【解説】“反米”のイランで存在感を高める強硬派の政党とは

イランでは今月1日議会選挙の投票が行われました。

現政権の外交や軍事政策を支持する保守強硬派が勢力を拡大する見通しで、反米路線が強まるものとみられます。

こうした中、今注目されているのが、反米・反イスラエルを掲げる保守強硬派の中でも強硬色が一段と濃い、勢力の台頭です。

革命防衛隊とつながりが深く存在感を高めている強硬派の政党を、テヘランの土屋支局長が取材しました。
(3月1日 国際報道2024で放送しました)

※動画は21分09秒。記事の内容に加えて、イランで“スパイの巣窟”とされた旧アメリカ大使館などでの取材報告もご覧いただくことができます。データ放送ではご覧になれません。

議会で存在感「イスラム革命永続戦線」

イランの国内政治で一層影響力を増しているのが、イスラム革命で誕生した現体制を守るためにつくられた革命防衛隊です。

保守強硬派で議会トップのガリバフ議長ももとは革命防衛隊の司令官でした。今回の選挙で、保守強硬派の中でも、より先鋭的な政党と手を組むことにしました。

その政党は、「イスラム革命永続戦線」。欧米と対立を深めるライシ政権と立場が近く、このところ、議会で存在感を増しています。

革命防衛隊の出身者が多く所属し、元司令官の幹部は、現体制の維持を最優先に、投票を呼びかけました。

イスラム革命永続戦線 マフスリ事務局長
「選挙こそが体制を強化し、安定と文明の発展を生み出す」

保守層が多く集まるモスクなどでは、イスラム法学者が、永続戦線の主張を後押しする演説を繰り返しています。

イスラム法学者
「議員たちは何が最も大事な政策で、革命の目的を達成するために、どんなルールが必要か考えている。最適な人物を選べば、すばらしい毎日が待っている」。

集まった人

永続戦線は、2月、さらに若者にも支持を広げようと、党の青年部も立ち上げました。

ガザ地区の情勢などをめぐり、イランがイスラエルやアメリカと対立を深める中、
この永続戦線、外交的にはどのような姿勢で臨もうとしているのか。今回の選挙にも立候補している現職の議員が取材に応じました。

“米さえ介入をやめれば混乱は解消”

イスラム革命永続戦線 アリレザ・アッバーシ議員
「イランが地域を混乱させ、不安定にしているというのは、間違った主張以外の
なにものでもありません」
「アメリカさえ地域から出ていき、介入をやめれば、混乱は解消されるでしょう」

こうした保守強硬派が存在感を増すイラン。今後どのような外交姿勢をとっていくのか、専門家はこう分析します。

「ガザの戦いを無視することができない」

イランの外交アナリスト アフマド・ゼイダバディ氏
「(イランは各武装勢力との関係性や強硬派の存在から)ガザの戦いを無視することができない」

「何もしなければ(内外から)彼らの圧力を受けることになるが、だからといって全面戦争は望まないので、抑制的であろうと努めている」

「保守強硬派の中にもさまざまな勢力があり、考え方も異なる。(柔軟性を持つ人もいれば)より思想を硬化させていく人たちもいるだろう。今後の方向性を見極めるには、どんな人たちが頭角を現してくるかを見ておく必要がある」

【解説】保守強硬派の台頭の背景は

イランでの保守強硬派の台頭の背景について、油井キャスターの解説です。

イランで保守強硬派が台頭してきた背景には、「欧米からの経済制裁」と「イランの穏健派・改革派への失望」。この2つがあります。

アメリカなどは、2002年以降、イランが核開発を行っているとして、厳しい経済制裁をイランに科してきました。

その経済制裁に対して、欧米との協調路線で解決を目指したのが、イランの穏健派・改革派です。前の政権で穏健派のロウハニ政権は、欧米との交渉を重ね、2015年には核合意が成立し、一時は経済制裁の解除にこぎ着けました。

しかし、アメリカでトランプ政権が発足し、核合意から離脱。経済制裁が再開されたのです。制裁の解除から再開。それはイラン国内では、穏健派・改革派に対する期待から失望へと変わりました。そして、代わって台頭しているのが、保守強硬派なのです。ただ、保守強硬派は、経済制裁解除に向けた道筋を示せていません。

イランは去年、中国が主導する国際的な枠組み「上海協力機構」に加盟したほかことしからは、中国、ロシア、インドなどで構成されるBRICSにも加盟しています。イランとしては、ロシア・中国などに接近することで、制裁の影響を回避するねらいです。

選挙の結果、欧米との関係を重視してきた「改革派・穏健派」の議員が少なくなり、「保守強硬派」の議員が増えれば、反米路線は一層まり、ロシアや中国との関係強化が
加速する見通しです。その結果、懸念されるのは、国際情勢への影響です。

特に、ロシアとの間では、ウクライナで使用するためイラン製の無人機だけでなく、イラン製の弾道ミサイルも供与するのではないかという疑惑があがっています。
イラン製の兵器は、中東各国に存在するイラン支援の武装組織「抵抗の枢軸」に拡散していると指摘され、イランと欧米の対立が、外交的な対立を超え軍事的な衝突につながる
危険性もはらんでいます。一方で、忘れてならないのは、イランの一般の人達、国民全員が、こうした保守強硬派の路線を必ずしも支持しているわけではないという点です。

今回の選挙は、ライシ政権が進める保守強硬派路線に対する「信任投票」と言える選挙です。それだけに、投票率は極めて重要で、その結果をライシ政権がどう受け止めるのかが、最大の焦点となりそうです。