東日本大震災13年 グループ補助金が被災企業の“足かせ”に

東日本大震災13年 グループ補助金が被災企業の“足かせ”に
東日本大震災からまもなく13年です。震災では多くの中小企業が甚大な被害を受け、その再建のために創設されたのが「グループ補助金」です。

まとまった額の資金が援助されたことから、多くの企業のスピード感ある復興を後押ししたとされています。

しかし、その補助金が被災企業の「足かせ」になっていることが、私たちの取材で分かってきました。

(仙台放送局 記者 吉原実・盛岡放送局 記者 仲沢啓)

補助金でスピード復旧した水産会社

宮城県石巻市にある水産加工会社です。水揚げされたサバなど魚を冷凍し、加工品の原料として出荷しています。
水産加工会社 尾形勝専務
「トラックで魚を運んできて、ここのタンクの中にみんな一旦入れるんですよ」
この会社は13年前、東日本大震災の津波で工場と事務所が全壊しました。復旧に向けて活用したのが「グループ補助金」でした。
グループ補助金は、多くの中小企業が甚大な被害を受けた東日本大震災をきっかけに設けられた制度です。

被災企業がグループで再建計画を作り、1事業者あたり15億円を上限に、国と県が再建費用の4分の3を補助します。

まとまった額の資金が援助されたことから、多くの企業のスピード感ある復興を後押ししたとされています。
水産加工会社は上限いっぱい15億円の補助を受けて、被災から1年半後に工場を再建。想定より早く事業を再開できたといいます。
尾形勝専務
「グループ補助金がなかったら、これだけの設備投資をして事業再開というわけにはいかなかったと思う。グループ補助金というのは大変ありがたい制度であったのは間違いない」

震災13年 補助金が「足かせ」に

しかし、震災から13年。復旧の足がかりになったグループ補助金が、逆に経営の「足かせ」になっています。
尾形勝専務
「どうしても海水を扱っているので、さびてきたりとか。やはり全体的にガタがきていますよ」
会社が補助金で購入した魚の選別機。制御する基板に不具合が見つかりましたが、修理しながら使い続けています。

グループ補助金のルールで導入した設備や施設は一定期間、申請した使いみちで使わなければならず、その期間内に廃棄などした場合、補助金の一部を返還しなければなりません。
会社では設備を替えた場合、県に数千万円を返還する必要があると試算しています。このため、新たな設備投資には二の足を踏んでいるといいます。
尾形勝専務
「求人を募集しても人が集まらない状況なんで、もう少し人手がかからなくて生産能力があがる仕組みに変えていきたい。でも、今使っているものを勝手に処分していいのかという、それはできない。補助金が入っているもんですから」

3県の575事業者に返還命令

このグループ補助金。NHKが岩手・宮城・福島の3県に取材したところ、少なくとも575の事業者があわせて27億3000万円余りの返還を命じられたことがわかりました。
宮城県 275事業者 17億5740万円余
福島県 195事業者 6億1563万円余
岩手県 105事業者 3億6567万円余
返還命令の理由は
▽施設や設備の譲渡
▽施設の取り壊し
▽設備の廃棄
などです。また、倒産した事業者に対しても返還命令が出されたことがわかっています。

補助金で再建したものの……

補助金によって再建したものの、破産するしかなかったという旅館もあります。
岩手県宮古市にある旅館で女将をしていた、佐々木美津子さん(75)です。去年10月破産を申請しました。
佐々木美津子さん
「寂しいなって思うけど。私でできなくてごめんねって。せっかく立派に建ててもらってね」
この旅館は併設していた飲食店とともに、震災の津波で全壊しました。
そこで、グループ補助金およそ1億6000万円を活用し、2年後に別の場所で営業を再開しました。
その後は、三陸を代表する景勝地「浄土ヶ浜」への観光客のほか、復興工事関連の需要もあり、売り上げは大きく伸びました。

しかし、2016年。台風10号で建物が浸水し、旅館は休業を余儀なくされました。
その3年後には、地域を通る第三セクターの「三陸鉄道」が台風被害で5か月にわたって不通になり、観光に大きな影響が出ました。
佐々木美津子さん
「宮古市は三鉄のお客様なければ絶対来ないです。宮古には行けないんだと思うから、結局皆さん、隣の秋田とか青森に行ってしまって、お客さんは来ないんですよ」
その後も復興需要の減少や新型コロナの感染拡大による利用客の減少で、旅館の売り上げは半分以下に落ち込みました。
弁当の仕出しなどにも力を入れましたが、魚の不漁や原材料価格、燃料費の高騰で利益が出なくなっていきました。

旅館経営も飲食も回復の兆しが見えず、事業の譲渡や転換も考えたと言います。
佐々木美津子さん
「(転換するなら)介護が一番いいと思うんですよ。デイサービスにきた人に何か食べさせることはできるし、宴会場があるからそこで休憩させることもできる。バスやトイレもあるから、ベッドを入れてそこに何人か介護できるし、エレベーターはあるし」
しかし、グループ補助金のルールでは、建物を譲渡したり、事業を転換したりした場合、補助金の一部返還が求められます。鉄筋コンクリートの建物だと制限期間は最長で50年です。
佐々木美津子さん
「どっかに譲渡したいかなっていったって、50年できないし。補助金を払ってくださいなんていうのはちょっと無理、できない。いつでも首を絞められているって感じね、50年もっていう話になったらね。破産宣告した方がいいんじゃないかなって」

専門家 “事業者の負担軽減 特例で認めるべき”

補助金制度に詳しい立命館大学の桑田但馬教授は、「被災後の事業再建にあたっては、5年や10年といった中長期で計画を立てた上で(補助金を受け取り)、再建するというのは、公的支援が投入されている関係から大事なこと」とした上で、次のように指摘します。
立命館大学 桑田但馬教授
「被災ですべてを失った事業者に、現実としてはそれを求めるのは非常に難しい。また、新型コロナの感染拡大や不漁など、外的要因が大きい中ではルールを杓子定規に当てはめるのは非常に厳しい。事業者の負担を軽減、免除するようなことが特例的に認められるべきだ」
グループ補助金でせっかく経営を再建したのに、制度の使い勝手の悪さから会社が立ちゆかなくなってしまっては元も子もありません。

被災地の実態に即した柔軟な支援が求められています。

(3月12日「おはよう日本」で放送予定)
仙台放送局記者
吉原実
新聞記者を経て2023年から仙台局
主に金融や産業政策などを取材
盛岡放送局記者
仲沢啓
福島局や経済部を経て2023年から盛岡局
主に震災や地域経済を取材