東日本大震災から13年 岩手 宮城 福島 1000人アンケート

東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故の発生から、まもなく13年です。

被災地では防潮堤などハード面の整備がおおむね完了した一方で、被災者の心のケアなど国によるソフト面の支援が継続しています。

NHKは今後の支援や被災地のコミュニティーづくり、経験や教訓の伝承などについて、被災地で暮らす人たちにアンケートを行いました。
(東日本大震災13年 被災地アンケート取材班)

<アンケート方法>

NHKは先月、岩手・宮城・福島の沿岸と原発事故による避難指示が出された地域に住む20代から60代の1000人にインターネットでアンケートを行いました。

<アンケート結果>

全体の8割が “何らかの国の支援が必要”

【これまでの国からの支援が十分かどうか】
「どちらとも言えない」…48%
「不十分だと思う」…32%
「十分だと思う」…19%

【今後も国からの支援が必要か】
「特に支援する必要はない」…16%
「重点的な支援が必要だ」…30%
「重点的でなくても支援自体は続けるべきだ」…54%
全体の8割以上の人が今後も何らかの支援が必要だと答えました。

支援が必要だと答えた理由(複数回答)
「震災の影響で地域経済の厳しい状況が続いているから」…50%、
「町が震災前のにぎわいを取り戻していないから」…37%、
「被災者への心のケアが必要だから」…36%など

【支援を求めている人の自由記述】
岩手県宮古市の男性(59)
「心に負った傷はなかなか癒やされない」
岩手県野田村の女性(61)
「何十年に一度という大きな被害を受け回復に向かっているとは言え100%ではない」
岩手県久慈市の男性(56)
「少子高齢化が深刻化するなか、新たに整備された道路なども徐々に古くなり、維持管理の負担が心配だ」

地域・被災者どうしの交流 3割が“減少”回答

被災者の心のケアやコミュニティー作りなどソフト面の対策を継続していくとした「第2期復興・創生期間」が2021年度に始まって3年となるなか、被災者同士の交流や地域のコミュニティー作りの活動状況について聞いたところ、「変わらない」が56%だった一方、「やや減った」が18%、「減った」が16%となり、3割を超える人が減ったと回答しました。
【減った理由(複数回答)】
「新型コロナウイルスの感染拡大のため」…63%
「住民が高齢化し活動が維持できなくなったから」…54%
「人口流出で活動の担い手がいなくなったから」…50%など
【減ったことの影響や懸念(複数回答)】
「町に暮らす魅力が減った」…50%
「伝統芸能など地域の文化が継承できていない」…30%
「震災への思いや被災経験について共有できない」…27%
「地域防災の体制が弱くなった」…26%
「精神的な孤立を感じている」…26%など

社会心理学が専門で震災直後から毎年、NHKのアンケートの分析にあたっている兵庫県立大学の木村玲欧教授は「交流の減少が地域全体の活力や魅力を失わせることにもなるだけではなく、心身の不調にも影響すると被災者自身が感じていることを重く受け止めなければいけない。交流が減り、町の魅力が減る中で、地域の外に出てしまう人も一層増える可能性がある。地域をどう維持していくのか戦略や支援が必要だ」と指摘しました。

福島では 住民の孤立化懸念

福島県の災害公営住宅では、住民の孤立化が懸念されています。

いわき市にある県の災害公営住宅「勿来酒井団地(なこそさかい)」は、原発事故で避難生活を送る145世帯、およそ240人が暮らしていて、4割が1人暮らしの高齢者世帯です。

団地で暮らす住民の交流の場は、毎週水曜日に開かれる「お茶会」のほか、支援団体が月に2回程度開く交流イベントのみです。

お茶会は、新型コロナウイルスの影響で4年近く休止されていましたが、住民どうしの交流が健康面や生きがいのために必要だとして団地の自治会が去年、再開しました。

一方、高齢の入居者の中には体が不自由で参加できずに自室に閉じこもりがちな人もいて孤立をどう防ぐかが課題になっています。

さらに、空き部屋には一般の入居が始まっていて、立場の違う人たちが交流を深めてもとの町のようなコミュニティーを形成していくには限界もあります。

お茶会に参加している双葉町の80歳の女性は「ここに来ないと人と話す機会がありません。顔見知りの人と会うことが今は一番の楽しみです」と話していました。

ただ、住民の間では、生活が再建できるのかや以前のように交流を支えにした健康的な生活が送れるのかなど、震災と原発事故から13年がたつ今も悩みはつきません。

お茶会を開いてきた自治会副会長の松本節子さん(73)は「1人で抱えきれない問題も人に話すことで解決策や糸口が見つかると思う。団地でもとの町のコミュニティーを再生するのは難しいですが、住人どうしのつながりを大切にする気持ちを持つ人たちでなんとか活動している状況です」と話しています。

【動画】「1人で抱えきれない問題もある」

約1割が今も「震災の経験を話せない」

自宅が損壊したり家族や友人を亡くしたりした被災経験のある735人に自分の経験を周囲の人に話しているか聞きました。

その結果「聞かれても話さない」が6%、「まだ話せていない経験がある」が5%となり、あわせて1割の人が発災から13年がたつ今も震災の経験を話すことができないことがわかりました。

「聞かれれば話している」と答えた人が64%、「以前は話していたが今は話す機会がない」が21%、「以前は話せなかったが最近になって話せるようになった」が2%となりました。

【回答した人から寄せられた意見】
仙台市若林区の男性(66)
「つらい気持ちをまだ整理できていない」
福島県南相馬市の女性(51)
「考えるだけでフラッシュバックする」
福島県いわき市の女性(35)
「時間が経過して、悲しみもあるがよかった思い出も話せるようになった」

震災 経験していない人の語り部活動 6割余が評価

【語り部の活動について】
震災を経験していない人たちが活動することを「とても評価する」と答えた人が27%、「ある程度評価する」が35%と、評価するという回答があわせて62%にのぼりました。

【その理由(複数回答)】
「震災の経験や教訓を未来に伝え続けていくことは意義があるから」…79%
「今後被災地でも未経験者が増えていくから」…56%
「被災者も高齢化が進み語り部のなり手がいないから」…30%など

岩手県大船渡市の女性(59)
「何度も伝え聞いたことはいざというときに行動することができる」
岩手県釜石市の女性(65)
「ほかの地域の災害でも教訓を生かしてほしいから」

兵庫県立大学の木村玲欧教授は「発災から13年がたっても自分の経験を話したくない人がいる現状を受け止め、必要であればケアしていく必要がある。一方で、震災から時間がたち、話す機会が無くなった人が出てきたことは、記憶や教訓を伝承していくことが今後がいまよりも難しくなっていくかもしれない懸念が浮かび上がった形だ。経験の有無にかかわらず世代を超えて伝えていくためにも、地域における教育や防災訓練の枠組みの中にしっかりと根づかせて地域の防災力の向上につなげていくことが重要だ」と指摘しています。

原発事故 廃炉作業に伴う処理水放出後の「風評被害」は

「あった」と回答した人は全体の5%にとどまりましたが、自由記述では差別やいやがらせを受けたという深刻な声が複数寄せられました。

仙台市宮城野区の女性(46)
「福島に近い地方の野菜や魚が売れない」
福島県いわき市の女性(41)
「職場に中国から迷惑電話が来た」

《専門家》今後も必要な支援継続を

兵庫県立大学の木村玲欧教授はアンケートの結果を受けて、今後も被災地への支援が必要だと指摘しています。

「震災13年でハードの復興支援はめどがたったが、復興の最終的な目的は人々の人生の再建だ。心のケアや町のにぎわいづくりなどソフト面での支援はまだまだ必要だが、国の予算も減少していて足りない状況なのではないか。交流の減少による地域社会の維持の課題や被災者の心身への影響、伝承の機会の減少など新たな問題も出ていて、被災地で暮らす人たちがどんな支援を求めているか今後も確認をしながら継続的に行っていくべきだ」

(盛岡局 仲沢啓/仙台局 川本聖/福島局 金澤隆秀/報道局社会部 市毛裕史)