春闘 大手企業は「満額回答」で早期決着相次ぐも… 最新状況は

ことしの春闘は、大手企業で「満額回答」など高い水準での早期決着が相次ぐ異例の事態になっています。

一方で中小企業の従業員などからは「物価は上がるのに賃金が上がらない」と苦しい声も。

賃上げをめぐる最新の動きを取材しました。

「生活かつかつ…」 賃上げへ1000人が集会

7日、医療や製造業などの中小企業や非正規雇用の人を中心に、およそ70万人の組合員がいる労働団体の「全労連」が東京の日比谷公園で集会を開き、1000人以上が集まりました。

参加者からは生活の苦しさを訴える声が相次ぎました。

物価高もあって、生活はかつかつだけど、ずっと賃金上がらない状態。みんな大変な思いをしている

長く働いて、キャリアを持っている人も現場では重要なので、長く働き続けられる環境を整えてほしい。そのために賃上げは必要なポイント

物価上昇以上の賃上げを目指している。職場に迷惑をかけてはいけない思いもあるが、ことしはストライキも辞さない思いで臨んでいる

全労連はことしの春闘で非正規労働者を含むすべての労働者の賃金について、ベースアップ相当分も合わせて賃金の10%以上、月額3万円以上と過去最も高い水準の賃上げを求める方針を掲げていて、ストライキの実施を辞さない姿勢で臨むとしています。

賃上げも物価高に追いつかず

厚労省の調査では、基本給や残業代などをあわせた現金給与の総額は1人あたり平均で28万2270円と25か月連続のプラスで過去最長を更新しました。

一方、物価の変動分を反映した実質賃金は前の年の同じ月に比べて22か月連続でマイナス。依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず実質賃金がマイナスの状況が続いています。

全国の従業員5人以上の事業所 3万余を対象に調査

物価は上がるのに、賃金が上がらなければ、従業員のモチベーションの低下や転職などにつながる可能性があり、企業の経営者も危機感を高めています。

春闘 交渉初日の現場 経営側の回答は?

そうした中で行われている、ことしの春闘。1月24日に、事実上スタートしました。その後、各労働組合が経営側に要求書を提出し、先月から労使の間での交渉が本格化しています。

来週3月13日に主に大企業が回答する集中回答日を迎える予定ですが、ことしは異例の事態になっています。

その1社が「味の素」。7日から始まった労使交渉を取材しました。

午後1時前に労使交渉が開始。

そして、その1時間後…。交渉は予定より30分ほど早く終わり、経営側が組合側に回答を伝えました。

経営側 佐々木達哉コーポレート本部長
「経営陣で真摯に検討してきました。交渉を通じて、改めて組合員1人1人の成長や変化、決意について確認できた。要求通り、一発満額で回答します」

労働組合 乙黒絵里中央執行委員長
「感謝申し上げます。組合員への期待や信頼が込められていると感じています。組合員にも伝え、経営のみなさんの期待に応えるべく取り組んでいきたい」

集中回答日を前に、交渉は1回目で妥結し、終了しました。

妥結した賃上げは組合に所属する正社員を対象にベースアップと定期昇給分などを合わせておよそ6%で、1人あたり平均で月額2万1664円となります。このうちベースアップの金額は1人あたり平均で月額1万4000円です。

交渉妥結のあと乙黒委員長は「組合員からは可処分所得が減っているとか、仕事で挑戦するためのあと押しがほしいという声があり、さらにやる気になるような金額にしたいと思っていたので、喜ばしい」と話していました。

交渉 2月に終えた企業も

大手バイクメーカーのヤマハ発動機は、ことしの春闘で労使交渉初日の先月(2月)21日にベースアップ相当分と定期昇給をあわせた総額で、過去最高額となる月額1万7400円の満額回答を行って妥結しました。

日高祥博社長
「物価高によって社員や仕入れ先から生活に困っているとの声を耳にしている。円安による恩恵を受けたわれわれが、今度は還元する側にまわることで社員の実質賃金がマイナスにならないようにし、日本経済の好循環に少しでも貢献できればと考えた結果だ。一定の賃金水準がなければ厳しさを増している人材獲得がさらに厳しくなるおそれがあり、経営者として重視した」

「満額回答」での早期決着 続々と

ことしの春闘では、大手企業の間で高い水準の賃上げで早期に決着する動きが相次いでいます。

【自動車・バイク】
ホンダ」2月21日の交渉で満額回答
月額2万円の賃上げ(1989年以降で最大)

マツダ」 初回の交渉で満額回答
ベースアップ相当分と定期昇給をあわせて月額1万6000円の賃上げ(2003年以降で最大)

【外食】
モスフードサービス
定期昇給とベースアップをあわせて平均で8%程度の賃上げ(初のベースアップ)

ゼンショーホールディングス」3月7日の労使交渉で妥結
ベースアップと定期昇給をあわせて12.2%の賃上げ

【食品】
サントリーホールディングス」2月28日の初回交渉で妥結
およそ7%の賃上げ ベースアップは月額1万3000円(直近20年間で最大)

サッポロビール」2月末の交渉で妥結
ベースアップを含め6%あまりの賃上げ

【小売り】
イオン
正社員の賃上げ+パートなど対象に時給を平均で約7%引き上げ方針

ビックカメラ
8年連続でベースアップの方針(引き上げ額は2004年以降で最大)

このほか、生命保険大手などでも賃上げの動きが相次いでいます。

「先行妥結は大手企業いくつかだけ」

中小企業の多くは集中回答日以降に交渉が本格化する予定です。

このため大企業だけでなく、中小企業や非正規雇用で働く人にまでこの勢いを波及させ、持続的な賃上げを実現できるかが今後の焦点になります。

中小企業の賃上げを進めるためには、原材料費や人件費などの上昇分を元請けの大企業に対して価格転嫁しやすい環境を整えることが重要で、先月の経団連と連合のトップ会談でも価格転嫁の実現に向けて取り組むことで一致しています。

連合の芳野会長は7日の記者会見で、「先行して妥結しているのは大手企業のいくつかに限られている。そのことでこれからの相場形成に好影響を及ぼし、中小・小規模事業者の労使交渉に一層の弾みがつくのであれば、歓迎したい」と述べました。

そのうえで「特に地方の中小規模事業者が、どれだけ賃上げができるか、底上げがどのくらいできるのかが重要だ」と指摘し、改めて地方や中小企業まで賃上げを広く波及させることの重要性を訴えました。

また、加盟する労働組合のうち3000あまりの要求額を公表し、平均で定期昇給分を含めて1万7606円、率にすると5.85%の賃上げを求め、連合が掲げる5%以上の目標を上回ったとしています。

賃上げは初任給も でも…SNSで不満の声も

一方、こうした大手企業での賃上げの動きは、初任給にも出ています。

大阪に本社があるゲームメーカーの「カプコン」は、来年春に入社する新入社員の初任給について、専門学校卒から大学院卒まで一律で、月額の基本給を現在の23万5000円から30万円に引き上げるとしています。率にして27%の大幅な引き上げとなります。

ゲーム制作にあたるプログラマーをはじめとしたIT人材の獲得を進めていますが、ほかの業界との競争も激しさを増しているということで、待遇の改善を図って人材の獲得につなげたい考えです。

また、カプコンは、4月に入社する新入社員も含め、正社員への対応も行う方針です。来年度に平均5%を超える昇給と一時金の支払いを行うほか、2025年度には人事制度を見直し、新入社員と若手社員の間で給与の逆転が原則、起きないようにしたいとしています。

各社で相次ぐ初任給の引き上げの動き。

急な初任給の引き上げは、それまでに入社した若手社員との給与水準の逆転現象を招きかねない可能性もあります。ポジティブな受け止めの一方で、SNSでは不満の声もあがっています。

初任給を上げた結果、5~9年目社員が新入社員と給料が変わらないことに怒っている

新入社員と先輩社員の給料が100円違いになった

働く人の「納得感」を伴った賃上げが実現できるかどうかが、今後も課題となりそうです。