置の中に流し込んでから1か月が経過した「ジオポリマー」を、ボーリングでくりぬいたりワイヤーで切断したりして状態を確認しました。

その結果、切断した「ジオポリマー」に亀裂や割れはほとんどなく、今回の条件であれば、ねらいどおりに固まることが確認できたということです。

鈴木さんは、原子炉内部などの状態についてまだわかっていない点が多いため、温度や放射線量など条件を変えて実験を繰り返すとともに、多くの研究者に研究への参加を働きかけたいとしています。

鈴木さんは「ジオポリマーは放射線を遮蔽する能力が高く、燃料デブリの高温にも耐えられる素材のため、安全に取り出しを進めることが期待できる。また、放射性物質を閉じ込める性質があるので、取り出したあとに廃棄物として保管する際も管理がしやすい。一方で、使用実績が少ないので、いろんな人が多くのデータを取って共有し、この材料について理解を深めていくことが重要だ」と話していました。

デブリ工法検討の経緯

福島第一原発の事故のあと、政府と東京電力は最長40年で廃炉を完了する工程表を定め、この中で事故から10年となる2021年までに核燃料デブリの取り出しを始めるとしました。

当初は、アメリカのスリーマイル島原発の廃炉で実績のあった、原子炉内などを水で満たして放射線を遮った環境で作業する「冠水工法」を目指しました。

しかし、内部の調査が進むにつれて、デブリがある原子炉や格納容器の損傷が想定以上に激しいことがわかり、国の専門機関は、2017年、冠水は難しいとして、空気中でデブリを取り出す「気中工法」を軸に検討するよう提言しました。

一方、「気中工法」は、世界でも前例がなく、人が寄りつけないほどの極めて高い放射線量の環境の中、ロボットなどの装置を遠隔操作して、大半の作業を進めなければいけません。

このため、具体的な工法を検討するための事前の調査だけでも新たな装置を開発する必要があり、長い時間がかかってきました。

また、本格的な取り出しに先立って、もっとも内部の調査が進み、2号機で実施する予定の試験的な取り出しについても、取り出しに使うロボットアームの開発などに時間がかかったほか、アームを入れる配管に詰まった堆積物がうまく取り除けずこれまでに3回延期され、デブリの取り出し開始は当初の計画から3年ほど遅れています。

こうした状況を踏まえ、国の専門機関は、2051年までの廃炉完了を念頭に、2030年代に本格的な取り出しを始めるには、工法の検討の加速が求められるとして、去年3月、国内外の専門家を集めた委員会を設置し、原発の廃炉では前例のない全く新しい工法の可能性も含めて検討を進めてきました。

委員会のトップに就任した更田豊志前原子力規制委員会委員長は、去年夏の中間報告で「30年から40年という廃炉のスケジュールに対して手遅れにならないよう検討を加速したい」と話していました。