台湾 金門島 漁船転覆後 中国海警局の船 禁止水域周辺を航行

台湾の離島の金門島の沿岸で中国の漁船が転覆し、2人が死亡する事故が起きたあと中国海警局の船少なくとも7隻が島の沿岸に台湾が設定している「禁止水域」の周辺を航行していることが、関係者への取材などで分かりました。専門家は、台湾が設定する水域を否定し、中国の管轄だと主張するねらいがあると指摘しています。

こうした中、金門島の漁業組合の理事長がNHKのインタビューに応じ「平和的に解決し、通常どおり操業できることを望んでいる」と事態の早期の収束を訴えました。

先月14日、台湾の離島の金門島周辺の海域で、台湾当局の取締り中に中国の漁船が転覆し、2人が死亡しました。

台湾当局は、金門島の沿岸に中国船が許可なく進入するのを禁じる「禁止水域」や「制限水域」を設定していますが、事故のあと、中国海警局の船少なくとも7隻がこれらの水域の周辺を航行していることが、関係者への取材や船が発信している位置情報からわかりました。

位置情報では、事故が起きた翌日の先月15日から3日までの間に中国海警局の船7隻が入れ代わりながら島を囲むように航行しているのが確認できます。

先月26日には、4隻の船が制限水域に入り、その内側にある禁止水域に沿うようにして航行していたほか、7隻とは別の中国当局の船とみられる1隻が禁止水域の中を航行していました。

台湾の閣僚は、先月26日に中国当局の船5隻が禁止水域と制限水域を無許可で航行したことを明らかにしています。

事故のあと、中国海警局は金門島周辺の海域でパトロールを強化すると表明していて、船の識別番号から7隻のうち3隻は、砲らしきものを搭載し、過去に沖縄県の尖閣諸島の沖合で日本の領海に侵入したことがある船とみられます。

中国海警局の船 事故後 金門島周辺を航行

中国海警局の船が発信している位置情報では、7隻はいずれも事故が起きる前は金門島から離れた場所や中国の沿岸部にいました。

しかし、事故の翌日の先月15日、金門島の南西およそ110キロの海域にいた1隻が島に向かって北上したあと、「制限水域」の周辺海域にとどまります。

17日から22日にかけては、東シナ海などにいた3隻が相次いで金門島の周辺に向かい、島の南側や東側を取り囲むように航行を始めました。

この3隻は、船の識別番号から砲らしきものを搭載し、過去に沖縄県の尖閣諸島の沖合で日本の領海に侵入したことがある1000トンから2000トン級の大型船とみられます。

25日になると別の2隻も加わって合わせて6隻が島の周辺で航行を繰り返し、このうち4隻は一時、「制限水域」の内側を航行したのも確認できます。

26日にはさらに別の1隻も島の周辺で航行を始め、25日と同じ4隻が「制限水域」の内側をおよそ2時間にわたって航行しました。そして27日から3日までは、これらの7隻の船が入れ代わるなどしながら、周辺で航行を続けているのが確認できます。

専門家“台湾設けた水域否定 中国の管轄と主張するねらいか”

中国と台湾関係が専門の拓殖大学海外事情研究所の門間理良 教授は「今回の事故を利用する形で中国が台湾に圧力をかけ始めたとみるのが素直な見方だ。台湾が金門島の周辺に設けた水域を否定し、中国の管轄だと主張するねらいがあるとみられる」と話しています。

その上で「中国海警局は沖縄県の尖閣諸島の周辺海域にも常時3隻から4隻の船を出していて、構図としてはまさに一緒だ。南シナ海でもフィリピンやベトナムなどに圧力をかけており、東シナ海、台湾海峡、南シナ海で全面的に攻勢に出ている。相手の主張をできるだけ無効化し、中国の海としたいと思っていることは間違いない」と指摘しています。

その上で「今後も常時、数隻の船を金門島周辺の海域で航行させて、台湾側に圧力をかけ続けていくだろう。場合によっては、さらに北方にある馬祖列島周辺などでも同様のことを行う可能性がある」と話しています。

この事故をめぐり、中国当局はこの海域のパトロールを強化すると表明しています。

こうした中、今月1日、漁業組合の理事長で自身も漁業を営む陳水義さんが自宅でNHKのインタビューに応じました。

この中で陳さんは「海に出ると最前線になるので漁民の警戒心は比較的高い。もし、海警局の船や中国の漁船が集まっているのを見かけたら、漁業組合や海巡署に電話してもらうことにしている」と述べ、安全に注意し、漁を続けている事を明らかにしました。

また、一部の漁業関係者は港から離れた海域で漁ができなくなっているということで、陳さんは「中国の海警局の船がパトロールしているとずっと報道されていることは、漁民の気持ちに一定の影響を与えている。この期間の漁民の収入も減っている」と述べました。

そして、今後については、「双方が事態を早く解決し、その時期を示してくれれば漁民は安心できる。平和的に解決し、私たちの地域の漁民が通常どおり操業できるようになることを望んでいる」と事態の早期の収束を訴えました。

金門島の漁業組合は、「両岸関係は敏感な時期にある」として安全に注意して操業するようSNSで呼びかけています。

金門島の漁業関係者「早く収まってほしい」

中国当局が台湾の離島、金門島周辺の海域でパトロールを強化したとする中、地元の漁業関係者からは、事態の収束を望む声が聞かれました。

金門島で10代のころからおよそ60年間にわたって漁業をしてきたという70代の男性は「みんな心配はしていて、漁業組合の理事長からも気をつけるように言われている。早く収まってほしい」と話していました。

その一方で漁への影響については「近海で操業する私たちの漁船への影響はない」と話していました。