日産自動車に勧告へ 公取委 下請け数十社に納入代金引き下げ

日産自動車が、下請けの部品メーカー数十社に対し、納入時の代金を一方的に引き下げていたことが下請け法に違反するとして、公正取引委員会が近く、日産自動車に再発防止などを求める勧告を行う方針を固めたことが、関係者への取材でわかりました。違法に差し引いていた代金の総額は、およそ30億円にのぼるとみられるということです。

公取委が勧告へ 日産自動車が下請け法に違反

関係者によりますと、日産自動車は、タイヤホイールなどを製造する下請けの部品メーカー数十社に対し、事前に取り決めた納入代金から一方的に数%を差し引いて支払っていたということです。

部品メーカー側に対する日産自動車のこうした対応は少なくとも数年間、続いていたとみられ、納入時の代金から差し引いていた金額の合計はおよそ30億円にのぼるということです。

下請け法は、下請けに責任が無いのに発注側が一方的に代金を減額することを禁止していて、公正取引委員会は近く、日産自動車に対し、再発防止などを求める勧告を出す方針を固めたということです。

日産自動車は公正取引委員会に対し事実を認め、部品メーカー側に対し、減額していた分を支払ったということです。

原材料価格が高騰する中、公正取引委員会は、発注側と下請けとの間で価格転嫁が適正に行われているか、関係部署の人員を増やすなどして、監視を強化しています。

日産自動車「支払うべき全額を支払い」

日産自動車は「公正取引委員会から指摘、ならびに調査を受け、最終的な結果を待っているところです。これを踏まえ、すでに当社が支払うべき金額の全額について、支払いをさせていただいております」とコメントしています。

林官房長官「下請け法の厳正な執行を含め指導などしっかり行う」

林官房長官は午後の記者会見で「公正取引委員会の案件について、そのプロセス1つ1つにコメントするのは控える。一般論として、必要があれば調査を行い、その結果に基づいて適切に対処していくと承知をしている」と述べました。

また「下請け取引の取引条件の改善については、政府として引き続き、価格転嫁を含む適正化が進むよう、公正取引委員会や中小企業庁による下請け法の厳正な執行を含め、指導などをしっかり行っていく」と述べました。

◇公取委 監視体制を大幅に強化

公正取引委員会は、エネルギー価格や原材料費の高騰で、中小企業や小規模事業者の経営に大きな影響が出ているとして、適正な形での価格転嫁が行われるよう、対策を強化しています。

受注側のコストが上昇しているにも関わらず、発注側が取引価格を従来どおりに据え置いたり、減額したりするなど、中小企業がしわ寄せを受けるケースなどがないか、監視や指導にあたる職員の定員を、おととし以降、60人以上増やして対応にあたっています。

また、企業間の価格転嫁が適正に行われているか、おととし6月から去年5月まで1年間かけて大規模な実態調査を実施し、全国のおよそ8200社に対して文書で改善を求めています。

◇下請け価格転嫁 賃上げに欠かせず 国も支援策

ことしの春闘でも持続的な賃上げにつなげるために下請け企業との適正な取引が求められていて、国も価格転嫁を後押しするためにさまざまな支援策を実施しています。

ことしの春闘では賃上げの流れを中小企業まで広げられるかが大きな焦点となっていて、大企業と下請けとなる中小企業の間での適正な取引が重要だと指摘されています。そのために欠かせないのが価格転嫁でことし1月に行われた経団連と連合のトップ会談では賃上げの勢いを維持するため人件費を含めた価格転嫁の実現に向けて取り組むことで一致しています。

国も中小企業が取引先の大企業に対して価格転嫁しやすい環境づくりを進めようと支援策を実施しています。

公正取引委員会はおととし、価格転嫁が適正に行われているか、のべ11万社を対象に緊急の調査を実施し、価格転嫁に応じていなかったことなどが認められたとして、13の企業や団体名を初めて公表しました。また中小企業が人件費の増加分を価格転嫁できるよう発注側と受注側の双方に求められる行動などをまとめた指針を去年、公表しています。

この中では発注側の企業に対し、中小企業などからの求めがなくても、価格転嫁について定期的に協議する場を設けることなどが求められるとしているほか、転嫁を求められたことを理由に取り引きを停止するなどの不利益な取り扱いをしないことも求めています。

また、中小企業庁は「下請Gメン」と呼ばれる調査員を全国に300人配置し大企業などが中小企業の価格転嫁の要請に適切に対応しているかなどをチェックしているほか、企業が取引先と価格交渉に臨む際のハンドブックの公表や、価格交渉に関する知識や原価計算の方法などを伝える「価格転嫁サポート窓口」も全国47都道府県に設置しています。

さらに今月にも下請けと元請けの取引関係のあり方を定める振興基準の改正を目指していて、人件費について適切に転嫁の協議を行うことや原材料やエネルギーの適切なコスト増加分については全額転嫁を目指すことなどが盛り込まれる予定です。

《日産自動車のこれまでの業績は》

日産自動車の業績は、2019年度から2期連続で最終赤字に陥ったあと、足もとでは一転し、回復が続いています。

日産自動車は、バブル経済崩壊後の販売不振などから深刻な経営危機に陥り、1999年にフランスのルノーからの出資を受け入れて経営の立て直しを図りました。これに伴ってルノー副社長のカルロス・ゴーン氏が日産の最高執行責任者に就任し、翌年の2000年からは社長を務めました。

ゴーン氏は、主力工場の閉鎖や大規模な人員削減など徹底した合理化を進め、1兆3000億円にのぼっていた自動車部門の有利子負債を4年でゼロにし、日産の業績はV字回復しました。ゴーン氏は「拡大路線」のもとで車の販売台数を追い求め、主力のアメリカ市場では値引きを軸に販売を伸ばす戦略を進めます。

しかし、ゴーン氏は巨額の報酬などをめぐって2018年に逮捕され、従来の拡大路線もマイナスに働いてアメリカ市場で販売が低迷。過剰な生産設備の縮小に伴う費用なども計上し、2019年度の決算では6700億円を超える最終赤字に転落しました。

続く2020年度も4400億円を超える最終赤字に。数を求めたいわば「安売り」によってブランドイメージが低下するなか、日産は経営戦略を見直し、1台あたりの利益を増やす「量から質」への転換にかじを切り、工場の生産能力や生産する車種を縮小する方針を打ち出しました。

その結果、2021年度には2155億円の最終黒字に回復。円安の効果に加えて北米と欧州で販売が好調なことから、3月までの今年度1年間の業績予想は、売り上げは過去最高となる13兆円に、最終利益は3900億円になると見込んでいます。