石川 珠洲の総合病院 地震で外来患者数半減 厳しい経営状況に

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市で唯一の総合病院は、地震のあと外来患者の数が半減するなどして今年度、大幅な赤字が見込まれる厳しい経営状況となっています。

「珠洲市総合病院」は内科や外科、小児科など13の診療科で163の病床がある市内で唯一の総合病院です。

地震の影響で、90人いた入院患者は別の病院に転院するなどして20人近くにまで減っているほか、外来患者も地震前は1日450人程度でしたが、住民の避難に伴ってその半分ほどに減少しています。

病院によりますと、昨年度までの4年間は黒字経営を続けていましたが、今のままの状態が続けば、今年度は収益から人件費などを差し引いた収支でおよそ7億円から8億円の赤字が見込まれるということです。

珠洲市では、病院を含むほぼ全域で断水が続いていて、病院は断水が解消されれば入院患者を40人まで増やしたいとしています。

しかし、職員の15%余りがすでに退職したり、退職の意思を示したりしているほか、自宅が被災し病棟や避難所で寝泊まりしながら仕事を続けている職員もいて、患者の受け入れをどこまで増やせるかが課題となっています。

珠洲市総合病院の石井和公事務局長は「地域医療の拠点なので、どういう形であれ診療は継続しなければなりません。安定的な予算が必要で国や県にも長期的な支援を求めたいです」と話していました。

避難生活続けながら働く看護師「地域の医療守るため頑張りたい」

珠洲市総合病院では地震から2か月がたったいまも多くの職員が避難生活を続けながら仕事にあたっています。

このうち、菊谷祐介さん(40)は19年前からこの病院に勤めていて、外来や手術室で医師とともに患者のケアにあたってきました。

地震後、初めて出勤した1月3日は地震でけがをしたり体調を崩したりした患者で診察室があふれる状況でしたが、それから2か月がたち、今は落ち着いて仕事に臨める状況だということです。

気がかりなのは、同僚の看護師が1人、また1人と病院を去っていってしまうことです。

いずれも避難に伴って仕事を続けられなくなったという事情で、地震の前に125人いた看護師のうち22人が退職したり退職の意思を示したりしているということです。

断水が続くなど生活環境は依然として厳しく、菊谷さん自身も家族のことを考えると珠洲市に残るかどうか悩む気持ちもあるといいますが、ふるさとの医療を支えたいと病院に残る選択をしました。

菊谷さんは「地震と津波で多くの家が倒壊していて今後、珠洲市がどのように復興していくのか、なかなか見通しは立ちませんが、自分ができるのは医療を支えることなので、この地域の医療を守るために頑張りたいです」と話していました。

専門家「国や県の責任で財政的な支援が必要」

地域医療に詳しい産業医科大学の松田晋哉教授は、能登地域の病院の現状について「この地域はもともと人口が減り医療や介護のニーズも減少していましたが、今回の地震でそれがさらに加速してしまう状況になっています。緊急事態なので病院が借金して赤字を賄うのではなく、国や県の責任で財政的な支援をする必要があります」と指摘しました。

そのうえで今後、必要な対策について、「1番大切なのは今の急場をしのいだ後、持続的、継続的に地域の医療をどう守っていくかということです。地域の医療が安定しなければ、人口の減少に拍車がかかってしまいかねません。能登地域は観光の面でも魅力的な町がたくさんありますが、医療や介護などの体制が整っていなければ維持するのは困難です。10年後、20年後にこの地域でどのような医療が必要か、長期的な目線に立ってバランスを考えながら整備することが大切です」と話していました。