大学生の就職活動 本格的スタート “早期化の傾向強まる”

来年春に卒業する大学生などの就職活動が1日から本格的にスタートし、企業が参加した合同説明会が各地で開かれました。

合同企業説明会に約280社が参加

横浜市で開かれた合同企業説明会には1日と2日の2日間でおよそ280社が参加し、3000人余りの学生が会場を訪れると見込まれています。

このうち機械メーカーのブースでは、人事の担当者が若手社員が活躍しやすいという職場の雰囲気や在宅勤務などの制度について説明し、訪れた学生がメモをとるなど熱心に話を聞いていました。

就職情報サイトの「マイナビ」が先月、1800社余りに行った調査では「来年春に卒業する学生の採用環境は厳しくなる」と回答したのは76.6%に上り、人手不足で学生を採用する企業が増えていることなどを背景に人材の獲得競争が激しくなっているということです。

機械メーカーの人事担当者は「売手市場と言われる中、人材を確保するのは苦労しています。会社の社会貢献度をアピールして採用につなげたいです」と話していました。

説明会に参加した学生の1人は「さまざまな企業を幅広く見て自分が就職して成長できる企業を見極めたいです」と話していました。

別の学生は「就職にあたって重視するのはその会社の社風です。こうした説明会で社員の方と話をして確かめながら活動を進めたいです」と話していました。

2月1日時点での内定率は23.9%

「リクルート」が来年の春に卒業する大学生およそ1700人を対象に行った調査によりますと、ことし2月1日時点で企業から内定を受けたのは23.9%と、前の年の同じ時期より4ポイント増えました。

内定を受けた学生のうち2社以上の内定があるのは48.3%と、前の年の同じ時期の26.1%と比較して大幅に増えています。

調査した会社は、人手不足の企業が採用活動の開始を早めるなど早期化の傾向が強くなっていると分析しています。

就職活動のスケジュールは

就職活動のスケジュールやルールについては、政府の会議で見直しを含めた検討を進めています。

就職活動のスケジュールやルールは、政府の会議で経済界や大学の関係者と議論しながらその年ごとに決められています。

来年春に卒業する今の大学3年生の就職活動のスケジュールは、
▽企業による学生への説明会などの開始は3月1日以降
▽採用面接の開始は6月1日以降
▽正式な内定日は10月1日以降
となっています。

このスケジュールは前の年から変わっていません。

面接を前倒しする動きも

企業の中には、大学生などが参加しやすいように採用面接を政府のルールに沿って6月に実施するだけでなく、今月にも前倒しして行う動きも出ています。

大手商社の三菱商事では政府のルールに沿ってことし6月に採用面接を実施しますが、それに加え、学生の春休み期間となる今月中旬から下旬にも面接を行います。

このため、先月中旬にエントリーの受け付けを開始したうえで、今週には希望する学生に向けてオンラインで配信する形の説明会を開催しました。

説明会は「女性の活躍」や「自立的なキャリア形成」などテーマが設けられ、学生からチャットで寄せられた質問に社員が答える形式で行われました。

採用面接を3月にも前倒しして行う理由について、春休みの期間に就職活動を終えて学業に専念したい大学院生や、課外での活動で6月に面接を受けることが難しい学生など、多様なニーズに応えることができて学生が参加しやすくなるとしています。

また、3月と6月の面接で、面接の回数や方法などの選考プロセスは同じで、応募に対する内定率なども大きく差がつかないことを想定しているということです。

三菱商事の柏原玲子人事部長は「6月選考だけでは学生のニーズに応えられない。学生は学業が第一で、それを阻害しない形で会社側も選考のタイミングを検討していったほうがいい。学生にも当社にも非常にメリットがある」と話しています。

専門家「柔軟な枠組みへ変化させる必要がある」

リクルートの研究機関「就職みらい研究所」の栗田貴祥所長は、就職活動の現状について「学生にとっても想定以上に就職活動の早期化が起きている状況で、学業にも少なからず影響が出てきているという話も聞く。自己理解を深めきれない中で企業からの内定が出ているので、入社以降にミスマッチが起こる可能性が高まってくることも考えられる」と指摘しました。

そのうえで「スケジュールが目安となって効率的に動きやすいというのは学生も企業にとってもいい部分はある。ただ、これだけ世の中の環境が変化してきて、個人の価値観や動き方も多様になってきている現状をみると、就職活動のルールを柔軟な枠組みへと変化させる必要があると感じる」と述べました。

インターンシップの見直しも

一方で、インターンシップの就職活動への活用のしかたなどは見直されました。

具体的には、インターンシップの期間が5日以上でその半分を超える日数を職場での就業体験に充てていることや、社員が学生を指導し、終了後にフィードバックを行うことなどを条件に、参加した学生の情報を企業が採用活動のための判断材料として活用できるとしています。

また、再来年の春に卒業する今の大学2年生については、企業側が2週間以上のインターンシップを通じて参加した学生の専門性が高いと判断した場合は、採用面接の開始をこれまでの6月から3か月ほど前倒しして春休み以降にできることが決まっています。

就職活動のスケジュールやルールに強制力はなく活動の早期化による実態とのかい離などが指摘されていて、政府の会議は見直しを含めた検討を進めています。

就業体験を充実させて採用につなげる動き

政府がインターンシップのルールを見直したことを受けて、企業の間では就業体験などの内容を充実させるとともに採用につなげようという動きが出ています。

政府が決定したルールでは、来年の春に卒業する大学生などを対象としたインターンシップからは、一定の条件を満たした場合には参加した学生の情報を採用活動のための判断材料として活用できるとしています。

これを受けて大手百貨店の三越伊勢丹は、去年12月からことし1月にかけて大学3年生などおよそ30人が参加して職場での就業体験など5日間のインターンシップを行いました。

この会社では、インターンシップが終わったあとも参加した学生を対象に個別にサポートを続けています。

人事担当者がインターンシップを踏まえて人事からみた評価できる点などを伝えるフィードバックのほか、学生が就職活動に向けて自己分析をしたり、キャリアプランを考えたりする相談に応じたりしているということです。

この会社では、参加した学生の情報を政府のルールにあわせて採用活動に活用するとともに、学生が選考を経て入社を決めた場合には、入社後の育成などにも生かしたいとしています。

インターンシップに参加した大学3年の女子学生は「自分の強みと思っていたアイデア力や企画力をほめてもらえたので、それを活かせる仕事につくのがいいんだという自信にもつながりました」と話しています。

三越伊勢丹ホールディングス人事キャリア部の佐々木大さんは「会社のありのままを知ってほしいし、学生の素も知りたいので、お見合いをするような形でこれから選考を進めていきたい」と話しています。

激しさ増す人材獲得競争

企業の間で人材の獲得競争が激しさを増す中、中小企業の中には当初の計画どおり人材を確保できず、対策を迫られるケースも出ています。

千葉県成田市に本社がある従業員70人余りの建設会社では、ことし春に卒業する学生を対象にした採用活動で3人採用することを目標にしていましたが、選考に応募する学生自体が少なかったことに加え、一部の学生が内定を辞退したため、採用できたのは2人にとどまりました。

内定を出した学生には、内定者の懇談会や地域の祭りへの参加を呼びかけたりして連絡を取ってきましたが、最終的には2人が内定を辞退したということです。

この会社では、来年春に卒業する学生を対象とした採用活動では4人採用することを目標にしています。

こうした中、今回は従来から参加していた理系の学生を対象にした就職イベントに加え、建築や土木関連の企業が集まるイベントにも参加し、自社の業界への関心が高い学生との接点を増やそうとしています。

また、採用のホームページを一新し、社員のインタビューを動画で紹介するなどしているほか、学生とのコミュニケーションをよりスムーズに行おうと通信アプリ「LINE」の公式アカウントの活用も始めました。

メールに比べより手軽にメッセージがやり取りできるということで、会社ではこうした取り組みを通じ、学生の採用だけでなく内定辞退の防止にもつなげたいとしています。

「平山建設」の平山秀樹社長は「人手不足により採用活動には本当に苦しんでいるのが実情です。これまで内定辞退はほとんどありませんでしたが、この1・2年で大きく状況が変わり、危機感を覚えています。長期にわたって人員計画を立てているので内定を辞退されるのは経営的にも厳しいです。学生の今の動きに対応した採用活動を行っていきたい」と話していました。