【解説】アメリカ大統領選 現地の受け止めは?今後の展開は?

秋のアメリカ大統領選挙に向けた野党・共和党の候補者選びは大きなヤマ場となるスーパーチューズデーを迎え、トランプ前大統領は15州のうち14の州で勝利を確実にし、指名獲得に大きく前進しました。

現地の受け止めは?今後の展開は?詳しく解説します。

【現地記者解説】トランプ氏 指名獲得へ前進 受け止めは?

ワシントン支局の有岡加織記者に聞きました。

Q.今回の結果はアメリカではどのように受け止められていますか?

A.トランプ氏が党の指名獲得に大きく近づき、共和党の候補者選びはほぼ勝負がついたとの受け止めが広がっています。
ヘイリー氏は選挙戦にとどまるかどうか明らかにしていませんが、トランプ氏はこのままいけば今月半ばには党の指名獲得に必要な過半数の代議員1215人を確保する見通しになっています。

大統領選挙は11月に

Q.11月の本選挙に向けてトランプ氏はこれで盤石の態勢を築いたと言えるのでしょうか?

A.そうとは言い切れません。15州のうち、トランプ氏が唯一、ヘイリー氏に敗れたバーモント州は、リベラル色の強い土地柄で、予備選挙は共和党員でなくても投票できる仕組みになっています。
ここでヘイリー氏に敗れたことは、トランプ氏が共和党内の穏健派や無党派層に支持を広げられていないことを示すものだとみられています。
本選挙で勝つためには穏健派や無党派層の支持も必要になることから、トランプ氏の弱点が浮かび上がった形です。

また、トランプ氏は4つの刑事裁判と複数の民事裁判を抱えています。これまでも多額の弁護士費用を自らの政治資金管理団体から拠出していますが、今後も本来なら選挙に投じられる資金を裁判費用にまわさなければならないかもしれません。
これまでの世論調査では仮にトランプ氏が刑事裁判で有罪になれば、トランプ氏への支持を考え直すという人も一定数いて、裁判の行方が選挙戦に影響を与える可能性もあります。
スーパーチューズデーで圧勝を果たしたトランプ氏ですが今月25日には不倫の口止め料をめぐる刑事裁判の初公判が予定されていて、課題も抱えながらの選挙戦が続くことになります。

【デスク解説】バイデン氏VSトランプ氏?どうなる

仮にバイデン氏とトランプ氏の対決になった場合、大統領選挙はどうなるのか。国際部・石井勇作デスクの解説です。

Q.最新の世論調査では全米の支持率の平均を見ると、トランプ氏がバイデン氏をわずかに上回っています。バイデン氏とトランプ氏の対決をどう見ますか?

A.今回は、大きく言えば、アメリカの民主主義の根幹が問われる選挙になると言っていいと思います。トランプ氏は前回の大統領選挙の結果を否定し、これに同調する支持者が選挙結果を確定する手続きを進めていた議会に乱入するという前代未聞の事態が起きました。
選挙での自身の敗北を受け入れない候補者が再び同じ相手と争う構図になれば、どのような結果になろうと双方の支持者が結果を受け入れることができるのか、不安も渦巻いています。

バイデン氏は今回の選挙を「民主主義を守る戦いだ」と訴えていますが、アフガンや中東をめぐる外交・安全保障政策への批判、年齢や健康への不安、そして経済政策への有権者の不満と、不安要素が多くあります。
こうした中で、トランプ氏は現状への不満を巧みにすくい取り支持を固めていて、トランプ氏の再登板の現実味が増しているという受け止めが広がっています。

Q.トランプ氏は中国からの輸入品に60%を超える関税をかけることを示唆したほか、ウクライナ支援では、アメリカの負担に不満を述べています。さらに、NATO=北大西洋条約機構の加盟国の首脳に対し、「十分な軍事費を負担しなければ ロシアに攻撃を促す」と発言していました。
本選挙の結果しだいで、世界情勢に大きな影響を及ぼすことになりそうでしょうか。

A.バイデン氏の再選であれば政策は基本的には現在の延長で、国際協調、同盟重視という姿勢は変わらないと見られます。
一方、トランプ氏が大統領の座につけば、アメリカ第1を掲げ、再び内向きで、自国の利益を最優先にする姿勢を隠すことなく打ち出すとみられます。

キーワードは「ディール(取り引き)」で、それは外交、安全保障政策についても例外ではありません。
ウクライナへの支援の縮小やNATO加盟国への負担増の要求、輸入品への一律の課税、そして日本など同盟国との関係への影響は避けられないとみられます。
アメリカが専制主義国家と位置づけるロシアや中国などは、こうしたアメリカの動向を注意深く見ているはずです。

今回の選挙は、民主主義国家のリーダーを自負し、世界の安定に大きな役割を担ってきたアメリカの有権者が、より内向きな姿勢を強めるという選択をするのかという意味でも、大きな意味を持つ選挙になります。