市場が注目 政策保有株がゼロに! ?【経済コラム】

およそ34年ぶりに史上最高値を更新し、空前の4万円台に迫る日経平均株価。その東京市場で存在感を高める海外投資家が日本企業に関心を寄せる背景に、「政策保有株」の売却など、資本効率を意識した企業経営の広がりを指摘する見方があります。機関投資家からの批判を受けながらも長年続いてきた、資本関係をめぐる日本独特の慣習を、なぜ今、企業は大きく見直そうとしているのでしょうか。(経済部記者 斉藤光峻)

歴史的株高 伸びた業種は

歴史的な株高水準となっている東京市場。

日経平均株価はことしに入り今月1日までに終値で6000円以上上昇しましたが、この間の株価の上昇率の上位を業種別で見ると、高い順に「輸送用機器」「証券商品先物」「保険」となりました。

輸送用機器は円安、証券は新NISA開始が、投資家の業績期待を高める材料となった一方、保険が投資家の注目を集めたきっかけは、皮肉にも、業界をめぐる不祥事でした。

不祥事を機に 政策保有株ゼロへ

去年12月、金融庁は損保大手4社に対し、企業向け保険の保険料を事前に調整していたとして、業務改善命令を出しました。

その中で金融庁は、政策株式の保有割合が保険契約の配分に影響を及ぼす場合があると指摘し、適正な競争を実施するための具体策を立て、数値目標を設定してただちに実行するよう求めました。

先月13日に、鈴木金融担当大臣が会見で、4社に政策保有株の売却を加速するよう求めたことが伝わると、保険業界の株価が大きく上昇。

2日後にはSOMPOホールディングスが、損害保険ジャパンの政策保有株について最終的に残高ゼロを目指すと公表しました。

この動きについて、取材に応じた金融庁の幹部は「政策保有株をゼロにするという錦の御旗を、損保各社が立てるほかないのでは」と指摘していました。

するとその後、ほかの3社も先月末に、政策保有株をゼロにする方針を相次いで示しました

日本で浸透 政策保有株の役割と評価

政策保有株は、取引先との関係の維持・強化などを目的に企業が保有する株式のことです。

取引先と相互に保有する「持ち合い」の場合も多く、買収防衛策としての効果を期待して保有する例もあり、日本企業の間で広く浸透しました。

ただ機関投資家の間では、資本効率を低下させる要因になっているとの指摘が出て、「不透明な取引慣行の象徴」ととらえる見方が広がるなど、厳しい評価も多くありました。

こうした背景もあり、金融庁と東証は、中長期的な企業価値の向上に向けたコーポレートガバナンス・コードの中で、政策保有株について、縮減に関する考え方など保有の方針を開示すべきなどとして、投資家への説明を行うよう企業に求めています。

野村資本市場研究所によりますとバブル期の1989年には、政策保有株を持っている企業の割合が50%程度でしたが、企業統治の改革が進むにつれて保有率は減少傾向で、去年3月には11.7%まで減少していたということです。

加速する政策保有株の売却

さらに、市場では、去年3月に東証がプライムとスタンダードに上場する企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことが、政策保有株の縮減や持ち合い見直しの動きを加速させたという見方が広がっています。

最近では、去年11月にトヨタ自動車が大株主として保有しているデンソーの株式の一部、およそ2900億円を売却すると発表したほか、半導体大手のルネサスエレクトロニクスの株式について、旧親会社のNECと日立製作所がことし1月、三菱電機は先月末に、それぞれすべて売却すると発表しました。

企業の改革期待 今後は?

そこに加えて、冒頭の、金融庁による損保大手への政策保有株の売却加速の要請と、各社が示した保有ゼロの方針。

こうした一連の動きが、投資家に日本企業の変革への期待として映り、日本株上昇の要因の1つとなっていると、専門家は分析します。

野村資本市場研究所 西山賢吾 主任研究員

野村資本市場研究所の西山賢吾主任研究員は、「中には、今も残る政策保有株はどうしても売れないいわば岩盤のような存在だと話す企業もいるが、大手損保の問題を受けて、政策保有株を持つ負の面が目立ち、企業は改めて対応を見直さざるをえないと思う。企業が収益力を高めるために、事業の取捨選択といった資産構成の見直しを進める動きは続くとみられ、政策保有株の売却がさらに進むと思われる」と話しています。

一方、今後については、政策保有株の売却で得た資金の使いみちが肝心だという指摘もあります。

大和総研 藤野大輝 研究員

大和総研の藤野大輝研究員は「企業は売却で得た資金を、生産設備や人的資本など成長投資に回し利益を生み出さなければ、投資家の日本企業への期待は長続きせず、株価の上昇が一時的なものにとどまってしまう」と話しています。

バブル期の史上最高値を更新し、新たなステージに入った日本の株式市場の次なる起爆剤となるか、政策保有株に対する企業の姿勢と行動が問われています。

注目予定

今週は、5日に中国で最も重要な政治日程の1つ、全人代=全国人民代表大会が始まります。

不動産市場の低迷の長期化など、景気の先行きに対する不透明感が強まる中、政府が掲げる経済成長率の目標がどうなるか注目です。

また、日本時間8日に、バイデン大統領が連邦議会で今後1年の施政方針を示す一般教書演説を行う予定です。

ことし秋にアメリカ大統領選挙を控えていて、その発言内容に注目です。