ロシア アフリカで準軍事組織立ち上げ 政府主導で利権確保も

ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の死亡から半年余りとなる中、ロシア政府はワグネルが活動を広げてきたアフリカで、国防省傘下の新たな準軍事組織を立ち上げ、現地での活動や利権の確保などに政府主導で乗り出す動きを見せています。

ロシアはアフリカで、これまで民間軍事会社ワグネルを通じて、リビアやスーダン、マリ、中央アフリカなど紛争やクーデターによって国内情勢が不安定な国々に影響力を拡大してきました。

ワグネルが戦闘員を派遣する一方で、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権のアフリカ戦略と密接に結び付きながら暗躍してきたと指摘されています。

しかし、ワグネルの創設者、プリゴジン氏が去年6月に武装反乱を起こし、その2か月後に搭乗していた自家用ジェット機が墜落して死亡する事態となり、アフリカでのロシアの動向が注目されていました。

ロシア政府は去年秋ごろに、ワグネルに代わって国防省の傘下に位置づける「アフリカ部隊」と呼ばれる新たな準軍事組織を立ち上げ、アフリカでの活動や利権を引き継ごうとしていると指摘されています。

アフリカ部隊はマリやリビアですでに活動を開始したとみられているほか、ことし1月には、西アフリカのブルキナファソにおよそ100人の部隊を派遣したと発表しています。

アフリカ部隊は去年12月の時点で、指揮官を含む構成員のうち、およそ半分がワグネルの元メンバーだとみずから公表しています。

一方で、新たな人員の獲得に力を入れていて、SNS上には、「高額な給与」や「医療費などの給付」をうたって人材を募集する広告が頻繁に投稿されています。

アメリカのメディア、ブルームバーグはロシア国防省の関係者の話として、アフリカ部隊は最大で2万人の要員を確保しようとしていると伝えています。

ロシアとしては政情不安が続くアフリカ諸国などに対し、民間軍事会社を間に挟んだ関与から、政府主導のより直接的な関与へと切り替え、影響力を広げていこうとしているとみられます。

専門家“ワグネルが築き上げた利権乗っ取ろうとしている”

ロシアのアフリカでの活動に詳しい専門家は、ロシア政府はアフリカでワグネルが築き上げてきた軍事的、経済的な利権やネットワークを乗っ取ろうとしていると指摘しています。

日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「ロシアの政府と軍が、アフリカに展開していたワグネルの乗っ取りを本気で進めていることが明らかになってきている。民間軍事会社が主導するのではなく、政府が主導することで軍事や情報、それに経済などの活動をより一体化して展開していこうとしているようにみえる」と指摘しました。

その理由について、「ロシアが国家としてアフリカの紛争に介入することは、さまざまなリスクがあるものの、アフリカの少なからぬ国には親ロシアの体制ができていて、金鉱山などからの利益をウクライナでの戦争の軍資金にも充てられている。リスクを上回る利益を見いだしているといえる」と分析しています。

また、小林主任研究員は、テロや治安の悪化に悩むアフリカ諸国にとってもロシアは頼れるパートナーになっているとする一方で、「ロシアが国家として関与することになれば、アフリカの国としてはプーチン政権からお墨付きを得たととらえて、人権侵害につながる活動をちゅうちょしなくなるおそれがある」と述べて、テロ対策の名のもとに市民への抑圧や暴力が助長されるおそれがあると指摘します。

アフリカでは2020年以降、かつてフランスの植民地だった西アフリカの国々などでクーデターが連鎖的に起きていて、その周辺でも政治情勢が不安定となる国が増えています。

小林主任研究員は「西側諸国がクーデターを起こしたり、強権化した国を排除しようとしたりすればするほど、彼らはロシアに近づいていく。そうした国々への関与と対話を継続し、ロシアの介入をはねのける努力を続けていくことが必要となっている」と述べ、日本や欧米などの各国や国際機関がアフリカに関与し続けることが重要だと強調しました。

ロシアとの関係 急速に深めるブルキナファソは

このところ、ロシアとの関係を急速に深めている国の一つが西アフリカのブルキナファソです。

サハラ砂漠の南側のサヘル地域にある内陸国で、人口はおよそ2200万です。

もともと旧宗主国のフランスが強い影響力を持っていましたが、おととし、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立すると、フランスとの関係が悪化し、駐留していたフランス軍の部隊が去年、撤退しました。

代わってブルキナファソ政府が接近したのがロシアです。

去年7月にロシアで開かれたアフリカ諸国との首脳会議では、プーチン大統領とブルキナファソのトラオレ暫定大統領が個別に会談を行い、安全保障や食料問題などでの協力を確認しています。

その後、双方の政府や軍の高官が往来を重ね、ことし1月には、ロシア国防省傘下の準軍事組織「アフリカ部隊」の隊員、およそ100人がブルキナファソに到着し、政府軍の兵士の訓練などを行っています。

先月、NHKの取材班がブルキナファソの首都ワガドゥグを訪れたところ、街のあちこちにロシアの国旗が掲げられ、国をあげてロシアの支援を歓迎している様子がうかがえました。

日中は強い日ざしが照りつけ、気温が40度近くになりますが、日が暮れて暑さが和らぐと、街の広場に連日、ロシアを支持する若者たちが集まります。

若者たちはスマートフォンを使ってSNSの動画中継をしながら、ロシアとの連携がいかに重要かについて主張を展開していました。

参加者の1人は「ロシアからの武器が私たちの国に実際に輸入されてきています。まさに互恵的でウィンウィンの関係です。フランスなどこれまでのパートナーは不誠実で、問題が多かったのです」と話していました。

ブルキナファソの人々がロシアの軍事支援に期待を寄せる最大の理由が治安の深刻な悪化です。

ブルキナファソでは2015年ごろからイスラム過激派が活動を活発化させ、テロや襲撃事件が頻発しています。

世界各地の武力紛争のデータを集計している非営利調査団体ACLEDによりますと、去年1年間でおよそ8500人が殺害されたということです。

また、住む家を追われて国内で避難している人も200万人を超えています。

ワガドゥグの郊外で避難生活を続けているベレム・アダマさん(37)は、ことし1月に住んでいた村が過激派に包囲されました。

すぐ近くの集落が襲われ、村人が殺されたり家に火をつけられたりしたため、家族を連れて着の身着のままで村を離れたといいます。

アダマさんには3人の妻と15人の子どもがいますが、避難場所では、時々入る日雇いの仕事以外に収入はなく、食料を確保するのにも苦労しています。

そのため、大人は1日1食ほどで我慢し、子どもになるべく多く食べさせるようにしているということです。

アダマさんは「家畜の牛やバイクもすべて村に残し、せめて命だけでも守ろうとここに逃げてきました。ロシアがテロリストとの戦いを支援し、皆が早く自分の村に戻れるようになってほしいです」と話していました。

安全保障の専門家で、トラオレ暫定大統領のアドバイザーも務めているサミュエル・カルクームド氏は「ロシアとの協力関係は非常に重要で、われわれの軍はそのおかげで高性能の武器を備え、よりよい訓練も受け、テロと戦えるようになっている」とロシアとの関係を高く評価しています。

一方で、マリや中央アフリカなどの周辺の国では、ロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊が市民の殺害に関与したなどと指摘されていることについては、「テロとの戦いにおいては、残虐な行為が行われることも、その国の人々が支持しているのであれば、仕方ない場合もある。ただ、われわれが協力しているのはよう兵部隊ではなく、ロシア政府と軍なのです。それが政府の方針です」と話していました。