志賀原発モニタリングポスト 地震でデータ欠測 電源対策に課題

能登半島地震のあと、石川県志賀町の志賀原子力発電所周辺に設置されたモニタリングポストの一部で、事故の際に住民の避難を判断する放射線量のデータが、一時、得られなくなりました。
これについて原子力規制庁などが調べたところ停電に備えて測定を続けるためのバッテリーは設置していた一方で、通信機器の非常用電源が確保されていないなど、対策上の課題があった可能性があることが分かりました。

石川県は、志賀原発で事故が起きた際に住民避難などを判断するため、放射線量を測定するモニタリングポストを96か所設置していますが、ことし1月1日に発生した能登半島地震のあと、最大16か所で一時データが得られなくなりました。

これらは、有線回線と携帯電話回線で通信手段を二重化していましたが、これまでの調査で停電などによる通信障害で、データを送れなくなったとみられています。

通信障害の原因について原子力規制庁や石川県が詳しく調べたところ、16か所のうち簡易型の14か所では、停電に備えて放射線量の測定を続けるためのバッテリーは設置していた一方、有線回線で通信するためのルーターと呼ばれる機器の非常用電源が確保されていなかったことが分かりました。

残る2か所はルーターにも非常用電源が確保されていましたが、地震の影響でケーブルが切断され、結果的に16か所すべてで地震発生直後から有線回線が使えなくなっていたとみられます。

さらに、データの送信状況を分析すると
▽16か所のうち10か所は地震直後に通信が途絶えていた一方
▽ほかの6か所では翌日の未明から2日後にかけて徐々に通信できなくなっていました。

こうした違いは、バックアップである携帯電話回線の状態を示していて
▽10か所では基地局どうしを結ぶケーブルが切断されたとみられるほか
▽6か所は携帯電話会社が管理する基地局の非常用電源が枯渇したとみられるということです。

モニタリングポストをめぐっては、2018年の北海道胆振東部地震でも泊原発の周辺でデータの欠測が相次いだことから、原子力規制委員会が非常用電源の整備や、通信回線の多重化を各自治体に求め、対策が進められていました。

原子力規制庁は、対策上の課題があった可能性があるとして、電源供給対策の改善や通信事業者に頼らない独自の通信手段の確立を進めたいとしています。

国が求める通信手段の多重化 各自治体の状況は

原発周辺に設置するモニタリングポストをめぐっては2018年の北海道胆振東部地震でも泊原発の周辺でデータの欠測が相次ぎ、国が各自治体に対して通信手段を多重化するよう求めていました。

具体的には、主に地上の光ファイバーなどの有線と、携帯電話などの無線、それに、人工衛星を使う衛星という3つの通信手段を組み合わせることになりますが、どの方法を採用するかは各自治体が地域の実情に応じて判断することになっています。

これについてNHKは、対策が求められている原子力発電所から30キロ圏内に含まれる21の道府県に多重化の方法を取材しました。

その結果、福島、新潟、静岡、愛媛の4県では、一部のモニタリングポストで有線、無線、衛星の3種類の回線を整備して、通信手段を3重化していました。

また、12の道府県では、すべてのモニタリングポストで、2重化の手段として、有線または無線と衛星を組み合わせていました。

一方、石川県を含む5つの県では、有線と無線で2重化していました。

衛星通信を採用していない理由について石川県は
▽雨や雪など天候の影響を受けやすいほか
▽通信の混雑状況や
▽アンテナのずれによって使えなくなるリスクがあるためだとしています。

実際、今回の能登半島地震でも、石川県や富山県がデータが得られなくなった場所に衛星通信を使った代替設備を設置しましたが、通信状況が不安定になる時間帯が確認されたということです。

通信の信頼性向上へ “独自通信システム”導入進める方針

モニタリングポストの通信の信頼性を向上させるため、原子力規制委員会は自治体や研究機関に予算措置するなどして、民間の通信事業者に頼らない通信システムの開発や導入を進める方針です。

この通信システムは「LPWA」と呼ばれ、低い消費電力で広い範囲の無線通信ができることが特徴です。

モニタリングポストなどにあらかじめ中継機を設置して網目状のネットワークを作っておくことで、災害で一部の機器が使えなくなっても、自動的に利用可能な機器を選んでデータを送ることができると期待されています。

通信できるデータの容量は小さいものの、環境がよければ10キロほどまで電波が届くということで、島根県では今年度からLPWAを試験的に導入し、有効性が確認できれば、利用を拡大していきたい考えです。

島根県原子力環境センターの田中孝典課長は「LPWAは機材も非常に安価なうえ、職員でも簡単に修繕したり、拡張したりできるので、良さがわかればどんどん拡大したい」と話していました。

また、2月27日には、「LPWA」の通信機能を備えた持ち運び可能な測定機器を開発しようと京都大学のメンバーが島根県松江市で実証実験を行いました。

実験では、放射線測定器が付いた中継機を市内10か所に500メートル間隔で設置し、測定したデータが中継機を経由して県の施設に送られてくるかどうか確認していました。モバイルバッテリーなど簡易的な電源があれば、半日ほど通信可能だということで、災害時にデータの送信が困難になった地域に緊急で設置して使うことを想定しているということです。

実験を行った京都大学複合原子力科学研究所の谷垣実助教は「今回の能登半島地震ではモニタリング機器そのものはうまく機能していたと思うが、情報をいかに集約するかという点で工夫が足りなかった。民間事業者のインフラが被災した時のため、自分たちの通信網を構築できる技術が必要だと思う」と話していました。